複雑・ファジー小説
- Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.39 )
- 日時: 2016/12/11 19:32
- 名前: 大関 ◆C5p8guYtTw (ID: 9ihy0/Vy)
黒野が須藤に啖呵を切った日から、一週間が経過した。相撲部部室前、白石と弥生がそこで待っていた。しばらく沈黙が走る。
その沈黙を破るように『スタッ、スタッ』と足音が響く。
「……待たせたな。」
角刈りに剃られた頭髪、年季が入り、多少くすんだ色となった空手着。そう、足音の主は須藤であった。
「やぁ、須藤くん。」
「黒野はどうした?」
「ダンナはまだ来てないよ……まぁ、逃げる人じゃないから、安心してよ。」
白石の言葉を聞いた後、須藤はもう何も喋らず、瞼を閉じて、ただその場に立ち尽くしていた。そして時は過ぎていく。
「……黒野の奴、遅いのぉ。」
「まぁ、逃げないと言っても時間にはルーズそうだしねぇ。」
「ただ待つ。それしかありませんよ。」
「……あのさ、何で番長たちがいるのさ。」
時が過ぎていく中で、相撲部部室前にシートを広げて、観戦する気満々の状態で居座る応援団の3人に、白石は言い放つ。
「そりゃお前さん、こんなオモロい戦いを見逃すわけにはいかんじゃろ。」
「いや、それにしたって」
「須藤、お前さんはワシらが邪魔だと思うか?」
白石の言葉を遮り、重蔵は須藤に語りかける。須藤は軽く重蔵のほうへ向き、口を開いた。
「問題ありません。」
「だそうじゃ。ワシらが居っても居らんでも関係ないわい。」
「……それならまぁ……しょうがないか。」
色々と諦め、白石は再び黒野を待つ。
そして10分が経過したが、黒野は現れない。
「遅い……16時まで後3分だ……。」
流石の須藤も苛立ちを隠しきれず、まだかまだかと待ちわびていた。
その時だった。須藤の視線の先で、土ぼこりを巻き上げながら、走っていく2人組の影が映った。
「うおぉぉぉっ!」
それは紛れもなく、黒野と立花の2人であった。黒野たちはだんだん近づいていく。やがて、全身がハッキリと見えるくらいにまで近づいた時、2人は急ブレーキを掛け、須藤の目の前で止まった。
「ぜぇ……ぜぇ……ギリギリ間に合ったぜ!」
「遅かったな。」
「悪い悪い。」
肩で息をしながら、黒野は軽く須藤に向けて謝罪の言葉を放った後、共に走ってやってきた立花に顔を向けた。
「立花! 最後の調整にまで付き合ってくれてサンキューな!」
「えへへ。黒野先パイ、必ず勝ってよ!」
「勿論でぇ! お前の協力、無駄にはしねぇよ!」
立花は黒野の言葉を聞いた後、白石たちの下へとかけって行った。駆け寄った立花を見て、白石は口を開く。
「あのさ、立花くん。今までダンナと何したの?」
「最後のウォーミングアップだよ。」
「ウォーミングアップねぇ……。」
白石は黒野の方に向く。自信満々そうな顔をした黒野をしばらく見詰めていた。
(ダンナ、僕には分かってるんだよ……どうせキミは当たらなければいいと思っているんだろう。だから立花くんにボクシングのフットワークを教わっていたんだ)
白石は黒野の考えをすでに見破っている。故に一週間仕込んだだけの技術で勝てるとは踏んでいないのである。
「黒ちゃーん!」
「あぁ、菊丸。それに番長たちも。」
「黒野!気張っていったれや!ワシらを退屈させんでくれよ!」
「へへっ……勿論ッスよ!」
番長たち応援団の檄を聞き、黒野はますます気合の入った表情で須藤と合間見える。
「黒野、この場を持ってお前を潰させて貰うぞ……。」
「そう簡単に潰されるほど柔じゃないんでね。」
須藤の言葉と同時に、一触即発の空気を作り出す。
「ゴングの代わりだ。」
黒野は塀に向けて指を刺す。その塀の上には、相撲部の飼い猫であるネコマタが佇んでいた。
「ネコマタちゃんが『ニャア』と鳴いたら、勝負開始だぜ。」
「……解かった。」
二人はその言葉の後、構えを取った。暫くの沈黙が走る。塀の上のネコマタは二人の様子を眺めつつ、前足で頭をなでる。そしてネコマタは口を開く。その口から、『ニャア』と高い泣き声が響き渡った。
「いくぞ黒野!」