複雑・ファジー小説

Re: 十字星座の戦士 ( No.30 )
日時: 2014/01/19 23:42
名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: fZ73J0jw)

3話【Collapse(崩壊)】






目が、覚める。
いつものような不快感を感じることなく、布団が放り出されていることもない……夢が現れたという、実感も、ない。
そんななかで、俺は目を覚ます。
夢……毎日見ていたはずの夢……それをみなかった……か、あるいは、記憶されていなかった、という事実に、俺は驚きを隠せずに、ベッドから転がり落ちる。
いつもいつも十字だのなんだのとうるさいあの夢が、今日に限って現れなかったのだ。

「夢が……なかった?」

その夢を見始めたのは何年前だったか……その日から、毎日毎日見続けていた。同じ内容、同じ会話……それをなんどもなんども繰り返していくうちに、俺はそれが当たり前だと思っていたが、なぜ、今日に限って?と、俺は転がり落ちた衝撃でぶつけた頭をさすりながら思う。
時間は、いつもより起きるのが早いぐらいの時間。そして、目は、先ほど頭をぶつけた衝撃でほぼ覚醒している。だけど、腑に落ちない点が、俺の心にもやをつくり、不快な感じがするのがわかる。
さんざんいやだとばかり思っていた夢が突然現れなくなったことに、俺は、喜びどころかその正反対の、焦りの表情をうかべる。
部屋の外から、ドタドタと音が聞こえる。おそらく、俺がベッドから転がり落ちた音でなにがあったのか、レイが確認しにくると判断した俺は、その夢のなんたらを忘れるかのように、まるでその答えがないことから逃げるかのように、平然と立ち上がり、何事もなかったかのように振舞う準備をする。
俺が立ち上がると同時に、レイがドアを軽くあけながら

「さっき、大きな音がしたけど……お兄さん、大丈夫ですか?」

言い終わると同時に、ドアを全開にする、そして、レイの目に映るのは、シャツとパンツだけという、人にみせるにはちょっと恥ずかしい姿をした俺の姿だった

「———!!」

レイは、声にならない悲鳴をあげたかと思えば、思い切りドアをしめる。ふむ、いつもしずかなレイからは想像できない、行動だな……と俺は冷静に判断しながら、レイの恥ずかしがり屋な性格を思い出して、少し申し訳ない気持ちになりながら、ドアの前にまだいるであろうレイに返事をかえす

「べつになんともなかったぞー」

そういいながら、タンスからいそいそとジャージをとりだしながら、それを着る。
レイがなにもいわずに階段をおりていく気配がする。まあ、なにがあったかの確認でおもわぬものを見させられて、恥ずかしい気持ちはわかるけど、返事は返してほしかったな、といたたまれない気持ちになりながら、俺はカーテンをあけ、窓を全開にして、外をみる。
今日はも平和で、平穏な、空気が、この街にはただよっている。
機関がつくりだした、平和な世界。バランス、均衡……それは、人々が求めていた、理想の形だ。そして……その人の理想をつくりあげたのは、初代の機関の最高権力者、バウゼン・クラトスという人物だ。東西南北に1つずつ存在する、巨大な街。たとえば、俺が住んでいるこのベルケンドや、ほかの、西、南、東の街は、かつては、魔物が街のなかにはいってこない日なんてないぐらい、危ういところになりたっていたという。その当初、戦闘職業は、街の中から外にでる暇などなく、魔物の巣窟に出向いたり、危険因子の魔物を大規模編成で、討伐しに外にいくことなんてほとんどなかったという。今では、それを行うのが当然となっているのは、そう、やはり、バウゼン・クラトスという人物の働きによるものだった。
バウゼン・クラトスは、俺が知っている限りでは、五十年前、この世界の中心にある塔……かつての大戦で神が人間側の拠点として作り上げた巨大な塔を中心に、大きな街……首都を作り上げた。当然、それはバウゼン・クラトスだけの功績ではなく、東西南北、各街のギルドが連携し、五年をかけて、首都のをつくりあげたという。そして、バウゼン・クラトスは、一人世界を周り、ここからは俺にもよくわからないが、各街の中心部に存在する、巨大な魔石を、すべての街の魔石と魔術的回廊をつなげ、そして、首都の塔に最終的に全てつなげるという新技を成し遂げた。その利益は、魔術的理解のあるものが、魔石を使うことによって、バウゼン・クラトスがつなげた魔術的回廊をたどって、瞬間的に別の街、または首都に行くことができる、というものだった。そして……それだけではなく、首都の塔……神が作り出した、人間側の拠点となった塔……そこには、当然、魔力が宿っている。あらゆる魔という魔からその塔を守る、結界がその塔には張り巡らされていて、その結界につかわれている魔力を、すべての街の魔石に、魔術回廊より支給することにより、すべての街にも同じような結界をはれるようにする、といった、人々が求めていた、安寧をもたらすこともできた。
その後、バウゼン・クラトスは、戦闘職業の中でもっとも強いもの……絶対的な力をもち、なおかつ、人々を導く者に与えられる称号……「アポカリプス」を不動のもとに手に入れる。
称号を手に入れると同時、、バウゼン・クラトスは、世界各国から有能な人材を首都に集め、世界のバランスを保つべく、「機関」という組織を作り上げ、この世界の中心にたつことを宣言する。その宣言に、すべての街の人々は従い、賛同した。
機関は、政治的な組織でもあり、魔石の魔術回廊を管理するものでもあり、街を警護する兵士でもあり、悪を裁く正義でもあり……この世界のトップとなった。
絶対的な権力を経て、自らの代だけで、世界に平和と安寧をもたらした最強で、最高な男は———やがて、ギルド「自由の翼」とともに、世界を裏切る。
バウゼン・クラトスがつくりあげた平和は、誰もが認めている。誰もがその行為を無意味だとも思わず、その恩恵に預かっているのも確かだ。今見ている、魔物もいない、近所のおばちゃんたちが、外で談笑しながら、笑い合う姿。当たり前のものだけれども、これは、バウゼン・クラトス……そして、そのバウゼン・クラトスが作り上げた、この世界の秩序を守る、機関という組織がなければ、ありえないことなのだ。

「だから……」

だから、きっと、まだ、「十字星座の戦士」などという存在が、必要になる時代ではない、と俺は勝手に結論つける。機関という組織がある以上、そのトップがバウゼン・クラトスでなくても、きっと、世界は正しい方向に導いていかれると。
夢をみなかったときからなにかがひっかかっていたが、夢のなかにでてくる十字架も、きっと、そう思ったから、今日にかぎってでてこなかったんだな、と一人納得し、俺は窓をしめながら時計をみる。
とくに用事もないが、久しぶりにシエルの家に遊びに行くかなー、とか思うが、まだ朝の7時だ、さすがに今の時間からいくのはあれだな、とか思い、俺はリビングにおりることにする。
そういえば、とおもいだして、昨日ぶっこわれたままもって帰ってきた相棒を、直しに行かないと、しばらくはてきとうな武器で警備とかしなくちゃならなくなるな、とおもいつつ、ドアをあけて、リビングにむかう。