複雑・ファジー小説
- Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.6 )
- 日時: 2017/12/10 16:41
- 名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)
「おらぁっ! お望みどおり相撲部部長の黒野卓志が来てやったぞっ!!」
屋上への扉を蹴破り、黒野と白石は屋上に足を踏み入れる。そこには鉄パイプで武装した不良達が集まっており、その中心には恐らくはリーダー格であるソフトモヒカンの男が佇んでいた。
ソフトモヒカンの男は黒野の方へ、黒野もまた男の方へと歩み寄っていく。
「テメェが部室破壊した奴だな?」
「おぉ、もちろんよ。名乗って無かったな。俺は高山 安則。ここいらじゃ……。」
一瞬の間をおき、高山は黒野に向けて拳を振るう。その拳は黒野に目の前、紙一枚分と言うくらいギリギリの所で止められる。それを察知していたのか、それとも精神が図太いだけなのか、黒野は動じない。その黒野の目に映ったのは只の拳ではない。その拳には明らかに何かを装着されていたのである。
「『ブラスの鬼』って呼ばれてるんだ……」
「ブラスナックル(メリケンサック)か…アメリカでよく見たぜ。懐かしいってもんよ」
高山はその拳を開き、黒野を手招きして挑発する。その直後に今度は掌を下に向け、先ほどとは反対にあっちいけというようなジェスチャーを見せた。
「ほらよっ、逃げるんなら今のうちだぜ?当たったらタダじゃ済まないんだからよ」
さらに挑発まで投げかけ、黒野を煽っていく。
それに構わず黒野は気合入れの意味を籠めて四股を踏み、顔をパシンと叩き、地面に拳をつける。要するに相撲の立ち合いの姿勢である。
「テメェみたいに実力の無いくせに悪知恵と口が回るようなカスが、己の身の程を知らずに無様に負けることを想像出来ない……違うか?」
「んだとコラ……」
「こんな野郎に金星渡す程、こちとら半端な稽古は積んでねぇよ。構えな」
「……上等だぜ」
一方の高山もボクシングに似た構えを取った。いよいよ喧嘩開始である。
「ほらよっ!」
先ず黒野は、その体勢から強烈なぶちかまし(頭や肩でぶつかる体当たり)を繰り出す。しかし、相手もこれを簡単に受けるわけはない。
「単純単純。相撲は最初は突っ込みからはいるからな」
高山は大きく横に移動して回避し、黒野は大分進んだ場所で急停止して振り向いた。振り向いた直後に高田のブラスナックルが映る。黒野はそれを突っ張りでカウンターを取ろうとするが、相手のほうがリーチが長かった。
「そして相撲にパンチもキックもねぇ!あるのはリーチが短く、威力の出ない掌だけだ!」
意気揚揚と相撲の欠点を語り、黒野の顔面に見事ブラスナックルをぶち込んだ。
「ギャッハッハッ!どうだ!これが俺の実力よ!」
十分に力を籠めて繰り出し、確かな手ごたえを感じ取る。まさしく最高の一撃。有頂天になった高山は高笑いをする。
「さて……付き添いよぉ、テメェも生きて返さないぜ?」
「ふぅ……よそ見は厳禁だよ」
「あん? 俺の勝ちだろ?」
「君は確かに相撲の欠点知ってるみたいだけどさ、相撲の長所も見た方がいいよ。相撲は150㎏から200㎏ほどもある人達相手に頭からぶつかりあう……その瞬間的な威力は2t。つまりさ……」
その先を話す前に黒野は相手の腕を払いのけた。その顔は多少鼻血が出た程度であり、全く通用していない。鼻血を払いのければ不思議も不思議、まさしく無傷の状態である。
「そんなモン効くか」
「この通り、半端な攻撃じゃ動じない」
「抜かせコラ!」
高山は屋上の入口付近の壁をブラスナックルで殴打した。殴られた箇所はものの見事に砕けており、ブラスナックルの威力を物語っている。
「このコンクリも壊すブラスナックル!この程度で済んでたまるか!」
そのブラスナックルを装着した腕を振りかぶって黒野の方へ走り寄る。そしてその拳を黒野の顔面をしこたま殴りつける。5発、6発、7発と留まることなく。
「ヘヘッ…どうだ!」
その腕を黒野から離し、その顔を拝む。黒野の顔面はやはり鼻血が多少垂れているだけであり、それ以外に関しては全くの無傷であった。その鼻血に関しても軽く拭きとられ、何事もなかったかのような表情で黒野は高山を睨む。
「な……なっ……!?」
「ブラスナックルなんざアメリカのストリートで何度も食らってらぁ。大した物じゃなかったぜ」
「くっ……くそがぁ!」
今度は黒野の腰を掴み、足を引っ掛けて黒野を転倒させようとする。しかし、黒野の足はまるで根を生やしているかのようにがっしりと地面をとらえ、全く動じない。
「今度はテイクダウンか?」
「倒せば勝てると思ってるのかい?甘い甘い。相撲は地面に足の裏以外がついた時点で負けなんだ。倒れないように足腰を極限まで鍛えるのは相撲の基本さ」
「まっ、そう言うことだ」
黒野は高山の胸倉を掴み、自分の顔の高さと同じになるように引き寄せる。そして混乱している高山を睨み、口を開いた。
「教えてやるぜ。相撲には蹴りはあるし、投げ技もある。無いのはパンチと寝技だけだ。そしてお忘れの様だからもう一度刻み込ませてやる。確かにリーチは短い……がっ!」
高田の胸倉から手を離す。高田はよろけるように黒野から離れていく。が、次の瞬間、高山の見ている光景は目まぐるしく変化を起こす。まるで竜巻に巻き込まれたかのように景色が回転していく。体が宙に浮いている。
そう、黒野の渾身の張り手を受けて再び空中を錐もみ回転して吹っ飛んだのである。その体は屋上の金網に激突してようやく止まり、地面に叩きつけられる。完全にその気は失われていたのである。
「誰が威力じゃパンチに劣るっつったよ……ってもう寝てるし」
黒野は頭を掻きながら、今度は周りで観戦していた不良達に睨むように目を向ける。その余りの迫力に不良達の体は硬直。その直後、黒野はその眼のまま笑顔を見せた。
「さてお前ら」
「は、はい……」
「……部室の建設……頼んだぜ?」
そう言っただけで黒野は白石とともに屋上の入口へと足を進ませる。
「あぁ、そうそう……明日までに直ってなかったら、お前ら全員高山クンの様になるぜ……肝に銘じておくんだな」
屋上から出る前に黒野は不良達に恐ろしげな表情を見せつつ、そう告げた。不良達は誰一人として黒野に口答えする事はなく、屋上から去っていく黒野を見届けた。
翌日
「全く……やっぱり掘っ立て小屋かよ」
「まっ、そこは大目にみようか」
部室は再建され、不満をこぼしつつも満足げな表情を見せて部室の中へとはいっていく。
「まぁ、内部も再現されてるし見逃してやるか。さて、少しは名の知れた奴を倒したんだから部員希望も来てるだろ?」
「いや、全く来てないけど?」
素早い返答に対し、黒野はガックシとうなだれてしまった。
「おいおい……」
「まっ、嘆いてないでさっさと勧誘に行こうよ」
「しょうがねぇ……速攻で集めてやらぁ!」
黒野と白石の二人はビラを持って部室から走って出て行き、部室棟を後にした。
=第2話 完=