複雑・ファジー小説

Re: 十字星座の戦士※イメージイラスト ( No.40 )
日時: 2014/01/26 23:36
名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: mL1C6Q.W)


「……機関……だと……」

竜が、街に現れ、ゼル・レギオンという男が、狂ったように笑う。そして人々は……我さきにと、逃げ出す。
敵は機関と名乗った。最悪の可能性が、実現した。
俺は、それをただただ呆然と眺めて……そして……怒りに燃えた。
最悪の可能性……機関が、もしも敵だった場合、ほかの街でおこった事件、小さな村でおこった事件、首都でおこった事件などは、機関から配信される情報しか知りえない俺たちは、そんなこと予知できるはずがないし、対処する方法もない……シエルのいっていることは何一つ間違いではなかったし、俺たちは、機関が、敵であることを、世界を裏切っていることを証明する手立ては、ひとつもなかった。
だが……機関は、ここで、敵であることを宣言した———四年前、母さんや父さんを殺したときと同じような……竜を連れて———

「……っ」

俺は、怒りのあまり拳を震わせる。最悪の可能性が起こったことにも、自分の危機感が足りなかったことにも……そして……母さんや父さんが殺されたとき……もしもそのとき、機関が影から手をひいていたとしたらと考えると……怒りで、頭が真っ白になりそうになる。

「ふ……っざけんな!!」

俺がそう叫んだと思った瞬間、人々の悲鳴が、さらに大きなものとなり、建物が壊れる音が、加速して、聞こえ始めてきた。

「くそが!!」

俺はすれ違う人々を無視して走り出す。剣は折れ、なにもできないのに、西側の避難所付近で暴れまわる竜にむかって、走る。
その途中、見た。無残に転がる人の死体を。
まだ始まったばかりなのに、竜は、戦闘職業の人たちが抑えてくれているというのに、死人が、もう、でていた。
そのことに、俺は顔を青ざめさせる。そうだ、けして竜の攻撃の流れ弾とかではない、竜が吹き飛ばした建物とかの破片でもない……そうだ……だとしたら考えられることは……

「機関の……兵士か」

俺は走りながらそうつぶやく。おそらく、きっとどこかに、けして少なくない数の機関の兵士がいるだろう。戦闘職業のスペシャリストたちが、こぞって一般人を……守る対象を、殺し回っているのだろう……そのことに、一層俺は、怒りを覚える。

「人を馬鹿にしやがって……」

機関が敵だったことに、絶望して動けない人は、多いはずだ。今戦っている戦闘職業の人たちも、きっと、機関が敵だなんて信じられないと思っているだろう。俺も、そんなの信じたくないし、嘘だというのならば、嘘だといってほしいと思っている……だが、四年前と同じように出現した竜、そして、この街を壊すといった、機関の十二神将。そして……無残に殺された、俺たち戦闘職業が……守るべき、人々……
間違いなくそれは……俺が思っていた最悪の可能性の具現化で———シエルの考えが、正しかった、という証明だった。
俺たちが……いや、俺が、誰に信じてもらえなくてもいい、信じてもらえなくてもいいから、その可能性があるということを、みんなに知らせておけば、もしかしたら、なにか対策ができたかもしれない。だけど、俺は、それをしなかった。危機感が足りないと言われればそうだし……臆病だと言われれば、それもまた、事実だ。
無残に転がる死体から目を背けるように、俺は走る……だが、一瞬だけ……ほんの一瞬だけ———チラりと見えた光景の中に……血まみれで倒れた……剣士の姿を———みた。

「ちっ!!」

思うより先に、体が反応して、急停止し、後ろに跳躍する。すると、俺が交わさずに、そのまま走っていたら確実に捉えていたであろう場所を、剣の残光が、霞んでいた。

「思ったよりも反応がいいですねぇ……しとめられなくて残念です」

そして、言葉とは裏腹に、あまり残念がっていない、むしろ、それを楽しんでいるかのような口調で、一人の男が姿を表す。
その男は、赤かった。もともとは白いローブだったであろう……機関の象徴のローブを、返り血で濡らし、真っ赤に染め上がったローブを身にまとい、顔はフードで覆われていて見えない。右手にぶら下げるようにして持たれて長剣は、これまでに人を何人も切ったであろう証明に、血が滴り落ちていて……そして……

「な……なんだ、その『腕』は」