複雑・ファジー小説
- Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.9 )
- 日時: 2016/05/18 21:09
- 名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)
放課後。何も知らない黒野と白石はいつもどおり部室へと足を運んでいた。
「はてさて、部員もいねぇし、今日も勧誘かね。」
「まっ、そうするしかないね。幸い、弥生ちゃんが勧誘で色々と掛け合ってくれてるし、僕らはビラ配りに専念できるからまだマシだと思いなよ。」
「そこまでしても来ないから問題なんじゃねぇか。あーぁ、入口くぐったら入部希望者が現れねぇかなぁ。」
ブツクサと文句をいいつつも、黒野は掘っ立て小屋の入口を潜る。すると如何だろうか、見覚えのない男がそこにはいるではないか。
「……ダンナの希望が叶ったね。」
「世の中捨てたもんじゃねぇってもんよ。おい、お前入部希望者だな?そんじゃ入部届にサインを」
「悪いけど希望者じゃないんだよなこれが。」
上げて落とされる、とはよく言った言葉である。入部希望者ではないと言う事を聞くとガックシと肩も頭を下げ、解かりやすいくらい落胆した。
「ご要件は?」
ガックシしている黒野を余所に、白石はその男に話しかける。
「要件ねぇ、そりゃ手短にいくさ。部長さん。」
「あぁ?」
顔をあげた黒野に向けて、男は口から何かを飛ばす。飛ばす直前に黒野は殺気を感じ、身を低くしてそれを躱した。
黒野の後ろにあった鉄砲柱に突きささった『それ』は細く、短い針であった。
「なんだこりゃ?」
「ダンナ、これは含み針だよ!」
「初見であれを避けるなんて、結構やるじゃん。見くびってたわ。」
少々悪意のある笑みを浮かべる男。その男に対し、黒野は睨みつけ、そしてその胸倉をつかもうとする。
しかし、男は身軽にも黒野の頭上を飛び越え黒野の背後へと回る。
「(あの身軽さ……普通じゃない)」
「野郎!テメェは一体何だ!勿体ぶってねぇでとっとと言え!」
黒野は男に向かって叫ぶ。男はその黒野の叫びに、素直に口を開いた。
「そうだな…俺は2年将棋部部員、佐久間 菊丸って言う者さ。」
「将棋部だぁ?」
「そして尚且つ学館浜隆高校応援団副団長。黒野って言うの?恨みはないけど、番長の命令であんたに仕置き加えに来たのさ。」
「はっ?番長が?俺、番長に何か恨み買うようなことしたっけ?」
「何をしたかは自分の胸に聞きな。さて、早速」
「……よくわからねぇけど、喧嘩ってならついてきな。」
黒野はそう言うと部室から出ていく。菊丸や白石も後を追うように部室から出て行った。
そして黒野についていった先は校舎裏である。
「此処だ此処。喧嘩の時は校舎裏か屋上が一番だからな。」
「なかなか乙な演出してくれるじゃん。まぁ、こっちもそれが都合良いけどさ。」
学ランの上着を脱ぎ、投げ捨てる黒野。菊丸も軽く体を捻ったりして体の調子を整えた後、黒野に向けて掌を突き出し、手招きするように挑発する。
「よっしゃ行くぜ!!」
黒野は思いっきり頭を突き出し、ぶちかましを繰り出す。だがそれは先ほどの様に菊丸の驚異的な跳躍力で見事に飛び越えられてしまう。
「ダンナ!ぶちかましじゃダメだ!堅実に近づいて突きや寄りを使うんだ!」
「堅実に……突き押し寄りってんなら……おらよっ!」
黒野は菊丸の顔面めがけて突っ張りを繰り出していく。
「悪いけど、それも読んでる。」
菊丸はその場で回転して突っ張りを受け流し、同時に受け流したことによって黒野を引きよせ、その懐に潜り込んだ。
「(あの跳躍力……そして回転の動き……まさか)」
「旋体鉄肘当て!」
黒野の顔面目がけて肘が打たれる。回転による遠心力も加えられたその肘打ちは黒野を大きく後退させ、その威力を知らしめていた。
鼻っ柱を押さえ、黒野は菊丸の方に視線を戻そうとするが、既に菊丸は黒野の目の前である。
「野郎!」
「ほらよっ。」
再び突っ張りを繰り出すが、身をそらしてそれを回避される。菊丸は懐に潜り込んで逆水平チョップを叩き込み、さらにその場で回転しながら跳躍し、その回転蹴りを黒野の側頭部に叩き込む。
黒野はそれに怯みながらも耐えるが、さらに菊丸は走って接近し、跳躍して肘鉄を放つ。顔面にそれを受け、黒野は大きく後退した。
「チクショウ……空手野郎が……!」
「ダンナ、あれは空手じゃないよ。」
「あぁ?」
黒野は再び向かおうとするが、それを白石の声によって止められる。白石が口にした不可解な言葉『相手の武術は空手ではない』と言う言葉に自然と足を止めたのである。
「空手じゃないって……構えや技からしてありゃ空手だろ?」
「残念だけど違うね……さっきから見せてた跳躍力、回転や体軸の移動、アクロバット且つ渋い飛び技の数々、そして戦う前に見せた暗器術……間違いない。菊丸くん、君のスタイルは忍術、躰道、そしてルチャリブレだね。」