複雑・ファジー小説

Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.7 )
日時: 2016/05/18 20:56
名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)

=第3話 番長見参=

ある日の放課後の話である。いつものようにビラを手に校門付近で勧誘に励んでいる黒野と白石の二人。
その校門には、学ランが制服の学浜と違うブレザーの制服を着た、素行の悪そうな6人の集団が屯していた。

「なぁ、相棒。」
「何だいダンナ。」
「あのブレザーの集団は一体何なんだ?」

迷惑そうにブレザーの集団を見つめながら、黒野は白石に問いただす。

「あれは此処のご近所にある西海大学付属高校の生徒だね。」
「他校のチンピラってわけか……ご丁寧に校門の前に集まって、ハッキリ言って勧誘の邪魔だぜ。」

ブツクサと他校の生徒の集まりに聞こえないくらい小さく文句を言いつつ、ビラを配って回る黒野達。しかし、いつも通り誰も相手にすることなく、来る人来る人素通りされてしまう。
いつも通りの事だが彼も落胆は隠さない。通り過ぎるたびにガックリと頭を垂れ、また配ろうとしては素通りされて頭を垂れるを繰り返している。
学浜の生徒達は全員、黒野の勧誘に見向きもせずに校門に向かうが、そこで待ち構えていたのは、例の如く西海大学付属高校の不良生徒たちである。不良達はカツアゲを目的に校門前に集まっていたのである。

「おら、優しくしているうちに出すもの出しな。そうすりゃ痛い目は見ないぜ?」

一般生徒達は次々と西海大付属の不良達に絡まれ、金を出すか暴行を受けるかの選択を迫られているところだ。

「やれやれ、何かこうなると思ってたぜ。」
「で、助けるの?」
「勧誘無視した奴ら助けるのは野暮ったらしいが、此処で活躍しちまえば相撲部も少しは名が知られるかね。」

手にしたビラを白石に渡し、腕をパキポキと鳴らしつつ黒野は西海生達へと向かう。
しかし、ノンビリと向かっている間にも、一人の一般生徒が西海生に逆らっている様子である。

「い、嫌です……これは今月の」
「お涙ちょうだいはいらねぇよ。払わねぇならこうするまでだ。」

西海生の男のうち、一人が腕を振り上げる。容赦なく殴り飛ばして金を奪う算段なのだろう。
黒野もこれを見て、急いで生徒を助けようと駈け出し、殴るのを止めるために叫ぼうとする。
その瞬間彼の横から、かなり古めかしいリーゼントパーマをかけ、サングラスと長い学ランを着用した男が走っていく。その男は黒野よりも速く、生徒達の所へ向かうと生徒と不良を遮る様に立ち、自ら不良の拳を頬に受けた。

「な、何だ?」

突然の出来事に黒野は立ち止まり、呟く。それだけではなく、その場にいた全員が突然入ってきた男を前に一瞬体を硬直させた。

「な……て、テメェ……テメェは誰だ!?」

硬直から解放された西海の生徒は一歩下がり、現れた男に指を差した。
男は西海生に対し、サングラスを外して睨みつける。その眼は蛇のように鋭く、睨まれた者を怯ませるほどの圧力に満ちていた。
サングラスを懐にしまった彼は、ドスを利かせた声で言い放った。

「ワシか、ワシは学浜3年の……大道寺 重蔵ちゅうもんじゃ。」

自らの名を名乗った男、重蔵はその言葉の後、西海生の男の胸倉を掴み自らの目の前まで引き寄せる。
そもそも軽く離れた位置からでも半端じゃないくらい強烈な眼力だったのが急激に目の前で睨まれる形になり、先ほどまで威勢が良かった西海の生徒は黙りこみ、生まれたての小鹿の如く震えた。
そして殴られる寸前に助けられる形になった学浜の生徒は震える口を開く。

「ば、ば、番長……!」

恐怖しながらも尊敬の念を込め、呼んだ敬称は彼の事を正確に表しているものであった。その敬称で呼ばれた大道寺は学浜生徒の方に軽く顔を向けた。

「此処はワシに任しとけや。」

その一言が終わると同時に胸倉をつかまれていた西海生徒は、番長の頬目がけてパンチを放った。
しかし、胸倉を掴まれた不格好な状態では力を十分に籠める事など出来ず、大したダメージを与える事は出来ない。
パンチをくらい、一瞬その場は静まりかえる。しかし、すぐさま重蔵の返しの鉄拳で沈黙は破られ、同時に西海生徒は地面に叩きつけられ、気を失った。

