複雑・ファジー小説

Re: 十字星座の戦士 ( No.5 )
日時: 2014/01/18 16:25
名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: fZ73J0jw)

そういって、時計を見る。時間まではまだある……少しでも、やつに勝つために、すぶりでもしとくか、と、レイが手を離すのを見計らって、立てかけられた俺の相棒をとりにいく。
……さて、シエル。悪いが、おまえには絶対に負けるわけにはいかなくなった・・・俺の、ハンバーグのためにな!!
そんなことはさておき、だ。

「んじゃ、ちょっくら準備運動でもしときますかね」

といいつつ、レイの手をほどき、俺の相棒を手にする。
自身の身長よりも少し小さい、その剣は、今は鞘におさまっているが、俺はそれを引き抜き、刀身を露わにさせる。
長剣、といわれる類の剣。しかし、俺の剣は、片方が峯となっていて、片方だけにしか刃がついていない、片刃直剣、いわゆる『ブレード』といわれる武器だ。
とはいっても、特別なことはなにもなく、俺のこの剣は市販の剣を少しだけ改良を加えてもらった程度のもので、自慢できることはなにひとつないが……俺は、この剣を、戦闘職業の称号を獲得してから、一度も変えたことはなかった。
自分に合わないから別のものにする。あの武器もつかってみたいからあの武器も使ってみる、とか。そんなことは一切していない。自分のスタイル。自分の戦いを見出すために、俺はこの武器だけは、絶対に手放さなかった。まあ、それだけが俺が教官にほめられたところだったりもするんだけどな。
戦闘職業にとって武器は命といっても過言ではない。体術を得意とする戦闘職業の称号も存在するにはするが、やはりそこでも武器、というものはある。メリケンだとかグローブだとか、そのあたりだ。だから、どの戦闘職業においても、武器はかけがえのない友となり、戦いを一緒に切り抜ける相棒でもあるのだ。だから……武器のいいところを引き出し、武器を認め、共に戦うのが、その武器を振るうものの義務だと、俺は考えている。……べつに武器オタクってわけでもないから、そこまで熱く語れることでもないがな。

「……しばらく研いでなかったからちょっと荒れてるな」

まあ、そんな武器でも、耐久性度とかの脆いものは一ヶ月も経たずに使い物にならなくなってしまうものもあり、武器変更を止むなくされる場合もあるが、片刃直剣のいいところは、両刃よりも重い一撃が放てるところと、なによりも耐久性が高いところに魅力がある。
耐久性度が低い武器などは、武器変更のさいに必ず起こる、前使っていた武器よりも軽かったり、重かったり、リーチが違っていたりとかの、慣れの問題が発生してくる。まあ、戦闘職業の上部に食い込める程の実力者なら、鍛冶屋にオーダーメイドで武器を作ってもらったりしてるだろうから、もう一度それをおこなえばいいだけだから、問題はないんだろうがな。

「今からでもいってきます?」

レイが、そんな俺の武器に触れながらそういう。レイからみても、刃こぼれがわかるぐらいに、荒れているらしい。おそらくこのままいくと……下手したら、折れて使い物にならなくなる可能性も否めないが……しかし

「いや、いい。時間もないし、シエルに勝つためにちょっとでもすぶりをしときたいからな」

俺はそういって、武器を鞘におさめて、肩に担ぐ。いつもはべるとがついていて、肩からかけることができるのだが、最近ベルトがきれてしまったので、かつぐしかないのだ。

「おまえはどうする?レイ」

「はい?」

「あー……、俺はこのまますこしすぶりしたらそのまま約束の場所にいくけど、お前はどうする?」

俺の質問に首をかしげていたレイだが、納得いったといったふうな顔でうなずくと

「ごめんなさい、すこし称号のことで『報告』したいので……時間になったら集合場所にむかいますね」

と、悲しげに言う。

「……ああ、わかった」

その悲しげな表情の意味を、俺が、誰よりも、理解している。だがしかし、そのことは口に出してはならない。
約束したからだ。俺が、レイと交わした、大事な大事な約束。俺が今、人として、戦闘職業として、剣士として、武器を振るっていられるのも、すべてがその約束のおかげであることを、俺たちは理解している。そうしなければ…………考えるのはよそう。
俺は武器を担ぎながら、自室にまずむかう。
自室でまず、武器をベッドに投げ捨て、タンスのなかからTシャツとズボンをとりだし、着る。そのあと机に置いてあるグローブを手にはめて、壁にかけられていた膝あたりまで丈があるジャケットをはおり、最後にズボンに道具ホルダーを装着し、いつもの俺の『戦闘職業スタイル』が完成する。
その姿を部屋にたてかけてある鏡をみて、いつもどおりだな、と頷く。
白髪の、肩までかかり、前髪は目元が隠れる程度まで伸びていて、顔立ちは至って平々凡々。身長も特別高いわけでも低いわけでもない。いつもの俺の姿が、そこにうつしだされる。
その姿に満足しながら、俺は武器を担ぎなおし、部屋をあとにする。
道具ホルダーは基本、実践の時以外は使うことはない。傷薬だのなんだのと、いろいろと戦いには欠かせないものが数多く入れられているが、使い道がない方が平和だってことだ。けどいざということもあるから、俺はこのホルダーをはずして外にでようとは思わない。