複雑・ファジー小説

Re: 十字星座の戦士※修正 ( No.27 )
日時: 2014/01/18 17:59
名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: fZ73J0jw)

「十字星座の戦士……」

「十字星座の戦士だと……?」

シエルと俺が、二人して、同じことをつぶやく。信じられない、といわんばかりに。
フラムも、どこか呆然としたようにその文章を読んでいて、レイだけが、不思議そうな顔で、俺たちのことを見回す。

「あ、あの、どうしました?」

その問に、答えられない。
夢の中の出来事、絶対にありえないであろうと思ったあの出来事、そして、語りかけてくる、十字架の存在。……語られた、十字星座の戦士という、単語……そのすべてが、ここで、いまここで、合致したような気がしたから。
だが、同時にわからないことが生まれる。
その時代に活躍した、もうひとつの英雄……十字星座の戦士達。その存在はまったくもって、今の世の中に伝わっていない。それは、なぜなのか。なぜ、そんな英雄の名前を後世にのこさなかったのか、それも不可解だ。そしてなによりも、なぜ、その歴史の影に潜んでしまった英雄の名前が……俺の、夢で、語られるのか……。

「……いや、なんでもない」

俺は、レイの問に答えるように、そして、夢の中で語られる、その存在から逃げるように、そうつぶやく。シエルも、フラムも、我に返ったかのように、

「なんでもないよ」

「大丈夫大丈夫、ちょっとびっくりしただけさ」

……だが、そのことは今は、おいておこう。今まで、俺は、この夢を見始めた、十年ほどまえから、この夢について、誰にも相談したこなかった。それは、バカバカしいと思っていたためでもあるが……俺は、なによりも、その夢のなかで最後に見る映像……世界の破滅……その事実を誰かに伝えれば、本気に捉えてしまい……平和が……俺の信じてる、今の平和が、壊れてしまう気がするから……だから、やめておいたのだ。

「十字星座の戦士……か、初めて聞いたな」

俺は、不自然にならない程度にそうつぶやく。

「……たしかに、そんな名前は今まで聞いてたお伽話とかでもでてきてなかったしな」

と、フラムがいい、それにシエルがうなずく。

「そうだね……今の全部が、もし事実だったら、私たちの知ってる物語はまるで別物になる……」

「ですね……私も、ここまで大きな違いがあるなんて思ってもみませんでした」

「だな……俺も、この本見るまではそんな別の物語があるなんて知らなかったよ」

シエルと、レイと、フラムがそれぞれに感想をいうが、俺はやはり、十字星座の戦士について、考えてしまう。
……そうだ、十字星座の戦士は、さっきのフラムの言い方からすると……

「もしかしてだが、十字星座の戦士にも、光、氷、闇、炎の、属性の概念が存在しているのか?」

そういうと、フラムが、さきほどのページをみて、ああ、と頷く。

「ああ、十字星座の戦士にも、たしかに四属性が存在しているな」

「そうか……」

四属性……存在している。それは、つまり、夢の中で最後に俺が言われる言葉……十字星座の光の戦士。ならば、ほかにも、氷、闇、炎の属性の戦士が、この世界のどこかにいて……、俺と同じく、世界の破滅の映像を見ているかもしれない。そいつらは、なにを思っているのか、今、なにをしているのか、その破滅に対して、抗おうとしているか……それが、俺は気になった。そして、気になったと同時に、俺は、自分自身で、その破滅に対して、どう向き合うのか、まったく考えてなかったことに、気がつく。
……まあ、それでも、今考えることじゃないな、と俺は勝手に結論づけてしまう。

「まあ、四英雄の子供だし、ね」

と、シエルがいったあとに、フラムが本をとじて、てきとうな方向に投げ飛ばす。

「うっし!!この話はとりあえず終わりだ!!読んでてもこれ以上わかることはないだろうしな!!」

「ま、たしかにな。もっと知りたきゃ機関の資料室にいくか、バウゼン・クラトスに直接尋ねるかしかないだろうな」

各々が、それで話は終わりだ、といわんばかりに話を切り上げるかのように、もといた場所に戻ろうとする。だが……次に、レイが発せられた言葉で、俺は……考えなければならないことに気づかされる逃げてはいられないということに……気がついてしまう。そうだ……その言葉を聞いたときから、どうして俺は……

「もしも……また、十字星座の戦士としての力を託された子供が現れたとき……この世界はどうなってるんでしょうね?」

世界が平和なときには、けして現れない、人間側の最終兵器。その存在が、神に力を託された人間が、また現れるとしたら……そのとき、この世界は、確実に平和ではない。
……そして、俺は、その神に力を託されたかもしれない……十字星座の戦士の一人。
俺は、俺たちは、今を平和だと信じている……ならばどうして……俺は、十字星座の戦士だ、といわれたのか……なにかが———始まろうとしているのか……それとも……夢で見た、あの現象が……もうすぐ……————

「……あの、私、変なこと言いましたか?」

その言葉ではっとする。
……べつに、なにもない、なにもないさ。だから……俺が懸念することも……考える必要もないんだ……いま感じている平和がなくなるなんて……そんなことは、ありえない。

「……いや、なんでもないさ」

そう……思っていても、俺は、ただ、弱々しいそうつぶやくことしか、できなかった。



……そのときの、ふと見えたシエルの顔には……俺と同じ、焦りが、伺えた。