「野郎!」

倒れた仲間を見て、西海の生徒達は重蔵を取り囲む。しかし、重蔵はそれでも動じた様子は見せない。
全く構える様子を見せず、掌を上に向けた右腕を突きだし、手招きして挑発を行う。それを見た西海の生徒は一斉に襲い掛かった。

「オドレら、甘いんじゃい!」

重蔵は目の前から来た相手が拳を振るう前に顔面目掛けて足の裏を叩きつけた。強烈な前蹴りの前に先ず一人が倒れる。
さらに右から来た相手に対しても強烈なフックともストレートとも取れる軌道のパンチで倒し、さらに後ろから襲ってきた相手にも向きを変えずに蹴りを膝に食らわせ、怯んだところを鼻っ柱目がけて鉄拳を繰り出し、倒したりと大立ち回りを見せていく。

「バカが!くらいな!」

その内の一人が懐から得物の特殊警棒を取り出し、背後から重蔵の後頭部目がけて振り下ろしにかかる。
しかし、振り下ろす前に彼の横から凄まじい衝撃が走り、ブロック塀の壁に叩きつけられた。
その衝撃の主はそう、黒野である。

「なんじゃワレ……。」
「悪いな……勝手に助太刀に入らせてもらうぜ。」

返答を聞くまでもなく、黒野は残り二人のうちの一人相手に突っ込んでいき、ベルトを掴んで壁まで寄って行く。大道寺もまた、向かってくるもう一人の男の方を向き、構えた。
黒野はそのまま相手のベルトを掴んだまま離さない。相手はどうにかして脱出しようと肘打ちや耳目がけて打撃を放つがその程度で離すほど黒野は虚弱ではない。黒野は一瞬息を整え、その後一気に引っ張り込み、下手投げで投げ飛ばした。かくして男は気絶。
重蔵もノーガードの打ち合いを繰り広げる。西海の生徒は次々と拳をぶつけていくものの、重蔵の拳の方が明らかに威力は上で既に足はガクガクと震えている。それを見越した重蔵は間合いを詰め、強烈なアッパーカットで男を空中に浮かした。男は後頭部から地面に落ちて気を失った。

「始末完了じゃのぉ。」
「あ、あの……ありがとうございました。」
「次は絡まれんよう気をつけるこっちゃな。」

礼を述べる学浜生徒に軽く忠告をした後、重蔵は黒野の方へと歩み寄っていく。そして彼は黒野に向けて口を開いた。

「お前さん、名ぁなんて言うんじゃ。」
「名前?俺は黒野。学浜2年相撲部の黒野 卓志ってんだ。」
「そうか……。」

それを聞くと彼は黒野に向けて頭を下げた。

「さっきは助かったで。お前さんがあん時入らなかったら袋にされてたかもしれんかったからのぉ。」
「いや、俺は勝手に助太刀に入っただけで……。」

重蔵は礼を述べた後、頭をあげ、黒野の話を聞くことなく校門から立ち去った。

「じゃあの。縁があったらまた会おうや。」

去り際に一言だけ残して。黒野はその背を見送り、白石の元へと戻っていく。

「ダンナ、大丈夫だったかい。」
「どうってことねぇよ。ところで相棒よ。あの人誰だ?」
「リーゼントの人かい。あれはここ学館浜隆高校の番長、大道寺 重蔵先輩さ。」
「そうかそうか……えっ?番長?」

黒野はその発言に対し、目を丸くしながら白石に問い詰めた。

「おい、番長ってことはあの人がこの学園最強ってことか?」
「そう言うわけでもないね。此処での番長って肩書は無所属の不良さん達を統率している人を番長ってさしてるんだ。他校との戦闘の際も大抵番長率いる不良さん達が率先してるから昔ながらの意味合いも込めてるけどね。」
「要するに?」
「帰宅部主将。但し、番長は応援団々長も務めてる。」
「納得。」

解かりやすい(?)解説に黒野はまぁまぁ理解した様子である。

「しかし、番長か……まさに漢って奴だ。」
「また殴りあいたいのかい?」
「また会えた時には持ちかけてみるか。」

強さと男気に感服したようであり、黒野は空を見上げながら、白石と談笑して帰路についた。