複雑・ファジー小説

Re: 十字星座の戦士 ( No.11 )
日時: 2014/01/18 16:29
名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: fZ73J0jw)

「『魔光刃』」

言い終わると同時に剣が地面を叩きつける。そこから地面に光の波紋が生まれ、それが地面でひとつの塊となり、前に一直線に進んでいく。
目標は広場の一部に生えている木、距離は15mほど。そこにたどりつくまではだいたい2秒もかからないだろう。その2秒の間に、光の塊は地面に浮かび上がり、縦1mほどの刃を作り出す。
刃といっても、それは形だけで、この『技』は、ぶつけた相手を衝撃波で吹き飛ばす、波系等の技なので、たいした殺傷力のない、初歩級の技だ。
初歩級の技……それだけでは、たいした威力はない……だから、俺たち戦闘職業の技使いは、下級、中級、上級の技を組み合わせて使う、連続技、というのを自らで作り出し、オリジナルコンボを極める。

「『魔光連弾』っ」

俺は木にあたるのを見るまもなく、すぐに次の行動に移る。次は、剣を後ろに一気に引き、一直線に突き出す。さながらフェンシングの構え。突き出した瞬間に空気が震え、剣の先端に光が凝縮して、集まり、人の顔サイズの球体となり、俺はそれが剣の先端に宿ったのを確認せずに、一度目は下に、二度目は最上段に切り上げる。
すると、球体はちょうどつきだしたときの位置に刃が通った時に、一度、二度と前方にむかって光の弾がうちだされる。ここまでかかった時間は約2秒。ちょうど木に魔光刃の一撃があたったところに、さらに追い討ちをかける一撃。だが、まだ終わらない。

「『魔光十連打』ぁ!」

俺がそう叫ぶと同時に俺の剣に光が宿る。俺はそれを下段、上段、下段、斜め上段、横一閃、体を一回転させてもう一度一閃、後ろに引いて突き出し、下に切り下げ、最上段に思いきり切り上げてから、そこから振りかざすように思い切り地面に刃を叩きつける。
一度俺が宙を切るたびに、光の刃が鎌鼬のようにはなたれる。そして、最後の一撃は、地面を伝い、目標に向かって放たれる。
全て放ち終わるまでに、約3秒。
普通、オリジナルコンボというのは、使用したあとに疲労がすさまじく、3回で止める。だがしかし、俺はまだ止まらない。

「『滅殺光刃』!!」

俺はそういうと同時に、魔光十連打の最後の一撃に並行して相手に詰め寄り、体をひねらせ、剣を目標の木にむかって、思い切り横一閃に切りつける。
木までの距離は、まだ5mほどはあった。だがしかし、俺の剣には再び光がやどり、今度はそれが、剣の形をとり、刀身に加わり、5mの幅を一気に縮め、木を真ん中から切り裂く。
木はそのまま耐え切れず、俺とはべつの方向に倒れる。……実際は、一閃になぎ払った瞬間に、またさらに光の鎌鼬がうまれるのだが、今回は手を抜いたのでそれが生まれることはなかった。
俺は満足そうに剣を一度横に払い、腕を下した。
……今日はなんか、いつもより調子がいいような気がする、と一人思い、公園の時計に目を向ける。
約束の時間まで、まだ30分ちょいあるな、と思いながら、俺はあたりを見回す。
……その公園には、やはり誰もいない。
いつもどおりの風景だ。いつもどおりの姿だ。だけども、俺は、この公園には、なつかしい思い出が、いろいろとあるのだ。
鞘を投げ捨てたベンチにむかって歩きながら、俺は昔のことを思い出す。ただひたすらに、無邪気に遊んでいただけの子供の頃を。
あの時はまだ、世界のゆがみなんてしらなかった。怖い魔物も、戦闘職業の人たちが倒してくれる、安全な、そして平和な暮らしが、約束されていると、俺はそう信じていて、まわりのみんなもそう信じて疑っていなかった時代。
そんな日常は、今でもうらやましいと思っている。今でも戻りたいと思っている。この公園で、みんなと遊んだそんな過去に、戻りたいと思っている。
この公園は俺にとって、自らが少しの平和を生きていた証だ・・・と、俺はそう思っている。
ま、そんなことを思っていても仕方がない。流れた時間は、俺たちの経験となって、時には、枷となるって、俺の担当だった教官もいってたしな。
ベンチに投げ捨てた鞘に、剣をしまう。そしてそのまま剣をわきにどかして、ベンチにすわりこむ。
今日は、そう、その平和を共に生きていて……誰よりも、強くあろうとした、幼馴染との……戦いだ。
やつは強い。12歳の頃、一緒に戦闘職業になろうと誓ったあの日から、俺とあいつのさは歴然だった。
俺はその時から、そして今までも、自分を守ることが精一杯だと思っている。だが、昔の俺は、本当に自分のことだけしか考えていなかった。ただ自分ひとりが生き残ればいいと、ただ自分だけが助かろうと、そう思っていた。そのせいか、やる気もなく、ただただ自堕落に、てきとうなペースで、中途半端に、剣を握っていた。だが、シエルは違う。
シエルは、入ったとき……いや、平和だったあの時から、あいつは人を守ることに執着していた。自らの身を犠牲にしてでも、ほかの人を守るのだと、いっていた。だから、やつは人一倍に強くあろうとして、実際に、同年代では誰も追いつけるものはいなくなった。
強さを求め、力を求め、守ることに執着した人間の力。そして、覚悟もなく、自分を守れればそれでいいとてきとうにやってきた人間の力。そこには圧倒的な差が生まれるのもしかたがなかった。
そして今回の戦いは……俺が、シエルに追いつく戦いだ。
この二ヶ月だけじゃない、俺は、「あの事件」から、こう思うようになった。

人を守るなら、まず自分を守れるほどの力をつけろ。

と。
自分すら守れないものが、人を守ることなんてできないと。俺はそう思うようになった。
だから、俺は強くなろうとした。
あがいてあがいて、死に物狂いで、やつにおいつこうとした。
そして……俺が、やつと同じ階級の称号を得たとき・・・そう、俺は言ったのだ。
まあ、しいて言ってしまえば、今回の戦いは、自分の思いをぶつけ合う戦いだといってもいい。
シエルの、自身を犠牲にして人を守るという思いと、俺の、自身を守る力をもち、ほかの人も守れると証明する思い。どちらが上か。

「実力的にあれだが……負けるつもりはないさ」

と、ひとりつぶやいて俺は鞘を担ぎ直し、立ち上がる。
さあ、俺のあがいてあがいてあがき抜いた、力を見せてやるか。