複雑・ファジー小説

脇役謳歌〜できそこないヒーロー ( No.4 )
日時: 2014/03/28 03:53
名前: uda (ID: T3U4YQT3)


 
*騎士とメイドの物語 02*


視界には、綺麗な青空が広がっていた。六原は仰向けにごろりと寝転び、放課後の時間をのんびりとくつろぐ。夕暮れ前は少しまだ肌寒さを感じさせたがそこまで気になる。
 六原はいつもの赤いパーカーを羽織り背中にはあらかじめ敷いておいたレジャーシートが太陽の光を浴びたぬくもりを感じさせていた。
——平和だねぇ—
 ぴちゃり、暢気にしていると水の跳ねる音が聞こえた。どうせ、また、魚が跳ねたのだろうが、どこかその音色は心地よく感じた。
 校舎裏の庭。一見、樹海を思わせる校舎裏、その奥にはダンジョンや遺跡、幽霊屋敷等といった不思議な建築物が立ち並んでおり、今六原がいる明晰湖と呼ばれる湖の近くもその一つであった。
 湖は半径五十メートルほどのジャガイモのような形をしていた。木々に囲まれている森の中で湖から見上げる空はポッカリと空いており、そこから太陽の光が湖を照らしている。そして、水質が特殊なのか光が差し込む水面が時折、虹色に輝いて見えることで少し有名であった。
そんな幻想的な湖の近くにある岸辺で六原はレジャーシートを轢き仰向けになり、休んでいた。
 何故こんなことをしているのか。答えは六原としては単純な理由で只休みたかったからであった。
 ふわぁ、と力の抜けるような大きな欠伸をする。
 昨日はほぼ徹夜で調べ物をしており、疲労が溜まっていた為、放課後に少し時間がある間に休んでおきたかった。もっとも、六原自体こういうピクニックの様なことをするのは嫌いではない。
 そしてこの場所を選んだ理由もあった。
こういった幻想的な場所で一人たそがれるといった行為がカッコいいと思っているのも理由であるが、この場所は放課後人が滅多に来ることはないので秘密裏に話し合うのに最適であったからであった。
 
 あの屋上での謎の呼び出しから一日が経っていた。
 
 知りたい事は大方調べ終えた六原は謎の彼女、月島を呼び出した。電話やメールなどの連絡先は知ってはいるが本人からは聞いていなかったので、朝、独自で調べた彼女の下駄箱に手紙を送った。中の内容は放課後これからのことについて話をしたいから会えないかと提案している。
 本来な前回と同じ屋上に行こうとは思ったが、あいにく今日は先客いた為、こうして前回とは違う人気の無いこの場所と時間を指定して六原は待っていた。
——しかし、面倒なことになっているよなぁ。
 月島が来るまで暇なので寝転がりつつ六原は彼女について考えることにした。
 彼女が何者なのかを知るのには対して時間は掛からなかった。もともと、そういった調べ事や情報収集は得意である事と、なにより、彼女のことを知っている人物が近くにいたからだ。
といってもその人物は六原の姉であった。
 昨晩起きた姉との会話を思い出すだけでも六原は再び腹の底からフツフツと怒りがこみ上げていく。
——畜生、なんであの姉は何でも知っているんだよ。
 六原の脳裏に蘇るのは奥歯を噛み締めながら教えてくれと姉に頭を下げた時のこと。
 口端を吊り上げながら「いいわね。そのこびへつらう感じ。やっぱり弟はこうじゃないと。」とはしゃぐ姉の姿は六原の頭を沸騰させるのには十分な火力であり、姉に掴みかからなかったことには自分で自分をほめてやりたいぐらいであった。
 あまり思い出したくない嫌な思い出だが、多分一生忘れないだろう。と六原は思った。
——しかし、お陰で知る事ができたけど、大きな借りができた、・・・・・・・嗚呼、後が怖いなぁ。見返りに何を言ってくるか分かったものじゃない。
 だが、前向きに考えるとこれで月島の前で堂々と言ったことは果たせた。
——まぁ、若干予想外ではあったねぇ
 姉に教えられた内容は六原の想像していたことより斜め上であった。てっきり、王子やヒーローの助けを待つ薄幸のヒロインかと思っていたがそんな事はなかった。
 そして、よくよく考えればこれってかなり、面倒なことに巻き込まれてしまったことに気が付いた。
 様々なファンタジー溢れる出来事に巻き込まれている六原であったが今回の様な展開は初めてであったのだ。だから、今日の授業中はしばしばそのことで悩んでいた。
 もっとも今となっては、悩んでも時間が経つばかりであったので六原は開き直っている。
——さて、後は本人に聞くとしますかね。
 ケータイで時刻を見ると約束の時間まで、後五分程であった。前回会った際、屋上でのことを考えるとそろそろ来るはずだが、まぁ、来たら声ぐらい掛けてくれるだろうと軽く考え、再び目を瞑ろうとした。
 かさり
 眠りかけの意識に地面の草を踏む音が交じる。
「やぁ、待たせたかな」
 聞き覚えのある少年の様な口調の少女の声が近くで響き、閉じかける重たい目蓋を上げる。
——キター
 上体だけ起き上がり振り返れば、そこには昨日散々調べまわった対象が六原の隣に立っていた。
「よう。こんにちは」
「こんにちは、六原さん」

