複雑・ファジー小説

Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.35 )
日時: 2016/08/26 23:06
名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)

第7話 電光石火の一撃

どしゃぶりの通り雨の日から一夜が明け、相撲部で黒野は稽古に励み、白石と弥生がその近くで屯していた。

「いや、しかし昨日はとんでもない雨だったね。ダンナたち大丈夫だったの?」
「何とか凌いだぜ。お前は?」
「僕は野暮用あったから学校で雨上がるの待ったけどさ。ダンナたち何処で凌いだのさ。」
「あぁ……それは」

黒野は何処で雨宿りをしたのか、それを白石に伝えるために口を開いた。その時だった。

「黒野……だな……。」
「んっ?」

 黒野たちはその声に振り向く。相撲部の元へ来たのは、須藤であった。須藤は険しい表情を浮かべ、黒野に歩み寄っていく。

「おぅ、どうした須藤。何かすげぇ怖ぇ顔してるが。」
「……黒野、俺が此処に来た理由……解かるか?」
「いや、さっぱりだが? 用件はなんでぇ。」

 須藤はその言葉を聞き、全てを悟ったように瞳を閉じた。

「……最早、何も言う事は無い……貴様を……此処で潰す! 」

 次の瞬間、須藤は構え、一気に黒野の元へ詰め寄り、黒野の側頭部目掛けて上段回し蹴りを繰り出した。黒野は間一髪、強烈な衝撃をまともに受けつつも、それを両腕で受け止めた。

「て、テメェ、いきなり何すんだ!? 」
「それはお前の胸に聞いてみろ! 」

 足を黒野から離し、体勢を元に戻そうとする勢いを利用して横回転。その勢いのまま、手の甲をぶつける裏拳打ちを放つ。黒野は後ろに全力で下がっていき、それを回避する。

「外したか……。」
「おいおい、何だよ! 俺様の胸に聞けだぁ? こちとらお天道様に顔向けできねぇような事はしてねぇぞ! 」
「ほぅ、それならお前は、昨日のにわか雨の時、何処で何をしてた?」
「昨日の……にわか雨だぁ? 」

 黒野はそれを聞き、頭を抑えながら何かを思い出そうとする。そして黒野は、自身の左掌に右拳を『ポンッ』と乗せた。何かを思い出したようである。

「あれか。」
「思い出したようだな……お前がやった事を……。」
「なんでぇ、別にキレる事でもねぇだろ。俺様は弥生と雨宿りしてただけだぜ。別にそれ以外は何もしてねぇぞ。」
「あの場所で雨宿りか……随分と口が回るようだな!」
「俺様はウソはついてねぇぞ!」

 お互いに手を止め、口論がその場で起こされていく。その一方、先ほどの拳劇を見ている事しか出来なかった白石と弥生。口論が始まると弥生は顔を赤く染め上げていた。

「あれ? 弥生ちゃん? 」
「も、もしかして……見られてた……? 」

 口論をする黒野と須藤、そして顔を赤くする弥生、この2つに疑問に思った白石は黒野の方へと歩み寄る。

「あのさ、須藤くん、ちょっと時間いいかな? 」
「構わん。」
「おぅ、どうした相棒。」

 二人の間に割り込むように白石は立ち、黒野に 向けて口を開いた。

「何か、にわか雨の事でひと悶着してるみたいだけどさ……ダンナ、一体何処で雨宿りしたの? 」
「ラブホ。」
「馬鹿じゃないの!? 」

 全ての謎が明らかになった瞬間であった。黒野はあろう事か、弥生と共にラブホテルで雨宿りをしていたのである。

「いやー、支配人が結構いい奴でよ。雨宿りの為に入ったら、タダで部屋貸してくれてな。お前、その後は雨が止むまでポケモンにスマブラにゲーム三昧で楽しかったぜ。」
「そんな所に入ったの見られてんじゃ、こんな誤解生むわけだよ! 」
「解かっただろ……俺が此処に来ているわけが! 」
「あ、あの……本当に何もされてないんです!だから……。」

