複雑・ファジー小説

Re: 十字星座の戦士 ( No.12 )
日時: 2014/01/18 16:32
名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: fZ73J0jw)

………………某所


暗闇のなかから、声が聞こえる。
太陽の光が差し掛からない、影となった部屋から、声が聞こえる。

「やつらが、動き出した」

その声は、雄々しくも、若干の老いが混じっている、男の声だった。
その声の主は、どこか焦っているかのような声でそういうのだ。

「北の象徴、「ベルケンド」にむかってまもなく、【天魔】を従え、出発するだろう」

だが、焦っていても、冷静に考えているのか、落ち着きが伺える。

「……やつらは【転送石】をつかわないのか?」

その声の主とはべつに、若い、男の声が返される。
男の声には若干の焦りが見えるが、やはり、どこか落ち着いていて、妙な雰囲気を醸し出す二人だった。

「やつらは、表では正義を語っている。そんなことができるはずがない」

転送石、というのは、各方面の巨大な街の中央あたりに存在する、魔法石のことだ。
その石は、マナを溜め込んでおり、登録された地域に瞬間移動することができるという、便利なものだ。だが、登録できるのは同じく転送石が置いてある場所のみで、各街にしか移動はできない。

「おそらく、出発は深夜……だろうな」

そういうと、老いた男のほうは、咳払いをして、部屋の電気をつける。
その部屋は、狭い。
なにかの書類か、資料かはわからないが、紙が散乱していて、足の踏み場もない。そんな部屋に、二人の男が立っている。
ひとりは、さきほどの若干老いた声の持ち主。そしてもうひとりは、若い男。その二人はいま、フードを目が隠れるほどに深くかぶっており、表情が伺えない。
黒い、シンプルなローブで身を包んでいるのは、老いた男。そして、ローブの中心に、赤い十字架がペイントされていて、右の胸元に、十字のワッペンをつけているのが、白いローブを着た、若い男だった。

「そして狙いは……おそらく……いや、確実に」

黒のローブの男がなにかを言おうとしたが、白いローブの男が遮るように、先に答えをだす。

「【十字星座の戦士】か」

「……それがわかっていたのに、動かなかった俺たちのミスだな」

黒いローブの男は悔しそうに言う。

「だが……ここでやすやすと、俺たちの希望……この十年間の希望を、殺されるわけにはいかん」

そういうと、黒いローブの男は、懐から三枚の紙を、白いローブの男に手渡す。そこには、白黒だが、やる気のなさそうな顔立ちをした少年、明るい雰囲気の少年、そして、物静かそうな少女の姿が映し出されていた。それを白いローブの男は手に取り、同じく懐にしまい込む。

「その子供たちが、諜報部から流された……十字星座の戦士の力をもつとされている……そして……やつらのターゲットだ」

白いローブの男はそれをみて、思う。
運命に左右される、哀れな子供たちだとか、その力がゆえに命を狙われるのがかわいそうだとか、そんなことは思わない。ただ、思うのだ。こいつらは・・・自分と、同じなのだと。
ズキン、とうずく右目を抑えるようにして、手を当てる。何年も、何十年も、続けてきた、行動。そこに意味なんてなかった、それに可能性なんてなかった・・・だけど、ようやく、男は願いを叶えることができるのだと、ひそかに微笑み・・・

「俺たちの十年を、いや……俺が生まれ、あんたに拾われてから……あいつに出会ってから今までの時間を、無駄にするわけにはいかない……、この少年たちの未来も、俺が切り開いてやるさ」

そういうと、白いローブの男は身を翻し、狭い部屋をでていこうとする。だが、黒いローブの男は、それを、一度だけ引き止める。確認するかのように、その覚悟を、たしかめるように

「……ここからは、本当に厳しい戦いになる。俺は……おまえをこれ以上、巻き込みたくはない……だが……それでも、いくんだな?」

その言葉に、白いローブの男は、一度だけ黒いローブの男を見る。ローブを外して、その素顔を晒しながら、黒いローブの男を、自らのことを育ててくれた、自らの力を制御する力を与えてくれた、唯一無二の、親と呼べる、その男を見て、白いローブをまとった、若き青年は、いう。

「……いってくるよ、バウゼン」

その言葉を聞いて、黒いローブの男も、フードを外す。60代後半の、威厳のある顔立ちを、明るく歪ませ、笑顔を作り

「いってこい、ルイン」

と言い返す。

人は彼らを悪だという。
自らの信じる正義に立ちふさがる、悪者だという。
だが、彼らは信念をもち、動くだけ。
自らが正しい行動をとっているかなんてどうだっていい。人々から罵倒されたっていい。正義によって制裁をくらっても、けして折れることのない、信念をもつ。
その道がたとえ茨の道であっても、進まなければならない理由がある。だから、彼らは、己の力で道を切り開き、悪の汚名をつけられても、信念を貫くだけ。
そう、彼らは自らのことを、こう呼ぶ。
【レジスタンス】
と。