複雑・ファジー小説

Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.34 )
日時: 2016/08/09 18:52
名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)

放課後。野暮用で遅れる白石を置き、弥生と共に帰路に着いていた黒野の姿があった。

「それで空手部の須藤くんとは、もう大丈夫? 」
「まぁ、あれから関わりは無いな。もっとも、遅かれ早かれ喧嘩になるだろうけどよ。」

結局は喧嘩に発展する。そんな事を聞き、弥生は少し物悲しげな表情を浮かべた。

「ねぇ、黒野くん……やっぱり喧嘩しないとダメなの?」

弥生の表情の変化に気づいた黒野は、その言葉を聴き、少々申し訳なさそうな表情を浮かべて答えた。

「弥生の言いたいことは解かるぜ。そりゃ暴力は行けねぇだろうとは思うだろ?」
「うん……いつか黒野くんが、見ていられなくなるほどボロボロになるんじゃないかって思って……。」
「気持ちはありがてぇ。だけどよ、俺はガキンチョの頃に言ったはずだぜ。『最強になる』って。」
「だけど、それはもう小さな頃の話だよ……もう此処で相撲だけに専念してもいいと思うの……。」
「小さな頃……か。」

黒野は何かを思ったかのように、曇りかかった空を見上げる。そして少しの沈黙の後、その口を開いた。

「確かにデケェ夢を持つ奴は、成長すると現実見て捨てる奴が多い。だけど、全員が全員それに当てはまるわけじゃねぇ。中にはそれを捨てずに叶えようともがいてる奴もいる。結局のところ、俺の頭も……その『小さな頃』のまま成長が止まっちまってるんだよ。」
「黒野くん……。」

やはり弥生の言う事に思うことがあったのであろう。今度は黒野も物悲しそうな表情で天を仰ぎ、言葉を紡ぐ。弥生はそれを、ただ心配そうに見つめるしか出来なかった。しかし、黒野はその表情から一転し、笑顔を浮かべると弥生の方を振り向いた。

「だけどまぁ、心配するな。俺はこの程度じゃ、くたばりはしねぇよ。俺には弥生は勿論、相棒もいる。お前らのサポートがあったからこそ、此処まで強くなれたんだ。今更、此処で再起不能になっちまう程、ヤワな体じゃねぇよ。」
「えっ、でも……。」
「どーんとしてろって。心配してくれてありがとな、弥生。」

黒野は弥生の肩を掴んで引き寄せ、笑い声を零す。照れと黒野の笑いに釣られるかのように、弥生も笑った。
その時である。空からポツ、ポツ、と雫が落ちてくる。雨だ。

「えっ? 今日曇りじゃねぇのか? 」

雨はポツ、ポツ、と言うものから、次第に増していき、遂には本降りとなっていった。

「やべぇ! 走れ! 」
「うんっ! 」

濡れない様に急いで走る黒野と弥生。しかし、その間にも雨は勢いを増していく。

「雨強くなってきたよ! 」
「ちぃっ! どっかでやり過ごすしかねぇなこりゃ! 」

どんどん強くなる雨に対し、ずぶ濡れを避けたい黒野は雨宿りする場所を探していた。その時、ある場所が黒野の目に留まった。

「丁度良いや、此処でやり過ごすぞ! 」
「えっ!? ちょっと、此処は……。」
「どーせ雨宿りするだけだ! 濡れるより遥かにマシだぜ! 」

躊躇する弥生の背中を押し、そそくさと『その場所』に入っていく。
その姿を、ある人影が目撃したことに、黒野も弥生も気づく事はなかった。


=第6話 完=