複雑・ファジー小説

Re: 十字星座の戦士 ( No.29 )
日時: 2014/01/18 20:29
名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: fZ73J0jw)


「————————お待ちしておりました……ゼル・レギオン様」

月明かりが、分厚い雲に覆われ、完全な闇に包まれたベルケンドの街の入口に、闇夜に覆われ、目立たなくなった、白いローブを着た男が、街の外からやってきた、赤いローブを着た男、と、その後ろに連れられてやってきた白いローブの男30人、そして、その男たちがひいてきた、巨大な荷馬車5台を確認して、恭しく頭を下げる。
ゼル・レギオンと呼ばれた、赤いローブを着た男は、後ろの荷馬車をひいてくる男たちの動きを止めさせて、目深にかぶったフードをはずし、ニヤァ、と不気味な笑いをうかべる。

「キメラ30名とぉ、「天魔」5体、無事ベルケンドの街にとーうちゃーく」

そう、おちゃらけていう。
後ろからは、白いローブをきた男たちが、不気味に笑う。出迎えにあがった白いローブの男も、つられて不気味に笑い始める。

「いやいや……じつに愉快だなぁ……もうすぐぶっこわれちまうってのに、この街はのんきすぎる!!平和すぎる!!まるで警戒しやしねぇ!!」

そういい、豪快に笑う。いつもならば、この入口には、戦闘職業の、ギルドと呼ばれる団体が、警備をおこなっているのだが、白いローブの男があらかじめ、夜間の警備をギルドではなく、自分たちが行うと交渉していたため、いつも行われている警備は、ないのも同然だった。
出迎えにあがった白いローブの男は、その事実を思いだして笑う。自らたちが信じきって託した警備、それは、その「天魔」を迎え入れるための布石になり、日が昇った、この街が壊滅することを示しているのだ。警備を任せた男たちが、裏切られたと知ったときの表情を想像して、白いローブの男は、また笑う。
そう、このことを知る者はいない。想像もできないだろう。自らが正義だと思うものが、自らのすべてをぶち壊してしまうなんて、思うはずがない。
だから、男たちは笑う。この街の未来を想像して。

「この街に恨みなんてねぇが……十字星座の戦士が「運悪く」この街に生まれちまったことを後悔するがいい……ヒヒッ」

赤いローブの男はそういいながら、忍び笑いを漏らす。
荷馬車をひいた男たちが、つぎつぎに街にはいっていく。それを、白いローブの男が、笑いながら歓迎する。普通なら、街に入る際には、荷馬車の中身のチェックなどが行われるはずだが、そんなことはしない。そんなことをしてしまえば逆に、白いローブの男が「喰われてしまう」からだ

「明日はいい一日になるぜぇ……この街の犠牲とともに……歯車が動き始める……「アポカリプス」の称号をもつあいつでも、もうとめられなくなる……」

赤いローブの男は、狂ったように笑う。その男の狂気に連動するかのように、月が、紅に染まる。男の目は、その月を映し、まばゆいばかりの狂気を宿す。

「レジスタンスが求める最後の希望を叩き潰し……俺たちの目的を……遂行させようぜぇっ……ギャハハハハッ!!」

白いローブの男の肩をたたき、大声をだしながら笑い、その男も街のなかにはいる。出迎えた白いローブの男もそれに釣られるようにして、笑う。
天魔と呼ばれた化物が、街に入るのを誰も止めることはできない。自らに迫る恐怖を、誰も感じ取ることはできない。それが過ちであることすらも、なにもかも、誰かの手のひらで踊っていることなど、誰もわかるはずがないのだから。
ベルケンドの街は、完全な闇から、狂気の紅に照らされる。天魔と呼ばれる化物を招き入れ、まるで、最後の夜だといわんばかりに、月は、紅く、紅くベルケンドの街を照らし出す

「……さぁ……戦争の始まりだ」

赤いローブの男がそういい……、【機関】の兵士たちは、影に消えた。
その様子を、ずっと伺っていた、同じく白いローブを着た男が見ていた。
ただただ、拳を握り締め……自らの無力を呪いながら———