複雑・ファジー小説

Re: 十字星座の戦士※3話【Collapse(崩壊)】 ( No.43 )
日時: 2014/01/29 22:24
名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: mL1C6Q.W)

「これでどうでしょうか!!」

後ろで、機関の兵士が叫び、また、なにか技をつかっているのがわかる。その度に狼が遠吠えをあげ、吼え、おぞましい光景を、さらにおぞましい光景にかわる。魔法のような……技。
俺たちのような若輩者には、まだ作り出すことのできない、自立型の攻撃技。その驚異は……それらを放ったあと、勝手に動くその攻撃の最中に、自身も自由自在に動けるということ……やはり、機関の兵士だけあり、そこいらの剣士なんかよりも、よっぽどつよい。俺なんかでは、手も足も、でない。
けど……逃げはしない。
背景の世界で竜が吼える。人々の悲鳴が、まだ聞こえる。建物の崩れる音は、鳴り止まない。どこかで、男が、高笑いをあげているのが、伝わる。
焦りや不安も募る。シエルはどうしてるのか、レイはどうしてるのか、フラムもどうしているのか、顔見知りの人々の顔が浮かんでは消えて、俺の心を焦らせる。だが……迷いは、ない。

「『魔神』……いや……大地を引き裂き魔を滅する光の刃よ!『百連・滅光刃』!!」

夥しい数の、粒子で形成された狼が、一斉におそいかかる。四方から一斉に、全方向から、俺を食い殺すべく、せまる。
俺がつかえる技の数は少ない。おそらく、10に届くか届かないかあたりの技しかないなかで、もっとも範囲が広く、俺のなかでは最強だと誇れる唯一の全方位型の技……それを、叫ぶ。
下級、中級、上級……そして、さらにその上をゆく、超級の、大型攻撃。それひとつであいてのオリジナルコンボを打ち破ることもできるし、実力が上の相手でも、その攻撃ひとつで、戦況を覆せるほどの技。だが、そのぶんリスクは大きい。身体の骨の一本や二本は覚悟しなければ使えない技。それほどまでにぶっこわれた、最凶の技。
その超級の技を使えるものは、数多いい。だが、その力は、基本的に、人間の許容量をオーバーしているため、ほとんどの戦闘職業の人々が封印し、忘れ去られる、それが、超級の技。
基本的に使用は許可されておらず、身につけたとしても、皆忘れていく一方であるなか……俺は、それをためらわずに、つかう。
その許可を下ろさなかった機関様が敵にまわっているんだ……こんな時にまで、法律なんて守っている筋合いはない。
光の刀身の周りに、魔法陣がまとわりつく。何重に、何重に……俺はそれを確認すると、一切の迷いもなく、剣を地面に、おもいきり突き刺す。
地面にさした瞬間に、剣に宿った魔法陣が地面を伝い、俺の半径……だいたい十から二十メートルの距離を、その魔法陣が、埋め尽くす。
そして、剣を引き抜く。
わずか数メートルまで近づいた狼の腹を、地面からびっしりと埋め尽くされた円形の魔法陣すべての中心部から伸びた、光の剣が、引き裂く。
次々に光の剣が地面から、まるで獲物を串刺しにするかのように現れ、天まで伸びる。実際どこまで伸びているかは知らないが、夥しい数の狼はすべて、びっしりと埋め尽くされた、光の剣……いや、光の柱で、引き裂いた。
半径二十メートル付近にあった家をも飲み込み、塀をぶち壊し、地面をえぐり、だが、仲間の、人々の倒れた人々の身体を突き刺すことなく、剣は、魔法陣へと吸い込まれ……状況は、圧倒的な不利から、一瞬で元の状態にまで戻すことに、成功した。

「く……くずやろう……がぁ……」

いや、元通り以上に、その効力は大きかった。
機関の兵士が、身体の右半分を失った状態で、そこにたっていた。
両足でたち、片腕が消し飛び、ローブはボロボロになり、フードが脱げ、いやらしそうな顔をした中年の男の姿が顕になる。
その男を見る俺の目に、少しだけ戸惑いが、恐怖が、浮かび上がる。
人を殺すことに……抵抗があった。
超級の技の影響を受け、右腕が消し飛んだ男の表情はもうすでに、息絶え絶えだった。夥しい量の血が地面を伝い、鼻を刺激する。それを自分でやってしまったということが恐ろしかった。
だが……迷っていたら、確実に、殺られるのは……俺だ。

すぐにとどめをさそうとした。だが、いくら思っても。身体は動かなかった。その隙を……機関の男が、見逃すはずがなかった。

「その隙……ありがたく使わせてもらいますよ……くずやろう」

最初に疑問を投げかけたときと同様に、左腕を天に掲げる。
それは、異様だった。その光景は、あまりに非現実的だった。その光景はあまりに……不快なものだった。
魔物の腕がまるで脈打つように震える。1度、2度、3度……一度脈打つたびに男の表情が苦しそうになり、4度震えたところで……顔を、鱗が覆い尽くした。
ローブがはちきれ、筋肉が増幅され、肉体が巨大化する。元の身体の倍以上に大きさになったその男の身体は、さきほどの腕と同様ドス黒い鱗が覆い尽くし、顔の形は変形し、まるで竜の頭部を連想させるような顔になる。瞳は顔の左右にわかれ、猛禽のような、黄色の光を放つ。人間の尾てい骨あたりには、1mほどのしっぽが生え、やはりそこも鱗が覆っている。
その姿はさながら———魔物そのものだった。