複雑・ファジー小説
- Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.41 )
- 日時: 2017/07/07 21:55
- 名前: 大関 ◆C5p8guYtTw (ID: 9ihy0/Vy)
須藤は黒野の突っ張りをすり抜けるように間合いを詰めて密着すると、黒野の頬目掛けてボクシングのフックのような回し突きは放つ。黒野は密着した直後に、須藤の帯を掴んで投げに移ろうとしたが、わずかに須藤の回し突きが早かった。須藤の拳を受け、黒野は怯んだ。
「終わりだ! 黒野!」
そして須藤は怯んだ黒野に左掌を向け、右拳を思い切り引いた。
「白石、あの攻撃は……。」
「まずい……ダンナ! 必殺の正拳突きが来るよ!」
まさしくその構えは、須藤の十八番である正拳突きの構え。その狙いは黒野の顔面であった。
「せいやぁ!!!」
強烈な叫びと共に黒野目掛けて、一撃必殺の正拳突きが今、放たれた。誰もが黒野の負けを確信した。しかし、その直後、周りは衝撃の光景に戦慄した。
それは黒野が須藤の正拳突きを紙一重で回避し、須藤の腕と交差させるように腕を伸ばし、その顔面に渾身の突っ張りを繰り出していたのである。
「ぐぅっ!」
強烈な突っ張りを受け、今度は須藤が怯んだ。直ぐに須藤は体勢を立て直すと、黒野の肩から腕の部分目がけ、中段回し蹴りを繰り出す。それを黒野は足をそのまま踏ん張らせ、上半身のみを後ろに反らせて、それを避けた。さらに蹴りの大きな隙を黒野は逃さない。顔面目がけて突っ張りの連続で殴りつけた。
黒野の攻撃を受けた須藤は大きく距離をとる。黒野は追撃せずに、両掌を顎の近くに置き、足は軽やかなステップを踏んだ構えで須藤を見据えた。
「ねぇ、白石くん……あれって相撲じゃないよね……。」
「その通りだよ弥生ちゃん。あの動きは相撲じゃない……あれは間違いなくクロスカウンターとスウェーバック!つまりボクシングの動きだ!」
先ほどの黒野の繰り出した技術、そして今の構え、どう見てもボクシングのそれである。白石たちはそれに目を見張る。驚くオーディエンスを余所に、黒野は白石に目を向け、口を開いた。
「相棒よ、言っただろ? サプライズってよ。」
「サプライズ……まさかダンナ……ボクシングのフットワークじゃなくて、ボクシングそのものを一週間で学んだっていうのかい!?」
黒野の言葉に対し、白石はさらに驚きの声を上げて立花の方へと顔を向ける。立花は鼻を指で擦りながら、笑顔で黒野を眺めていた。
「まぁ、俺様とて前々からスピードに関しては見直さねぇと思ってたしな……その点を立花に頼んで教えてもらったんでぇ。」
「それでも一週間で出来る動きじゃないよ……。」
「そこが俺様のスゴいところよ! これこそ立花が仕込んで俺様が改良した、俺様作の相撲ボクシングでぇ!!」
高らかに叫ぶと黒野は間合いを詰める。須藤は走り寄る黒野の顔面目がけて足の裏を叩きつけるような前蹴りを繰り出すが、黒野はまたしても見事なスウェーバックでそれを避ける。須藤が足を戻す前に須藤の側面に回り込み、そのままボクシングのストレートのような突っ張りを繰り出す。
須藤は紙一重でそれを回避すると、今度は黒野に密着し、肘打ちを放つ。それすらも黒野はしゃがみこんで回避した。そして黒野が次に繰り出したのは、己の強烈な足腰のバネで瞬時に飛びあがり、須藤の顎に目がけて繰り出されるアッパー気味の突っ張り。以前、立花が見せたカエルアッパーの応用形である。
須藤はそれをとっさに両掌で顎を覆うが、徹底した下半身の強化を施された力士、ひいては特異体質によって普通では比べられないほどの筋肉を持つ黒野の足腰から繰り出されるカエルアッパー(のような突っ張り)の衝撃を到底抑えられるものではない。須藤は大きく弾き飛ばされ、後ろへ倒れこんだ。
「っしゃあ! どうでぇ!」
「………。」
須藤は無言で立ち上がると、腕を曲げたり伸ばしたりして、負傷があるかどうかを確かめた。強烈な突きであったが、その腕は問題なく動く。それを確認すると須藤は瞼を閉じ、息を整えると、再び構えた。
「まぁ、そりゃ立ち上がるよな。まだまだ勝負は始まったばかり。こっからよ!」
構える須藤に向けて黒野は向かっていく。素早いフットワークで須藤を撹乱させるように動き、側面に回りこみ、腕を引いて渾身の突っ張りを繰り出そうとした時だった。『パシンッ』と言う音と共に、黒野は大きく仰け反った。その隙を須藤は見逃さない。一歩踏み込んで、黒野の側頭部目掛け、高速の上段回し蹴りを繰り出した。黒野は咄嗟に頭部を守るように腕を上げ、何とか蹴りをガードしたが、衝撃を抑えられず、地面に座り込むように倒れた。
「のぉ、白石……今のは一体なんじゃ。」
「……秀でてるのは一撃の重さだけじゃないってことかい……今のは空手の『刻み突き』。ボクシングで言うところのジャブさ。威力は段違いだけど。」
空手は一撃必殺を目標に掲げているが、何もそれは威力だけではない。空手はポイント制の競技も存在し、如何に相手が裁けない速さで正確に突きを打てるかと言う状況も想定されている。それ故に『一撃の重さ』も勿論重要だが、『一撃の速さ』も含めて『一撃必殺』と成しているのである。
「確かに不意は突かれたが、所詮は付け焼刃。種が割れれば如何と言うことは無い。」
黒野を見下ろして言い放つ。黒野はすぐさま立ち上がり、再び構える。それは先ほどと同じ相撲ボクシングの構え。見破られてなおも、これで挑むつもりだ。