Re: 脇役謳歌〜できそこないヒーロー (仮題) ( No.5 )
日時: 2014/04/17 01:16
名前: uda (ID: T3U4YQT3)

 彼女が現われたことにより眠気はすっかり覚め、六原は起き上がると胡坐を崩すように座りなおす。見上げるように顔を上げ月島を見る。自然と彼女の右腕に視線がいった。
 なぜなら、制服の袖から見える彼女の手首から下に白い包帯がびっしりと巻かれていたからであった。
「あれ、右腕どうしたの?」
「嗚呼、ちょっとね」
 おもむろに月島は袖を捲る。現れた右腕は肘から手首にかけて包帯を巻かれていた。ギブスのように頑丈に巻かれていない所を見ると骨折ではないようだ。
 月島の痛々しい姿に六原は率直な感想を述べた。
「すごい、中二病みたいだ」
「嗚呼、けど実際に怪我しているからそこまで言わないでくれないかな」
「それはすまない」
 月島は言葉を濁すように言う。理由も言わないあたり、これ以上聞くことはやめようと思い話題を変えることにした。
「まぁいいか、あの手紙気に入って貰えたかな」
「あの手紙かい?黒い封筒にハートのシールが張られていて、一瞬不幸の手紙か、ラブレターかと思ってびっくりしたよ」
——そっちだって謎の老婆の声で、オレをおびき出したんだ。どっこいどっこいだろう。やっぱりやられたらやり返さないとね。
 笑いながら六原は広々としたレジャーシートの片面に移動した。
「ハハハ、気に入ってもらったなら何よりだ。とりあえず、どうぞ」
 右手をゆっくり振るい、月島にレジャーシートに座るように促す。月島は軽い会釈の後、ゆったりとした丁寧な動作で靴を脱ぎ、揃えると六原の隣に正座を少し崩すような形で向かい合うように座る。
 さて、何から話そうか。と六原が思っているところで月島は口を開いた。
「それで、昨日の今日で何が出来たのかな」
 月島の問いに六原は即答する。
「とりあえず、キミが何者かは分ったよ」
「・・・・・・それは本当にかい?」
「うん。あ、お茶飲む?」
 貰おうと答える月島にレジャーシ—トの角に重り代わりに置いたハンドバッグの中から水筒と紙コップを取り出す。
 ちなみに教科書等の入れた鞄は教室に置いている。月島と別れてから取りに行く予定だが、話が長くなれば今日のところはカバンごと置いておくつもりであった。
 水筒を傾ける。中に入っている冷たい麦茶を二つ注いだ後、その一つを月島に渡した。
「ありがとう」
 月島はお礼を言うと目を閉じ両手を添えて一口飲み干す。お互い無言であったが別に息苦しさも感じない落ち着いた雰囲気が周囲に漂っていくのを感じた。
——平和だねぇ。
 お互い一息入れ、のほほんと暢気な事を考えていた六原だったが、月島は穏やかながらも目を開ける。
「それで、キミは私の秘密を知ったのかな」
「ああ、そのことか。」
——なんだかそんな言い方されるとエロいような気がするなぁ。まぁ、決して口に出さないが健全な男子によくある妄想なので許しと欲しいね。
「屋上であそこまで言ったのだから、それは良く調べて、解決策も出来たんだろ」
「結果はある程度は・・・ってところですね」
「そうか。では、話してみてくれたまえ」
——さて、まず何から話そうか。
 お茶を飲み干した紙コップを近くに設置した空のビニール袋に放り込むと、六原は落ち着いて考えをまとめ口を開いた。
「一つ頼みがあるけどいいかな」
「なんだい」
「自分でもさ、調べた事が少し信じられないから、もし良かったら今からオレが言っている事が合っていたら証拠を見せてくれないかな」
「証拠?」
 一夜で調べた六原にはまだ、不安が残っていた。
——もし、ある程度調べたて分った事がもし間違っていたとしたら。確実に妄想癖で精神的にヤベェ奴何ていう目で見られるのだ。合っていたとしてもとても信じられそうに無いことでもあるから、確証が欲しい。
ある程度こういった非日常的なことに巻き込まれたことがよくある六原であったが、こんな風に誰かの正体を暴いたりする時はやはり緊張していた。
「そう、証拠だよ。例えば……」
六原は覚悟を決めて、口を開く。
「例えば、魔女なんて呼ばれていたら魔法とか使ってみて欲しいけどね」
「……」
 答えず、月島はお茶を飲み干し、空のコップをレジャーシートの上に置くと答えた。
「それだけじゃ何も答えられないな」
 正解とも不正解ともいえない解答。君が調べた事はそれだけなのかと問うような彼女に向かって、六原はさらに問いかける。
「キミがこの世界の人間じゃない」
「へぇ・・・そうなのか」
「キミは別の次元にある本来重なり合うことの無い異世界の者だ」
「それは突拍子の無い事だね」
——そうだね。本当にそう思うよ。
 月島のそっけない答えに少しずつだが、自分の解答に疑問が徐々に浮かび上がりはじめていく。
——やっぱ、こんないきなりなぶっ飛んだ話を出すのは厳しい。つーか、時々こんなことを言う自分の頭が狂っているかなと思ってしまう。だけど、事実だ。事実なはずなんだ。
 徹夜で調べ纏め上げた情報は確かな筋からの情報である。それに、姉の力も借りたのだ、間違いない・・・と思う。
「いいよ。続けて・・・」
「嗚呼、そうですなぁ」
——頑張ろう。言うだけ言って見ようじゃないか。バカにされたりするのは慣れているのだ。落ち着いて調べた事を語ろう。
「じゃあ、そんな君がこの世界に来た理由を話そう」
「へぇ、そこまで調べていたのかい」
「じゃあ、物語風に語ろうじゃないか」
「物語風かい?」
 むかしむかしあるところに・・・と六原が語ると、月島は理解したらしく押し黙った。