 何とか須藤の誤解を解こうとして、弥生も須藤の元へ向かい、口を開く。しかし、須藤はそれに対し、首を横に振った。

「解かっている……キミが黒野に脅されて口封じされていることを……。」
「おいおい、人聞き悪いじゃねぇか。別に攻められる筋遭いねぇぞ。なんてったって、俺様はよ……。」

 黒野は徐に歩き出すと、部室近くに新しく植えられた木の細く、よくしなる枝を折り、それを口に入れた。
 口の中でそれをモゴモゴと動かし、口から出すと、その枝は結ばれていた。

「誰がなんと言おうとチェリーボーイ(童貞)なんだからよ。」
「言ってる事と、やってる事が噛み合ってないんだけど!? 」
「これは『来る日に備えて準備中』と言うアピールだ。」
「状況を考えて行動しなよ! そんなもの見せられたら、ますます誤解されるよ! 」
「もう何も語るまい……最後に言い残す事はあるか? 」

 そう言う間にも、既に須藤は構えていた。

「待ってってば須藤くん! 誤解されがちだけど、ダンナはこう言う場所でウソをつくような人じゃ」
「おい相棒。それに弥生。ちょっとだけ悪いが……いいか? 」

 須藤をなだめ様と、白石は何か言葉を繋げようとする。それを黒野は遮るように言い放つ。そして黒野は、須藤に向けて歩み寄る。何も構えずに。
 そして2人は互いに攻撃が届く範囲まで近づいた。しかし、黒野が構えないのは何故か、須藤はそう思った。

「何故、構えない。」
「今、此処で事を交えるつもりはねぇからだ。 」

 黒野は、構えないまま、言葉を続けた。

「お前、俺をそんなにぶっ飛ばしてぇかい。」
「……婦女子にだらしが無い軟派な男、俺が一番嫌いな人種だ。お前は婦女子を押し倒し、あろう事か、如何わしい場所にまで連れ込んでいる。俺がお前を潰すには十分すぎる理由だ。」

 その言葉を聴くと、黒野はどこか諦めたかのように口を開く。

「まぁ、確かにそれらは俺様に原因がある……そこは否定しねぇ。元凶である俺様の言葉は信用できねぇも良い。ただよ、弥生や相棒の言葉を信用しちゃくれねぇかい。」

 黒野の言葉を終えると、白石と弥生は今度こそ、須藤に向けて言葉を紡いだ。

「……そ、そうだよ! 僕が証人になる! 僕はダンナと長く一緒にいるからわかる! ダンナは如何わしいことはやっていない! 出来るはずがない! 」
「私も証人です! 黒野くんは……確かに無茶苦茶だけど、悪い人じゃありません! 私は何もされていません! 」

 2人は必死に言葉を須藤に浴びせる。それに対し、須藤は首を横に振った。

「正直に言えば、君達は正しい事を言っているのは俺でも解かる……しかし、それでも俺は……この男が行った行為を、見過ごすことは出来ん! 俺は何と言われ様が……黒野! 貴様を潰す! 」
「そうかい……そこまで言うなら、俺様ももう止めはしねぇ……。」

 黒野は一つ、深呼吸をすると、右人差し指を天に向けて掲げる。掲げた指を、今度は須藤目掛けて差した。

「テメェがその気なら……一週間後に此処に来い! 俺様は逃げも隠れもしねぇ! 一週間後に此処で勝負してやろうじゃねぇか! 」

 黒野は力強く、宣言した。その言葉に白石と弥生は驚きの表情を見せる。須藤は怯む様子はない。

「逃げるつもりか? 」
「テメェがそう思うなら、そう思っておいて結構。だがな、俺様がこの場で口走るのは事実だけだ。疑ってかかるんなら、一週間後の放課後に来てみろ。俺様は……此処にいるからよ。」

 まだ疑う須藤に対し、黒野は一字一句迷うことなく、全て言い切った。互いに睨みあい、暫くの間、沈黙が走る。

「……その言葉、信じてみる価値がある。解かった。お前の言う通り、一週間待ってやる。」
「あぁ……一週間後、楽しみにしてるぜ。」

 その言葉を聞いた須藤は頷き、そのまま背を向けて去っていった。