複雑・ファジー小説

Re: 十字星座の戦士 ( No.4 )
日時: 2014/01/18 16:23
名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: fZ73J0jw)

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「今日は、たしかシエルさんと手合わせする日でしたね?」

朝食を食べ終わり、リビングで「神話武器大全」という本を読んでいた俺に、ふとレイが問いかける。それに俺は、思い出したかのように

「あー……たしかそんな約束してたな」

という。

「12時からですから、まだ時間は大丈夫そうですけど……しっかりしてくださいね?」

シエル、というのは、俺の幼馴染のことだ。
シエル・グランツは、別に家が隣同士なわけでもなく、さらにまた、家が近いわけでもない。だが、親同士がもともと知り合いだったらしく、よく会う機会があったのだ。
性格は俺の正反対なような感じで、いつも俺のひねくれている性格に文句をいってきたりしていて、俺からすると苦手なタイプだが、レイはどうもやつのことを気に入っているらしく、よくレイの口からシエルの話をきく。
手合わせっていうのは、やつも当然のごとく『戦闘職業』の称号を取得していて、さらには、俺とレイに並ぶ『称号』をもっている、かなりの実力者だ。
その実力者様は、だいたいレイと同じ14歳でその『称号』を取得していて、今回の手合わせっていうのは、俺が同レベルの『称号』を取得した二ヶ月まえからやろうといわれていたことなのだが、俺がめんどくさがってというか……負ける気しかしなかったから、先延ばしにしていたものだ。

「大丈夫さ、シエル相手に気張る必要もないからな」

「お兄さん……シエルさんをなめてかかると……」

「わかってる、あいつは強いからな……その時はがんばるさ」

レイでさえも実力を認めるシエル、しかし、その実力を、各『戦闘職業』の教官たちだけではなく、この街に滞在している『機関』の連中ですらも、認めるている。
『機関』っていうのは、いわゆるこの世界のルール、この世界の中心、この世界の政治を担う、軍のような組織だ。当然、その『機関』の兵は『戦闘職業』のプロばかりで、その人たちですら実力を認めてしまうぐらい、シエルの実力は相当のものだった。
たいして俺は、教官たちからは問題児と言われ続け、同じように教官から習っていた同年代のやつらには、雑魚だのうざいだのやる気がないだのといわれてきたやつだ。実力は同じ年でも、天と地ぐらい差があるんじゃないかって思う。けど、そんな俺でも一応は、がんばってきたんだ、あがいてあがいて、おいついてやるさ。
問題児対優等生。燃えてくるじゃないか。

「俺もこの二ヶ月、ただ逃げていたわけじゃないからな」

この二ヶ月、死に物狂いで特訓してきたといっても過言ではない。
『戦闘職業』には、通常攻撃、技、魔法の三つの攻撃手段が存在する。
たとえば、ふつうに武器を振ったりして、相手に攻撃するのは通常攻撃といわれ、これは誰でもできることだ。だが、技と魔法は違う。
まず、技だ。技というのは、この世界に満ちるマナという大気に漂う魔力を使い、それを武器に宿らせて、様々な特殊攻撃を繰り出すことだ。発動条件は人それぞれだが、ほとんどの人は、技名を叫び、それを合図にして、攻撃をだすことがおおいい。これは、かなり才能の差というものがあり、マナを操る力が強ければ強いほど、強大な技を繰り出すことができる。
攻撃としてどんなものがあるかというと、例えば、マナの力をつかい、剣に青い粒子みたいなものを宿らせて、その剣を地面に叩きつけることによって、その粒子が衝撃波とかわり、地面を伝い相手を襲う『衝撃刃』という初歩中の初歩の技から、自身の技量がかなりのものでなければ発動することすら難しい、超強大な技も存在する。
そして、魔法だ。魔法は、技の仕組みと基本てきに同じだが、魔法には『詠唱』が存在し、それをしなければ、ただマナを自身の周りに集めるだけで、なにもすることはできない。しかし、『詠唱』をすることによって、マナに属性を付与し、目的にむかって放つことにより、強烈な爆発をおこしたり、マナを凝縮させ、属性を宿し、巨大な球体を相手にむかってはなったりと、これもまた本人の技量によってはかなりのものがつかえると思われる。
剣士は基本、技を扱うことにより、その実力を発揮する。魔術師は、魔法をつかうことによって、実力を発揮する。銃士は、技と魔法、両方を使いこなすことにより、実力を発揮することができる。そのため、実力の差というものが存在してしまい、才能によって、差がひらいてしまうのが、この技、魔法というシステムだった。
だから、俺はこの二ヶ月、死に物狂いで、技を磨き続けてきた。いや……この二年間だ。この二年間、俺は遅れを取り戻すかのように、できるかぎりのことをやってきたつもりだ。その結果がまあ、今の『称号』を取得するまでに至ったんだろうが……きっとまだ、たりない。
俺が、誰かを守るために……大切な人を、もう二度と失わないような力には……まだ、きっと、届いていない。
拳を無意識に握り、その手を見つめる————届かなかった、この手を。

「……お兄さん」

そうすると、レイが、そっと俺の拳を両手で包み込む。安心させるように……

「今日、シエルさんに勝ったら……お兄さんの好きなもの、作ってあげますね?」

そう言い、レイは笑う。その笑顔につられた、こわばった顔がほぐれ、俺も自然と笑顔になる。

「まかせとけ、絶対に勝ってやる」