Re: 脇役謳歌〜できそこないヒーロー ( No.6 )
日時: 2014/03/22 20:04
名前: uda (ID: T3U4YQT3)

「むかしむかしあるところに俗に言う魔法と呼ばれる技術の発達した国がありました。
 その国、魔法の国の民たちはより高度な魔法を使かえる者によって統治され、民はその中でつつましく生活しておりました。
 しかし、先代の国王が病死した時、その国に不幸が舞い降りました。
 次の跡継ぎいついて国王の息子、王子が次期国王とされていたが、そこで内乱が起きたのです。
 魔法が使えない者達の反乱でした。彼らはレジスタンス『レギオン』と名乗り次期国王として一人の国王の隠し子を『象徴』としたこのテロ行動は国全体を巻き込んだ戦争となりました。
 秘密裏に兵の数を集めていたレギオンに対抗できず王国側は次第に押されていきました。
 しかし、ある日レギオンの前に一人の青年が立ちはだかります。
 見慣れない服を着る青年、彼の手には一振りの剣が握られていました。
その剣を持って青年はレギオンを壊滅に追いやったのです。
 彼こそ前王から引き継いだ禁忌の召還魔法で現れた少年、魔法の国に古くから伝わる『異世界の騎士』と呼ばれる伝説の人物。
 その騎士と呼ばれる少年の圧倒的な力によりレギオンの大部分は壊滅となりました。
 結果、事実上敗北となったレギオンの残党は逃走し、国の平和は守られました。
 そして、少年は英雄と言われ、王子が国王となり、国はまた日常に戻りましたとさ。
めでたし、めでたし」

