複雑・ファジー小説
- Re: 十字星座の戦士 ( No.13 )
- 日時: 2014/01/18 16:35
- 名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: fZ73J0jw)
……子供たちの遊ぶ姿がちらりと見える。それを楽しげに、親たちが眺めている姿も、見える。
街一番広いと言われているこの公園の広場にある噴水のまえで、ひとり佇む少女がいる。
太陽の光をうけて、薄い紫色をした髪が、映えて見える。
その姿を見たものは、幻想的だ、とすらつぶやくほどに、少女のその佇まいは美しかった。
150センチそこそこの身長、華奢な体つき、白い肌。腰までかかる長い髪。眠たげな瞳をどこにむけてるかはわからず、口を少しだらしなくあけている。腕を組、足を交差させてたっている少女の腰には、細剣と呼ばれるたぐいの武器が吊るされていた。
その少女のことを、この街で知らないものはいないだろう。若くして教官を倒せるほどの実力をもち、機関とよばれる世界の実験をにぎっている組織から派遣された兵士ですら、その実力を認めるほどの、幼い剣士。
14歳にして教官クラスの実力を誇り、そして、数多くの魔物を討伐し、街に貢献してきた。そう、この少女こそが、シエル・グランツ……リヒト・タキオンの幼馴染であり、ライバルであり……超えなければいけない壁であった。
俺は、公園の入口から、シエルがいることを確認すると、もう一度気合を入れ直す。
……気合を入れ直すのはいいのだが、シエルの雰囲気を見ていると、どうもこれから戦うっていう感じの雰囲気をだしていない。というか、だらけきっている感じがする。眠たそうだし、口もポカンとあいてるし、キョロキョロとあたりを見回してるし、とてもその姿からは、この街で有名な剣士様とは思えない感じだった。
でも、あんなんでも、あいつの実力は俺が一番わかっている。だから、俺は気合を入れる。
「あれ、お兄さん、もうついてたんですか?」
気合を入れ直そうとしたところに、後ろから突然声をかけられたので、やむなく中止することにする。
しかめっ面でその声がした方向を見ると、そこには、俺よりもあとに家をでたレイと……もうひとり
「おーうリヒト、気合はいってっかー?」
と、若干軽い感じで声をかけてくる男がいた。
そいつをみて、俺はニヤリ、と少し不気味な感じに笑い
「フラム……おまえも物好きなやつだな」
といってやる。
フラム・ヴァルカン。シエルと同じく、俺たちの幼馴染であり、やはりこいつも同業の人間だ。
シエルよりも付き合いは短いものの、どうもうまがあうらしく、昔からよく遊んできたのを今でも覚えているし、戦闘職業になってからも、その付き合いはいまだ健在である。……まあ、腐れ縁ともいうが。
称号はたしか、俺たちと同じく中の上位にあたる、【炎明騎士】というやつで、こいつも実力もそれからわかるように、相当なものだが、シエルと並んだ同世代のため、そこまで目立つことはなく、また、俺のようにふざけたやつではなかったので、悪い意味でも有名になることはなかった、まあたいしてとりえもないやつだ。
だが、仲間からの信頼は厚いらしい。俺もコイツのことは信頼できるし、シエルも、レイも、こいつの明るい人柄や、信念に基づいた行動にはいつも、ついていこうと思える、俺たちのリーダーてきな存在だった。
「なぁに、落ちこぼれだったお前があのシエルとやろうってんだ、これほど面白いことはないしな!!」
そういうと、俺の背中をバシバシと叩く。
「やめろって……、ていうか、そういってるおまえはあいつと戦う気はないのか?俺からしたらお前たちが戦うほうが面白いって思うがな」
「あ、私もシエルさんとフラムさんの戦うとこは見てみたいです」
俺の意見に賛同しながらレイもそういう。それにフラムは少し照れながら、噴水のまえでボーッとしているシエルのことをみて
「ま、いずれあいつとは戦うさ。俺の実力を認めてもらって、機関に推薦書とかだしてもらえるかもしれないからな!」
という。
そういえば、こいつの夢は機関に入って、人のためにできることをする……だったっけな。
世界の実権をにぎり、世界を統べる、正義の組織……この世界が均衡を保っているのは全て機関のおかげで、この世界が平和で有り続けるのも、機関のおかげ……そう、信じている人はたしかに多いし、あながち間違ってもいないしな。
まあ、平和かどうかはべつとして、機関という存在が表にでているだけで、多くのちっぽけな犯罪者はその戦う気力を失って、犯罪を未然に防ぐことはできるから、まあそう言う意味での平和ってことだろうな。
でもたしか……機関の実権を狙い、機関という存在を潰そうとしている、犯罪者組織っていわれてる集団があるのをちらっと耳にしたことがあったが……まあいいか。
「お前があいつに勝てたら出してもらえるだろうな」
俺はフラムの言葉を適当に流して、公園に入る。シエルの位置からだとこちら側の入口は死角になっていて俺たちがまだ来ているかわかってないみたいなので、俺はちょっとした悪戯を思いつく。
「でさー、まえの討伐演習の時にさー……」
「機関の人って……」
後ろのほうでフラムとレイがなにか話していたが、俺は少し駆け足になりながら、シエルに近づいていく。
シエルは緊張した時でなければ、いつもボーッとしている。基本マイペースで、ねむたげだ。だが、誰よりも使命感が強く、そして誰よりも強くあろうとする心をもっている。だが、そんな剣士様も……
不意打ちには、弱い。
俺は駆け足気味だったが、すぐに速度を上げる。俺のもてる最高の速度で地を駆け、そのままシエルに接近しながら、剣を引き抜き、鞘をあさっての方向になげすてながら、思いっきり振りかぶる。
シエルのかおがハッと何かに気がついたように辺りを見回す。腰の剣に手をあてながら、警戒を始める。やはり、察知はするか……だがシエルのすぐ近くまで迫ったところで、ようやくシエルが俺のことを認識する。シエルは眠たげな表情のまま、少しだけ驚いたように、俺のことを見つめる。俺はそれをおかまいなしに、剣をシエルにむかって容赦なく振り下ろす。
……だが、俺の剣がシエルを捉えることはなく。地面を思い切り叩きつけただけの結果に終わってしまった。
「……リヒト、不意打ちはずるいと思う」
さきほどの位置から五歩ほどさがった、俺の剣の範囲外にいつのまにか移動していたシエルは、俺のことをジト目で見つめる。
「よう、随分と早いな、シエル」
そして俺は何事もなかったかのように剣を担ぎ、シエルにむかって手を振る。
「……はぁ」
シエルはあきれて物も言えないと言わんばかりにため息をする。
「今のがもし私にあたってたらどうするつもりだった?」
非難するかのように俺を攻めるが、あっさりかわしてるんだから問題ないだろ、と思う。あと俺も当てる気はなかったしな。ただ驚かそうと思っただけだ。
「悪かった悪かった。ただ驚かそうと思っただけだ」
「ものには限度ってものがある」
「うっ」
シエルが強かに俺を言葉責めする。まあ、俺とシエルの関係は昔からこんなかんじだ。
俺がシエルにちょっかいをかけて、シエルがそれをあしらう。また、それの逆もある。昔から、そんな関係は、かわっていない。
「リヒト……いまのはさすがに男らしくなくないか?」