複雑・ファジー小説

Re: 十字星座の戦士 ( No.8 )
日時: 2014/01/18 16:27
名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: fZ73J0jw)

階段をおり、リビングにまだいるであろうレイに声をかける

「んじゃ、さきいってるわー」

「あ、はいっ。いってらっしゃい、またあとで」

レイは自分宛に届いた手紙を読みながら、俺に返事を返す。
俺はその返事を聞いてから、靴をはき、玄関を抜け外にでる。
……外は、快晴だった。
いつもとかわらない。清々しい天気だ。風が心地よく、太陽の光が強かろうが、暑さはあまり感じない、なかなかに過ごしやすい一日になりそうだな、とがらにでもないことを思う。
近所の子供たちが、こんな時間から外で走り回って、はしゃいでいる声と、ご近所どうしで話あっているおばちゃんたちの姿、笑い声。いつもとかわらない、平穏な時間。
基本的に、どの街も魔物がはいってこなければ平和だ。ちんけな犯罪者がいたちとしても、『戦闘職業』のまえでは意味をなさない。小さなナイフなんかでは、俺たち戦闘職業の剣とかにくらべると、たいして恐怖感はない。まあそれでも十分は殺傷力はあるが、俺たち戦闘職業という役柄が、やつらの抑止力になり、そういった事件もたいしておこることはない。
でもまあ、たまに戦闘職業のやつが犯罪をおかしたり、そういったやつらが募った集団、いわゆる犯罪者ギルドっていうのが存在していたりもして、絶対に平和だ、ということはないが、魔物や、そういったやつらを除けば、この世界はほぼ平和だといえるだろう。

「戦闘職業さまさまってところだな」

犯罪者を抑制するのも戦闘職業。犯罪を犯すのも戦闘職業。犯罪を犯す奴らのせいで少しまえに戦闘職業の必要性に首都で議会が開かれたっていう話を聞いているが、ずっと昔から続くこの職をなくすことはできないっていうのが中央の政治を司る「機関」の決定らしい。
まあ、その犯罪者ギルドってのの活動を抑制するために、各方面の街に「機関」の兵士を送っているっていう話だ、この街にも、シエルの実力を認めた「機関」の兵士のほかに、十数名おくられてきている。
そんなやつらに認められているシエルは、強い。
おそらく、この街の戦闘職業の代表者達と互角にわたりあえるのではないだろうか……?
たしか、シエルが今の称号を獲得した時に、教官の中にいる、この街の代表陣の一人と模擬戦闘を行ったことがあった。その時の観客は3人だけだったが、彼女はたしかに、教官を後一歩のところまで追い込んでいたのを、今でも覚えている。
それが……シエルという、俺の幼馴染の女の子の、実力だ。
俺はそれを見せつけられて、強くなろうと何度も思った。二度となにかを失い、後悔しないように、というもあるが……なによりも、俺は、俺が弱いままでは、彼女は俺すらも守る対象に入れているだろうと思ったから。ただ、惨めなプライドが、俺を突き動かした。
彼女の性格は、俺の真反対だ。俺は、自分の身を守るために、周りの何よりも、自分自身を守るために力をつけた。誰にも守られない、誰も俺を守らせない、俺自身だけが、俺を守る、そんな力を求めている人間だとしたら、シエルは、自身の周りすべてを守るために、戦う、正義の心を持つ。
そんなことを考えながら歩いていると、寂れた公園にたどり着く。
……どこからか、笑い声が響いてくる、どこからか、鳥の声が聞こえてくる。しかし、なぜかこの公園は、寂しかった。
誰もいない。こんな時間だから当然だといわれればそうだが、この公園は、いつも、人がいない。
いろいろと曰くつき、というわけでもない、ただ、人が寄り付かない、そんな場所。
そこの広場の真ん中で、俺は剣を下ろす。
鞘から剣を抜き取り、鞘をベンチにむかって放りなげる。

「今日も頼むぞ」

といい、ニヤリと笑い、相棒を太陽にむかってかかげる。相棒はそれに答えるように、太陽の光を反射して、一度だけ強く輝いた。
教官の教えは理屈ばかりだ。周りの連中は、言われたことだけをずっとやってきた。そんななかで俺だけは、型というものにとらわれず、自由にやってきた。
べつにやつらが間違っているとは言わない。現にシエルも、型に囚われた練習をガッチガチにやっていたし、それでも強くなれた。実際、型に囚われたやり方の方が、確実に強くなる道だ、しかし、そこから自分自身の戦い方を見出さなければ、シエルのように強くなれない。
そのてん、俺は最初から自由にやっていたせいで、型がなく、本当に自由だ。けども、そのせいでとはいわないが、俺には、『技』が少ない。
型に囚われたやり方は、『技』を強く意識させて、戦う。つまり、『技』の技術を磨き、多彩な『技』を使えるようにし、なおかつ個人の戦闘技術を引き上げるやりかたで、誰もが求める理想の形だ。だが、その型にとらわれないやり方は、個人の戦闘技術を比較的に引きあげ、『技』が使えない状態に陥っても強く居られる道だ。だからといって『技』がつかえないわけでもないので、現状俺からしたらどっちもどっちってところだ。だけど、型も自由も、どちらも個人の努力が大切なので、そのせいで俺はシエルに遅れをとってる……というのはまあいいすぎだな。
ま、そんなわけで俺は、細かい『技』を覚えてはいない……だけど、それをカバーできるほどの技術は、身につけたつもりだ。
剣を右手でもち、腕をさげる。自由にやってきた俺には型がない。上段の構え、中段の構え、下段の構えすらも存在しない。『技』の初期モーションすらも、俺は自身が思った時に発動することができるので、それすらも存在しない。
俺は、まず剣を一度振り上げ、地面に思い切り叩きつける。地面につくその一瞬の瞬間に、俺は技名をつぶやく