複雑・ファジー小説
- Re: 十字星座の戦士※イメージイラスト ( No.39 )
- 日時: 2014/01/25 16:38
- 名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: mL1C6Q.W)
誰かが悲鳴をあげた。誰かが、走り出した。それを皮きりに……人々は混乱の渦に包まれる。家から次々と飛び出した人々は、中央以外の避難所にむかうために、一斉にはしりだす。
だが、その瞬間、再び人々の動きは止まる。
街には、東西南北、そして中央に、避難所が設置されている。人々は、そこにむかうために走り出したのだが———また、人々は、顔を上げて、その避難所がある方向を、見つめる。
それぞれ避難所の近くから、宙を羽ばたく巨大な竜が姿を現した。
人々の動きはそれだけで止まる。どうしていいかわからずに、ただただ立ち止まる……そして———剣を携えるシエルをみて———
「おい!!お前剣士だろっ!!はやくあいつをなんとかしろよ!!」
と、怒鳴る。
それにつられて、べつのところからも、同じような怒鳴り声が聞こえる。それだけではすまない。次々に飛んでくるやじが、シエルの心を追い詰めていく。
竜が吼え、人々の表情は恐怖に凍る。やがてその恐怖に負けた人々が、次々にシエルを攻める。
シエルは走り出す。剣を構え、ひとまず、一番近い、南部の避難所の竜をなんとかするべく、中央より西よりの、リヒトから背を向けて歩いてきた道を振り返り……迷いを断ち切るように、走り出す。
人々の渦を、家の屋根を伝って抜け出すと、すでに、この街の戦闘職業ギルドの人々が、屋根を伝い、竜にむかって走っていく姿が、見えていた。
正直、歴戦の戦士である彼らでも、きっと、こんな事態は、初めてだろう。巨大な魔物を相手にした人もいるかもしれない。四年前、竜討伐に加わった人も、いるかもしれない……だが、今回は、全員が集中して一体を叩くことはできないだろう。シエルも、南側を担当することになったギルドに合流して、戦うことを決意する。
だが————次の瞬間
『ベルケンドの街のみなさああぁぁん……はい、ちゅうもおおぉぉぉぉく!!』
中央の竜の上から、突然響き渡ったその声に……誰もが振り返った。そしてそれと同時に……目を疑った———
そうだ……遠目からでもわかる……真紅の竜の頭で、巨大な大剣をかたに担いだ……赤きローブをきて、フードを目深にかぶっている人間の姿……そして……さきほどは気がつかなかった……竜の胸から下腹部にまでのびる傷跡は……間違いなく———
機関を象徴する……十字架———
『これよりこのベルケンドの街をぉ……この……』
人々も守るための行政機関。最強の勇士たちが集う場所。誰もが目を疑った、誰もがその言葉を疑った、誰もが、うそであってほしいと願った。歴戦の剣士たちすら、歴戦の魔術師ですら、歴戦の銃士ですら、誰も、目の前の敵に集中することができなかった……誰も———
『機関十二神将……ゼル・レギオン様が!!最高権力者、イナンナ・デスストリームに変わり……この街を、恐怖と、絶望と、破滅に陥れさせてやんよおぉぉ!!ヒイィィッハァー!!』
大仰な仕草で雄弁に語り……そして———腕を天にめがけて振り上げ……それを合図に———すべての竜が吼え———戦いが、始まった。
そのときにはもう———誰もが気がついていただろう……機関の格好をしただけの愉快犯が、街を混乱に陥れるために起こしたものじゃないかとか、機関の名を語るテロリストなんじゃないかとか、そんなことはもう、誰も考えられなくなっていた……そう……竜の存在……そして……あの真紅のローブの男から流れる、桁違いの魔力は……まさに……機関の力の象徴とも……いえたから———