複雑・ファジー小説

Re: 十字星座の戦士※3話【Collapse(崩壊)】 ( No.35 )
日時: 2014/01/21 21:48
名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: fZ73J0jw)

いつもと同じような一日だった。夢を見て、レイに起こされ……そして、母さんが、朝飯を用意してくれていて、父さんが、生業である戦闘職業の、遠征に出る日だったため、早くから準備をしているというだけの、ごく一般的な、家族の風景。
父さんに憧れ、自身も戦闘職業になることを望んでいた俺は、その年で、ようやく、各街にかならずある、戦闘職業育成ギルドに入隊することができ、ようやく訓練生として、剣をにぎることを許されていた。そこにはシエルもいて、フラムもいて、そして……その二人は、俺よりも才能があり、そして、多くの人から認めてもらえるほどの実力を、すぐに身につけた。だが、俺はそうではなかった。仲が良い二人が、一般よりも少し劣る俺を置いて、さきにいってしまうことが怖くて、俺は、はんばやけになっていたといってもいいだろう。戦闘職業にはいろうと思ったのは、父さんに憧れてというのもあるが、その時の俺が……いや、今でも思っている、俺が戦闘職業にはいろうとおもったのは……誰かを、いや……シエルを、フラムを、レイを……そして、父さんや母さんを、安心させられるほどの力を身に付け、守られる側から、守る側になろうと思っていたのだ。だが、焦りからか、俺はそんなことを忘れ、そして、追いつけないという諦めから、俺は怠慢し、教官の教えを聞かずに、一人でふらふらとてきとうなことをやっていたのだ。
周りの目は、俺を邪魔だといった。目障りだといった。それもしかたないことだったけど、当時の俺は、その言葉から逃げるように、だらだらと、適当な時間を過ごしていた。そして……一人だけ、置いていかれた。
その日は、月に一度ある、実力テストの日だった。父さんは遠征に向かうために、所属しているギルドのメンバーと落ち合うために、街の中央広場に集合する、と言い残し、剣を担いで、家をでた、母さんやレイはそれを見送り、俺も、いやいやながらも、実力テストに参加するために、剣を担ぎ、外にでた。
この実力テストをきっかけに、俺は、戦闘職業をやめようとも思っていた。まだはいった当初は同じ実力だったやつらも、とっくのとうに強くなっている。だから、俺は、もういいだろって、勝手に思いこみ、シエルやフラムが、俺たちのことを守ってくれるだろ、とか、好き勝手なことを思い、やめうと、していた。
その日の天気は、……今の天気と同じような、不吉の前兆とでもいいたげな、曇り空だった。
父さんたちの集合場所と同じ、中央広場に集合した訓練生たちは、教官の指導のもとに、シエルを先頭に、街の象徴である魔法石を目の前に整列し、教官が発表している、今回戦う相手の発表をきいていた。実力テストは、実力の近い者どうしで戦い、そして、勝った方の成績があがり、負けたほうが下がる、といった簡単な方式だ。けど、戦いの最中に使った技のキレ、剣術のキレなどによって、また別の判断基準が生じているから、俺たちのような子供にはわからない複雑な審査が行われるという。そして、当然のごとく、俺の成績は最下位で……当然、今回戦うのも、運悪く落ちてきた、下から2番目のやつだった。
結果は惨敗。誰もが、当然だといわんばかりに、俺を攻めた。戦った相手は、俺に興味を一切示さず、ただただ、当然だと言い捨てていった。
手を貸す者はいなかった。倒れている俺に、誰も手を差し伸べなかった。それが惨めで、悔しくて……俺は……やめてやる……と……叫ぼうとしたのだ。こんなのはもうごめんだと。
だが————それは、叶わなかった。
中央広場に、一閃の雷鳴が、轟く。いや、違う。ベルケンドの街全体、いや、もしかしたら、周辺の村にも聞こえたかもしれないし、中央までとどいたかもしれない……その音は———『魔物』の、雄叫びだった———
空から突如轟いたその雄叫びに、教官たちは即座に戦闘態勢に入る。どこから敵がやってくるかわからないから、あたりを見回し、教官たち全員で、俺たち訓練生を守るように、円を描き全方向に対応できるような形をとる。
父さんたちのギルドは、その雄叫びにより、一時的に全員散開。街中に避難勧告をだすために、走り出す。その時、俺はたしかに、父さんと目があった……父さんは、俺の戦いを見ていない。俺の実力が、どの程度か知らない。ただただボロボロになった俺をみて……よくがんばった……とだけ、目で語り———、俺たちの家がある方面に、走っていった。
ベルケンドの街には、中央広場のとなりに、巨大なドームがある。そこはいつもは、戦闘職業の人々が、訓練するためにはいる場所だが、緊急時には避難場所に変わる、そこは、街中の人全てが入るスペースはないものの、そのほかにも、べつのドームがあり、それぞれに避難することによって、街中の人々が、もし魔物が街にはいってきたりした時に、襲われないようにできる。
だがその本質は、街の人々を一箇所に集めることによって、魔物をすべてそこに集中させて、後ろから戦闘職業者が叩くという、いわゆる餌の役割を果たす避難所だ。
未だ、魔物の雄叫びが響いている。教官たちは、俺たちに、まだ魔物がこないことを見計らって、避難所にいくように指示する。教官たちの顔に余裕はなく、バウゼン・クラトスが敷いた結界を、真正面からやぶってくる魔物が、どれほどおそろしいものなのか、そのとき俺たちもようやく理解することができたのだ。