複雑・ファジー小説
- Re: 十字星座の戦士※3話【Collapse(崩壊)】 ( No.36 )
- 日時: 2014/01/22 21:52
- 名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: 74hicH8q)
だが、俺は、その時、一人だけ、飛び出していた。魔物が雲を突き破り、街に急降下してくるのが見え、教官たちは、俺にかまう暇などなくなったそのすきに、俺は飛び出していた。剣を握り締め、家にむかって、走っていた。
後ろから誰かがおってくる気配がある。けど、気にしてる余裕なんてなかったのだ。なぜか、嫌な予感に駆られていたのだ。雲を突き破ってきた魔物の姿は、伝説……神話……さまざまな蔵書に、聖獣として人々に知られる……竜だった。赤き竜は、ベルケンドの街の真上から急降下してきている……俺は……なぜかその時———————竜が、俺の家の近くに降り立つと、予感してしまったのだ。
そして————竜が地上に降り立ち。その衝撃で回りにある家は吹き飛び……その周辺にいた戦闘職業の人々が……吹き飛ばされる。
人の約4倍ほどの体躯を持つ赤き竜は、吼え、その吼えた衝撃でまた、突風が巻き起こる。俺は、そんな光景を———家の目の前で、見ていた。
竜は、自分の家の3つほどさきの道に降り立ち、その回りの家を吹き飛ばしたが、ここにはとどいていなかった。ただただそのことに安堵しながら、俺は家に入った時に……ふと、思った。
誰のぶんの靴も、玄関には……なかったのだ。
そのことに俺は、ひどく恐怖を感じた———そうだ……竜のいる方向は———べつの避難所に……むかうための道———
竜が、誰かと戦闘を始めた気配が伝わってきた。誰かによく似た雄叫びが聞こえる、誰かによくにた悲鳴が聞こえる。誰かによく似た、泣き声が聞こえる。その瞬間、俺は走り出していた。
いっても無意味なのに、いっても無駄なのに、邪魔になるだけなのに、いかずにはいられなかった。そのときはじめて後悔した。もっとまじめに訓練をうけれておけぱよかったと、その時後悔した、逃げるんじゃなかったと……そのとき後悔した———父さんや母さんに……なにも、恩返しをしてやることが、できなかったことを。
竜が、単身で戦っていた、剣士をつかむ。そのまま握力で剣士の骨は折れ、絶命する。悲鳴はさらに大きくなり、泣き声も大きくなる。竜は手にもった剣士だったものを……父さんを、口をおおきくあけ、上半身だけ、その鋭い牙で、くいちぎり……地面に下半身を放り捨てる。
剣が地面に落ちる、虚しい音が聞こえる。俺は叫んでいた。泣きながら、剣を構え、一人、父さんと同じように……単身で、竜につっこんでいったのだ。
ただの魔物すら倒すことのできない俺は、竜の脚にきりかかっても、見向きもされなかった。竜は、次の獲物と言わんばかりに、俺を無視し……目の前で泣きじゃくっていた……レイに手を伸ばしていた。
竜が手を伸ばし、レイをつかもうとした。俺は、また、その光景を、ただ絶望した表情でみていた。俺にもっと力があればと思った———その時こそ、本当に、夢にでてくる、十字星座の戦士の力がほしいと、心に思った……だが……竜がつかんだのは、レイをかばい、自ら身を投げ出した母さんで———母さんも———父さんと同じように———竜に、食い殺された。
その後、竜は、俺のあとを追ってきていたシエルが、機関の兵士の詰め所に立ち寄り、呼んできた機関の兵士によってこの場から立ち去り……別のところに降り立ったのちに、さんざん暴れまわった結果に……この街すべてのギルドが連携を取り、竜を討伐することに成功したというが……俺には、そんなことはもう、どうでもよかった。
シエルが、侮蔑と憐れみと……そして、悲しみを込めた目で、俺のことを見つめていた。俺は、四つん這いになって、泣いていた。自らの無力を、呪っていた。その時のシエルの目は忘れない。シエルの言葉も忘れない。そして、自分の後悔も……忘れない。自分の決意も———忘れちゃ、いない。
俺が弱いばかりに、犠牲者は増えた。俺が弱いばかりに、父さんも助けられなかった。肩を並べて戦えていれば、その場から追いやることもできたかもしれないのに……だから、その時の絶望も、俺は忘れてはいない。
雨は無情に、父さんたちの血を洗い流す。シエルはいった。変わらなければ、なにも変えられないと。俺は言った。変わってやると……ただ二人残された、兄妹のレイを守るために…命がけで家族を守ろうとした父さんのために……母さんのために———レイを、守るために……そして、戦闘職業に入ったときに決意した……シエルや、フラムも……俺が、守ってやるんだと———変えてみせる、と。
俺は、立ち上がる。折れた剣を再び鞘に納めて、もう、逃げちゃダメなんだと……変わらなければ、ならないんだと。
「……なにかを変えるなら……自分が変わらなくちゃならない……か」
その言葉を胸に、俺は、自分の、疑惑を、恐怖を、受け入れる。
もしも……機関が敵だったなら———機関が、十年前を節目に……なにもかもがかわってしまっていたとすれば……きっと、十字星座の戦士の力が……必要な世界に、なっているはずだ。
十字星座の戦士なんて得体のしれないものに対する恐怖もある、機関がもしも敵だった場合、自分にはなにができるかなんてわからない……だけど、俺は、なにも変えられないまま、逃げ続けるなんてことは……もう、できない。
ポツリ、ポツリと雨が降り始め、俺の頬を濡らす。
最悪の可能性を受け入れるのには、抵抗がある……その抵抗を、洗い流すように……雨が……降り始めた。