複雑・ファジー小説
- Re: 十字星座の戦士※3話【崩壊】 ( No.31 )
- 日時: 2014/01/19 22:30
- 名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: fZ73J0jw)
台所からは、機嫌をなおしたかどうかはわからないが、レイが朝ごはんをつくっている気配がする。いつもの風景、いつもの光景。
昨日、俺たちが知識と知ったことは、正直、かなり異常なことだった。あの本が発売されたとき、バウゼン・クラトスはおそらくそれなりに叩かれたのではないか、と思う。たとえそれが真実だったとしても、人々が知っている常識を覆すには、それなりの反発も予測できることだ。たぶんだが、バウゼン・クラトスが犯罪者となったいま、その本は生産が止められ、二度と市場に出回ることはないだろう。だが、俺はおそらく、と自分に言い聞かせつつ、こう思う。
バウゼン・クラトスは、この本をつくる以前から、真実を知っていたのではないか、と。
ならばなぜ、とも思う。ならばなぜ、そのタイミングで、自分が事件を起こす一年前なんかに、その本を作り上げたのだろうかと。今までその真実を知っておきながらなぜそのタイミングで、真実を、歴史の影に消えていた英雄の名を、人々に知らしめようとしたのだろうか、と。
その瞬間、俺は、本当に最悪な可能性が、頭をよぎる。
俺は、階段の途中で壁に手をかけて、目を見開く。ふとした瞬間に、なにかがみえてしまったような感じで、思う。
そうだ……違和感だ。バウゼン・クラトスが作った本が発売された理由、なぜそのタイミングではならなかったのか。そして、どうして、フラムの家に、そんなものが置いてあったのか……違和感だ。違和感ばかりだ。フラムの親は普通だ。普通に仕事をしていて、普通に生きている人たちだ。だから、バウゼン・クラトスの名前も当然しっていて、十一年前からも、そのカリスマ性を知っていて、当然、その人がだした本ならば買っておいたりもするだろう。そうだ……それこそが「狙い」だ。
仮に、本当に、仮にだ、と俺は、頭を抱えながら、その最悪な可能性、この世界が、夢のようになるであろう、本当に最悪な可能性……。
「だが……バウゼン・クラトスがそれを見越して本をつくったなら———」
話は、大きく変わる。
この世界を守る者なんて存在しなくなる。この世界を秩序で安定させる者もいなくなる。なにもかもが、そのひとつの組織の裏切りによって、この世界は、大きく狂わされる。
そうだ……俺が、俺たちが、十字星座の戦士たちが……もしも必要となるそのときがくるのならば———世界に、突然魔王が出現する、とか、天災がこの世界を覆うだとか、そんな問題ではない。もっと内側が……この世界の、中心部まで食い込む、根本的なものだ……そうだ———
「だが……まだ決まったわけじゃない」
俺は、バウゼン・クラトスの本の違和感を振り払い、その最悪の仮定を頭から追い出す。逃げるように。
そして、いつもの一日が始まる。
なぜ、自分の思考が、突然世界の崩壊の可能性を仮定したのか、なぜ、バウゼン・クラトスの本に違和感を覚えたのか、普段なら、そんなことは、ありえない、きにもとめないはずなのに、その違和感にも気がつかないまま……世界の歯車は回り始める。誰かが笑い、誰かが泣き、誰かが狂う。そんな世界から目を背け……俺は、俺たちは、ただ、いつもの日常に、戻っていった。