複雑・ファジー小説
- Re: 十字星座の戦士※3話【崩壊】 ( No.32 )
- 日時: 2014/01/20 01:27
- 名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: APISeyc9)
「リヒトは、少し危機感が足りない」
朝とも昼ともいえない、曖昧な時間帯、どちらとも言えないが、日差しは暖かく、今日も絶好の外出日和だといえる。
そんななかで、街中を警備、といった名目でシエルを誘って、街中を歩いているときに、ふとしたきっかけで、シエルがそういう。
だが、別に怒っているわけではなく、呆れている、といったふうな感じにそういう。まあ、原因は、俺が壊れた剣を一日放置した結果、そのまま鞘に収めてきたということだろうな、と俺は苦笑いしつつ、シエルにこたえる
「ま、なにごとにも対処できるように最善をつくせって教官の言葉を思い出すぐらいには反省してるよ」
といいながら、俺は相棒を鞘から引き抜く。
シエルと本気でぶつかりあった証明であり、俺の努力の証明でもある剣。相棒。それをこのまま放置しておくのは、さすがに俺も忍びない、だが、すぐに事件やらなにやらが、おこるはずもないし、いくら努力をかせ寝てきたとは言え、俺のように、街の警備だけ行っているものが、駆り出されるような緊急事態なんて早々起こり得るはずがないので、のんびりとしたもんだ。
「いついかなるときにでも対応ができてこそ、一流の剣士だからね」
そんなものに憧れるような含みを込めて、シエルがそういう。俺からしたら、十分お前もすごいけどな、と思うが、一流とは、新人が5年、10年とがんばってもなれる領域ではないはずで、俺はその領域に達しているような剣士や、戦闘職業の人を見たことがないのでわからないが、俺たちのような新人がそうそうなれる領域ではないはずだ。当然、俺たちのことを教えた教官たちですらも、いついかなる時、臆せず、立ち向かえる勇気、そして実力をもっているといわれれば、そうでもない。そんな剣士になることが、俺たちの目標であり、教官たちの夢だ。
まあ……べつに、そんなに力をつけても、戦う敵がいなければ意味はないんだけどな、と俺は思いつつも、そんな力をつければ、俺も、今の考えを捨てられるかもな、とか思ったりもする。
「でも、剣を壊した日にすぐに修理にださないのは、また別問題だと思う」
「うっ……」
「もしも仮に、今日この時にでも魔物が街の中にはいってきたらリヒト、どうするの?」
「ま、まあ、体術で……」
「体術も試験ギリギリだったくせに」
シエルが心底呆れながらも、出来の悪い弟を見るような、優しい目で俺のことを見つめる。
そんな目がちょっと恥ずかしくて、俺はボリボリと頭をかき、言い訳をくちにする。
「ま、まあ、そんなすぐに俺みたいな落ちこぼれが駆り出される機会があるとは思えな……」
「危機感が足りない」
「……はい」
シエルにたしなめられて、俺は言い訳をやめる。
ま、こいつの言い分はもっともで、たしかに、俺も気が緩んでいた感もある……だが、俺は、少しだけ表情を険しくして、今朝、ふとした瞬間に気がついた、最悪の可能性を思い浮かべ、武器を修理しようと考える。
「でもなぁ……今から出しても、明日かあさってぐらいになっちまいそうだけどな」
「その間は、代わりのもの支給してくれるはず」
「だな……、どこいくかも決まってなかったし、修理屋のおっちゃんのとこいくか」
俺がそういうと、シエルはそれにうなづき、俺たちは修理屋へむかう道をたどるようにして、街を歩く。
俺はシエルと喋りながらも、朝のことをまた考える。
バウゼン・クラトスの本がなぜ、あのタイミングで発売されたか、なぜ、俺に、十字星座の戦士だと告、その力を目覚めさせようとするのか、なぜ、世界の未来だと語り、その映像をみせるのか、そしてなぜ……今日にかぎって、その映像が、夢としてでてこなかったのか……それは、一人で考えるには、とても大きなことで、とても、答えが出るものでもなかった。
「リヒトは……昨日の、バウゼン・クラトスの本の話を、どう思ってる?」
そんなことを考えているときに、シエルがふとそんなことをいう。
俺は、見透かされているんじゃないかと一瞬あせりながらも、シエルはただ単純に興味があるといったふうな顔で俺のことをみているので、すぐに杞憂だと悟り、胸をなでおろす。
「ん……?どう思うって……どのへんがだ?」