複雑・ファジー小説

Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.36 )
日時: 2016/08/28 21:16
名前: 大関 ◆C5p8guYtTw (ID: 9ihy0/Vy)

 須藤が去っていき、黒野も須藤に背を向けて、白石と弥生の元へと戻っていった。

「黒野くん……。」
「とんでもない約束したね、ダンナ。」

 心配する弥生を他所に、白石は黒野を責める様に言い放つ。

「どうするのさ、タップリあった時間が一週間に縮まっちゃってさ。ダンナのことだから、対策考えてないんでしょ? 今回ばっかりは」
「相棒。」

 捲し立てる白石を黒野は一言で止める。その声は何かを決心したような、そんな声だった。

「なんだいダンナ。」
「悪いことは言わねぇ。お前、この喧嘩から降りろ。」
「えっ?」

 黒野の言うことに、白石は耳を疑った。黒野は白石の手を借りずに喧嘩を行うつもりであるらしい。黒野はさらに言葉を続けた。

「この喧嘩の種を撒いたのは俺様だ。それに、今回の相手は空手部全体じゃなくて、正真正銘あいつ一人だけ。お前を巻き込むのは、筋が通らねぇ。」
「……ダンナ……。」
「ついで言うなら、此処まで好き勝手やって、お前に助け求めるのなんざ、あまりにも格好がつかねぇしな。まぁ、安心しとけ、吉報の一つくらいは」
「ダンナ!」

 白石は黒野の言葉を遮る様に叫んだ。その声はかすかに震えており、怒りで満ち溢れているのがわかる。

「……ふざけるのも大概にしてよ……。」
「相棒……。」
「白石くん……?」

 黒野はもちろん、弥生もいつもと違う白石の姿に、戦慄を覚える。それにあまり気にした様子を見せず、黒野は白石に口を開く。

「相棒、別に俺様はふざけちゃいねぇよ。俺様が勝手に売った喧嘩、お前を巻き込むわけには」
「それをふざけてるって言うんだよダンナァ!!」

 白石は腹の底から大声で叫ぶと、懐から特殊警棒を取り出して伸ばし、怒りのままに黒野の頭を思い切り殴った。

「あいたっ! て、テメェ、何しやがんだ!」
「ダンナ……僕を舐めないでよ。」
「テメェ、言いたいことあるなら、ハッキリと物をいいやがれ! 俺様は頭悪いから、察しとかできねぇのは解かるだろうが! もったいぶってんじゃねぇよ!」

 黒野はいきなり殴られたために、怒りと共に混乱も交えて、白石に言い放つ。白石は一瞬、何かを思ったかのように下を向くが、すぐに黒野に顔を向け、口を開いた。

「ダンナ、僕には心から決めている事があるんだよ。」
「そりゃ、一体何でぇ。」
「僕はダンナの不利になるような事を絶対にしないという事だよ。」

 それを聞き、混乱を見せていた黒野は、一気に現実に戻された感覚に陥った。白石は言葉を続けた。

「僕はね、ダンナに借りがあるんだよ。返しても返しきれない大きな借りが。解かるでしょ?」
「それは……。」
「白石くん、もしかしてそれって……黒野君の家に居候させてもらってる事?」
「その通りだよ、弥生ちゃん。」

 白石がなぜ黒野と常に共にいるのか、思えば彼が学浜に来る前に何故黒野と共にアメリカへと渡ったのか。それは簡単である。白石には実の両親がいない。彼が相当小さなころに、亡くなっているのである。故に彼は孤児院で育てられた。その孤児院生活で偶然出会ったのが、黒野一家であったのである。黒野一家と親睦を深めた白石は、黒野の両親の提案で、黒野の家に貰われて行ったのである。
 黒野はその事を思い出し、はっとしたような表情をする。

「僕はダンナの家に貰われていった時から決めてるんだよ。ダンナが僕にいくら不利になるような事をしても、僕はダンナの不利になるような事をしない。僕はダンナの味方であり続けると。」
「………。」
「それに相手が一人だから、自分も一人で挑むだって? 冗談じゃないよ。相手は強すぎる。ダンナをみすみす見殺しにするのなんて、僕の決めたことに反するよ。格好がつかない? つかなくて結構だよ。僕はなんと言おうが、ダンナに協力するよ。だからさダンナ……。」

 興奮しすぎてしまったのか、白石は深く息を吸い、それを一気に吐き出す。そして白石は、小さく口を開いた。

「お願いだからさ……僕を舐めないでよ。」

 白石は己が思った事を全て、言い放った。それに対し、黒野は殴られた箇所を押さえていた手を下ろし、白石に頭を下げた。黒野は言った。

「相棒……俺はお前を軽く見すぎていた……お前を舐めきっていた……こんな俺を許しちゃくれねぇか……。」

 重い口で黒野は白石に謝った。その後、しばらく沈黙が走る。その沈黙は、笑顔を見せた白石によって破られる。

「解かればいいんだよ、ダンナ。さっ、頭あげていいよ。」

 いつもの天真爛漫な口調に戻った白石は、黒野の謝罪を受け入れる。言葉を聴いた黒野は、言われるがままに顔を上げた。

「さぁ、とりあえず対策くらい考えようか。どうせダンナの事だから、考えてないんでしょ?」
「あぁ、その事なんだが……。」

 少々言いにくそうに、黒野は語りかける。白石は中空に疑問符を浮かべ、黒野の顔を見つめていた。

「いやー……威勢よく、啖呵切っといてアレなんだけどよ……実際、相棒を巻き込まなくても、赤の他人一人巻き込んでいたんだよな……。」
「ダンナ? どういう事なのさ。」
「……まぁ、いいか。どーせ、俺にそんな後先のことなんて考えられねぇしな。相棒よ、俺様は既に対策を考えてたんだよ。」
「えっ?」