複雑・ファジー小説

Re: 十字星座の戦士 ( No.14 )
日時: 2014/01/18 16:37
名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: fZ73J0jw)

「シエルさん、大丈夫ですか?」

俺がシエルの非難をうけていると、後ろから、俺が投げ捨てた鞘を拾ってきたのか、その鞘をもったフラムと、後ろからついてきたレイがそういう。
シエルは、二人の顔をみたあと、

「これで全員揃ったかな」

と首をかしげながら俺に聞く。

「余計な見物客を呼んでなきゃ、これで全員だな」

と俺が周りを見回しながらそう返す。
その言葉に、シエルはやはり、どこか眠たげな表情のまま、なにかを思い出したかのように言う。

「そういえば……誰が噂をながしたかはしらないけど、機関の警備隊の人と、教官がひとり見に来るって言ってたような……」

そういいつつ、シエルはジトッとした目でフラムを見る。フラムはあさっての方向をみながら口笛をふいていた。……余計な見物客を用意してくれやがったな、こいつ。
非難の目を俺がむけると、さすがにフラムをいたたまれなくなったのか頭をぼりぼりとかくが、レイがフォローにはいる。

「でも、教官と、機関の人がくるなら、いいチャンスかもしれませんよ?」

という。それに一瞬、なにをいっているのか俺は理解ができなかったが、フラムがレイの言葉に反応して、いきなり元気になる。

「そうだぞ!!これはいいチャンスになる!!たとえばリヒト、お前は教官に今までの努力の成果を見てもらって、お前の本当の実力を認識してもらういい機会だ。そして、シエル。お前は———」

「———機関の人に認めてもらうチャンス、そしてあわよくば中央の機関に推薦証を送ってもらう……みたいな感じを期待してるの?」

フラムが元気よくいってたのを、途中でさえぎってシエルがそういう。それにフラムはああ、と頷きながら

「そうすれば、天下の機関にはいれるし、その才能をもっともっと活かせる舞台に飛び立てるんだ」

フラムはどこか夢見心地で語る。あいつは昔から正義のヒーローになるんだとかいちいちうるさいやつだったが、あいつの正義のヒーローの対象は、今では機関、ということらしいな。
世間一般からしても機関は正義の組織であり、この世界の秩序だ。誰がそれを疑うだろうか。誰がそれを信じないだろうか。だから、俺もたしかに、そんな組織にはいれるチャンスがあるのなら、逃したくはない、と思う。だが、シエルはどこか浮かない感じに

「べつに私は、力をひけらかしたいわけじゃないから、そうゆうのには興味がないんだ」

そこで自嘲ぎみにシエルは笑い、フラムは少しだけ考えるように唸る。

「ま、人それぞれさ」

と、俺がてきとうに流す。
シエルの性格上、あいつは見える範囲全てのものを守りたい、自らの力が届く範囲のものを、守りたい。という思いがある。確実に助けられるもの、もしかしたら助けられるもの、二つに一つの選択肢が出現した場合、シエルはどちらも助ける、という選択肢を見出すようなタイプだ。そういったところから、機関という大きな組織が、傾向として取る、助けられるものだけ助け、助けられないと判断したものは切り捨てるという考え方は、好きではないのだろう。
まあ、ときにはそういった切り捨ても大切なことは、シエルも頭では理解しているし、機関がまちがっているとは思っていないだろう。俺たちは、なんだかんだでいって、機関がつくった法律、制定、規則などにとらわれている、いわば機関という秩序に生かされているような存在だ。だから、機関が間違っているとは、これっぽっちも思ってないのもたしかで、実際シエルも悩んでるはずだ。

「実際、シエルの実力は機関の兵士様の折り紙付きだしな。それに機関にはいったからって力をひけらかすわけでもない。機関にはいったとして、今までと変わらずこの街にとどまり、警備隊を務めるっていうのも選択肢としてはある。まあ、あんまり深く考えるなよ」

と、俺はシエルの頭をポンポンと軽く叩く。それにシエルはくすぐったそうに目を細め、少しだけ笑顔になる

「それに、機関の警備隊の人から確実に推薦書がでるってわけでもないですしね」

レイがそういうと、そらそうだ、とフラムが笑い、俺たちもそれに釣られて笑う。
緊張感のない、平和な時間だ。
魔物が街に侵入した時のような緊張感、平和がぶちこわされていくのかと思う恐怖感の一切ない、平和な時間。
俺は、こういった時間が、好きだ。
そんな時間も……確実に、終わりを告げる時が来る。

「そろそろ、やる?」

と、一通り笑い終えたあと、シエルが俺に首をかしげながらそう言う。
俺はその一言に、ドクン、と心臓が跳ね上がるのを感じ取った。
そうだ。俺は、俺たちは、遊びに来たわけではない。
そう……俺とシエルは、自分の信念をぶつけるために、戦いに来たのだ。