複雑・ファジー小説

Re: 十字星座の戦士 ( No.2 )
日時: 2014/01/19 23:40
名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: fZ73J0jw)

    第一章、正義の影、悪の希望




1話【Peace(平和)】



……
…………
………………
静まり返った、部屋の中。
聞こえてくるのは、外から聞こえてくる、人の喋り声、笑い声。
家のなかからは、誰かが、なにかを作っているのであろう、おいしそうな匂いと、上機嫌な鼻歌。
瞳を開けると、いつもの部屋、いつもの世界が、ちゃんと広がっていた。

「……また、か」

そう、つぶやく。
体中、汗でびっしょりだった。着ていた服もしめっていて、布団も、どこかに投げ捨てられている。

「……また、あの夢か」

謎の声が、謎の十字架が見せる……破滅の世界の、夢。

「なんであんなもんが……見えるんだろうな」

目が覚めたとき、俺はいつも、そうつぶやいていた。
窓から差し掛かる光が眩しくて、ふと顔をしかめる。その先に見えた時計に、今現在の時間が表示されている。
7時、30分。
いつもと同じぐらいの時間に起きる……いつもと同じ、夢を見る。
この、夢の正体を、俺は……、リヒト・タキオンは、知らない。
誰かに相談するのもバカバカしい話で、夢に悩まされているなんてすこし子供っぽいからな……といい、目にかかる程度まで伸びている前髪をさっとかきあげる。

「いつものことだ……気にすることはない、か」

そう、自分に言い聞かせ、ベッドから、降りる。
体がだるく、服も湿っていて、再び顔をしかめた俺は、Tシャツを脱ぎ捨て、もとからはいてなかったズボンだけをはき、部屋をでることにする。
家のなかからは、相変わらず誰かがなにかを作っているのか、食欲をそそられるにおいと、鼻歌が聞こえている。
まあ、こんな時間から朝飯を作っているやつなんて、俺は一人しかしらないわけだが……。
二階にある部屋を出て、階段を降りた先に、居間がある。居間は直接台所につながっていて、俺は居間にはいったところで、声をかける。

「レイ、おはよう」

気だるそうな声をだし、あくびをしながら、自分の椅子に俺は腰を下ろす。
その声を聞いた人物……妹である、レイ・タキオンは、台所から顔をのぞかせて

「あ、おはようございます、お兄さん」

と、少々控えめな声で、返す。
兄も兄ながら、人との付き合いをうまくできる人間ではないが、兄に対してもその敬語はどうにかならないか、というのが日々の悩みであることは、内緒だ。
再び台所から、レイの上機嫌な鼻歌が聞こえてくる。まあ、べつに敬語なのは、俺に気を許していないからとかではなく、本人の性格上ってことはわかってるから、べつにいいんだけどな。

「やけに機嫌がいいな、なにかあったか?」

俺がそう、レイに問いかけると、再びレイは台所から顔を覗かせて

「なにもないですよー?」

とすっとぼけたようにいう。
と、すっとぼけながらも、レイの視線はテーブルにおかれていた、ひとつの封筒に注がれていた。
……見てほしいってことか。
俺はそれを手にとり、レイはそれを見守る。だいたいなにが入っているかは察しがつくが……

「……へぇ」

と、俺はただ関心したようにつぶやくだけだった。
その反応を見て満足したのか、レイはにっこりと笑うと、再び料理に戻って、再び鼻歌を歌い始める。

「……おどろいたね、こりゃ」

俺はそういい、その手紙に書かれていた文章を読み上げる。

「『白迅剣士』任命証……この、年でか」

それは、『戦闘職業』と言われている、いわゆる狩人、傭兵、兵士……それらの類の人々が合併してできたものだ。
……魔法というものが当たり前のように存在していて、街の外には、『魔物』といわれている、異形の生物がいるこの世界。自分の身を守れるのは自分だけだ。
その中で、人々は、戦うすべを身につけるために、協力し合った。この『戦闘職業』という名前ができ、その職が生まれたのは、約500年ほど前のことだったとされている。
なることができるのは、12歳から上の男女ということになっているが、実質的に戦えるレベルになるのは、14歳からだと言われている。
剣士、銃士、魔術師。その3つのなかから選択をして、各自各々と才能を伸ばしていく。その可能性は無限大と言われるほど有り、『戦闘職業』の中の『称号』の数は、俺も把握しきれてはいなかった。
当然、才能の有無がそれには存在していて、12歳から始めたものでも、14歳になれば既に戦えるレベルになっている、という話ではない。20歳になってから、ようやく戦えるレベルになれる人も、少なからず聞くぐらいだ。そうして14歳で戦えるレベルになれたとしても、下級の『称号』試験しか受けられる実力しかないはずなのだが……、さきほど俺が読み上げた、レイの『称号』の合格通知……『白迅剣士』、それは、中級の最強レベルと言われている『剣士』の称号だった。

「こりゃ……俺もすぐに追いつかれそうだなぁ」

そういい……俺は、リビングの隅に立てかけられている、俺自身の武器を見る。
12歳のとき、俺も確かに『戦闘職業』の進路を選び、戦うこと、自身を守ることを、選んだ。でも、実際に戦えるレベルになったのは14歳だが、レイのように、中級どころか、下級の『称号』すらも、俺には危うかったほどだ。
人と違い、やる気がない、と何度言われたことか。何度、『戦闘職業』は、自分を守るためだけに、戦うためだけにあるわけではない、と、俺に戦いを教えた教官はいっていたことか。
何度教官は……

(人を守る盾になること……そして、人のために戦う、剣になること……それが、おまえが選んだ、『戦闘職業』の本質だ)

と、俺に言ったことだろうか。
数さえ覚えていないが、その言葉は今も、教官の教えがなくなった今でも、覚えている。だが俺はそれを、正しいと認めたことはついぞなかった。
人のために戦っても、守れないものはある。人のために盾となっても、守りきれないかもしれない。ただのわがままで、ただのひねくれた考えなのかもしれない。実際に、俺の考え賛同にしてくれるやつは、ひとりもいなく、逆にまじめに上を目指していたやつらの反感もかっちまったぐらいだからな。
まあ、そんなこんなあっても、この二年で俺は頑張ったほうだ。俺もようやく2ヶ月前に、レイが任命された『称号』、『白迅剣士』の名を語ることが許された身だからな。
レイが、俺と同じ試験をうけていることはしっていたし、俺から見ても、レイにはずば抜けた才能があることはわかっていた。だけど、実際になられてみると、兄としては少し複雑な気持ちだ。

「ま……、才能がないものは、才能があるものの下になることは、当たり前の世界だからな」

「そんなことないですよ」

俺が弄れた独り言をもらすとどうじに、台所から朝食をもってきながら、レイがそういう。
俺は、自分でも少々、というか、かなりひねくれた性格を持っていることこぐらい、わかっている。自分でも不思議なぐらい、周りのことを考えず、自分のことだけを考え、そして、自分が弱い、才能がない理由を、人のほうが才能があるだけだ、と、勝手に解釈してしまうぐらいに、俺にはやる気も気力もなかったのだ。
それをわかっているのはおそらく、このレイと、あとは数少ない友人ぐらいだ。だから……こいつらは、俺に世話をやきたがる。

「お兄さんは、とっても強い、『剣士』ですよ?」