複雑・ファジー小説

Re: 十字星座の戦士※3話【Collapse(崩壊)】 ( No.33 )
日時: 2014/01/20 01:09
名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: fZ73J0jw)

俺は、すっとぼけたようにそういうと、シエルは少しむっとしたふうに顔をゆがませて、

「どのへんって……十字星座の戦士のあたり」

「十字星座……か」

危機感、という話の時点で、こうくることは、だいたい予想がついていたが……

「シエルは、どう思う?」

俺は、朝考えた、最悪の可能性を、頭の隅においやり、シエルの意見を先に聞くことにする。

「どうって……もしも本当に、今、十字星座の戦士が、必要な世界になっていたとして、『機関』ほどの組織を相手にできる勢力なんて、それこそ魔界の四天王、そして……」

そこでシエルは少し考えるような顔になり、再び顔をあげ

「その四天王をも統べる、災厄の悪魔がこの世界に復活したとしても……たぶん、無理だと思う」

そう、その考えは、俺とほぼ一緒な意見だ。
機関は、11年前までは、バウゼン・クラトス……戦闘職業でもっとも強者として、神より授かるという称号、『アプカリプス』を不動のものとしていた者が運営し、そして、10年前に、その者の反逆を見事に返り討ちにした、さらなる強者たちが、機関の中には既にいる、ということだ。それだったのならば、並の犯罪者でも、いくら戦闘職業としての実力があろうが、一人でも、大群を投下しても、人間たちはもう、機関に歯向かうことはできないのではないだろうか。そう、俺が考える最悪の可能性は……そこなのだ。

「俺もだいたいシエルと同じ意見だが……逆にって……考えは、どうだ?」

俺は、おそるおそるシエルにそういう。これだけは、自分ばっかしでとどめておこうと思ったけれども、なぜかシエルには、話しておかなければならないような気がして、自然とそんなことが口にでてしまう。シエルは俺の言葉の意味を最初、意味がわからないと首をかしげていたが……やがてその真意に気がつくと、顔を青ざめさせ、いつも眠たげにしている目を、驚きに見開く。

「そんな……まさか……———」

「そうだ……もしも、もしもだ……」

「でも……たしかに、十字星座の戦士が必要になる世界……機関という最強の組織ですら止められない敵は……それしか、考えられない」

シエルは、思った以上に、納得がいった、といった顔をして、俺のことを見つめる。その目には、決意と決心と……そして、いつもの眠気に満ちた表情を一変させた、凛々しく、気高い、戦士の誇りが垣間見えたような気がした。

「でも、あんまり重く考えないでくれ。世界は至って平穏、穏やか……平和といっても過言じゃない。もしも、十字星座の戦士が本当に必要になってるなら……」

「世界はもっと、混乱してるって?」

「そうだ。だけど、そんな欠片は、一切ない」

俺は、それがまるで真実でないかのように、言葉を重ね、俺自身が考えついた最悪の可能性を消そうとする。本当にそんなことがあってはならないのだと、俺の心がそれを否定しているから、そんなことはないと、なにも証拠もないのに、隠蔽しようとする。
世界各地に配られる、首都から転送されてくる新聞にも、大きな事件は何一つとして書かれていない。あるとすれば、巨大な魔物の討伐に成功しただの、機関があらたなる発明をしただの、機関の政治方針に対するおえらいさんたちの論議をまとめた論文とかばかりで、とてもじゃないが、十字星座の戦士が必要になっている世界だとは思えない。
だが、シエルは、俺がそのことを否定するのが、気に食わなかったのか、むっとした表情で、そして、さらに、いつものねむたげな表情はすでにどこかに消えていて、焦りと、恐怖と、そして、俺に対する怒りだけが、その顔には映し出されていた。

「だからリヒトは……危機感が足りないって言ってるの」

シエルは俺に詰め寄り、胸ぐらを掴むと、いつもの穏やかではない、恐怖に怯えながらも、怒りに震えた声で、俺にいうのだ。