Re: 脇役謳歌〜できそこないヒーロー (仮題) ( No.7 )
日時: 2014/03/23 02:52
名前: uda (ID: T3U4YQT3)

 つまらなく、どこにでもありそうなファンタジーの物語を六原は語る。月島は未だ何も語らない。
 だから、六原は調べ上げた月島の正体を突きつけた。
「騎士は英雄と歌われました。そして、レジスタンスの象徴と呼ばれた前王である魔法使いの血を受け継いだ一人の人物。その少女は魔女と呼ばれましたとさ」
「……」
「…お茶の御代わりはいるかい」
 言いたいことは言い終えた。
 六原はカバンから水筒を取り出し差し出そうとしたが、月島はそばに置いた紙コップを取らなかった。変わりにゆっくりとした動きで右腕を真っ直ぐとこちらに伸ばす。その右手は握手するような形で少し開いていた。
 目の前の動作にゾワリと背筋が凍えるような感覚がした。
 少女は微笑むとようやく応えた。
「うん、ワタシが魔女だ」
——あ、何か嫌な予感。
 その予感は残念ながら的中する。
 瞬く間に右腕の甲から何か光り輝く線で描かれた円が現われたが、そんな事に六原は気を取られなかった。
 それよりも驚く物が、興味を引くものが目の間に合ったからだ。
一瞬であった。目の前に現れたソレは・・・
「そして、これが君の望んだ証拠と言うものさ」
 ソレは一本の杖であった。
 彼女の腕の長さの倍以上はあり、先端には尖った形状の巨大な勾玉のようなものが薄く紫色の発光を放っている。そして、彼女の右手に握られていた杖はとても幻想的に思えた。その一番の原因はオレの肩に添えられていた杖の先端からの鼓動である。どくり、どくりと脈を打つような、この木の杖自体が未だ生きているように感じてしまう。
 不気味で現実感の無い杖。それが突如として目の前に現れた。
——なんだ、コレ、すげえじゃないか。マジックとかじゃない。コレ。本当に魔法か。
 そして、杖を掲げ、笑みを浮かべる少女はまさに魔女のように見えた。
 いきなりの出来事に興奮する六原を気にも留めず、少女は先程とはうって変わって話し出す。
「なるほど、さすがだよ。ここまでワタシからの情報を何のもなしに調べ上げるのは凄いじゃないか」
「どうも」
「まさかここまで調べてくるなんて想像以上だよ」
 穏やかに言うが月島。反対に六原の肩に添えられた杖が少しずつ鼓動を速くなる。
——あれ、これまずくない。
 長年、現実味のない事柄に巻き込まれた為に身に着いた経験が、やばい、やばいと頭の中に警報を出しはじめた。
「い、いやぁ、ほめられて、悪い気はしないんですが。なんていうか、個人のプライバシーについていろいろ土足で踏み荒らしたことは謝りますからちょっと、その杖どけてくれませんかね」
「どちらかと言うと何と言うか君の語り方にイラっときただけだよ」
「それはそれで傷つくわぁ」
「遠慮することはないよ。これから君の言う魔法とやらを見せてあげようと思っているのだけれど」
「ちなみにどんなの?」
「火炎系かな…」
 その言葉にぞっとする。
「いやぁ、いいっすよー。そんなパネェもの見せなくても、十分ですから!!」
 こんな山の中で火なんて使えば、絶対ろくなことにならないのは目に見えている。六原は冷や汗をかきつつ月島に落ち着くように促した。
「まぁ、いいかな」
 説得のかいあったのか月島はどこか残念そうに肩をすくめると方にかけられた杖をどかした。
「認めるよ。キミの言うとおりだ、私はこの世界の住人でもないし、元の異世界から追われている魔女と呼ばれるものだ」
 ようやく杖をどかしてくれたお陰で冷静に物事を考えられる。六原は自分の予想通りの答えであったことに小さな達成感を覚えつつ、思考をめぐらせた。
——これが推理物の物語とかなら、犯人を見つけての自供で終了なんだけどな。残念ながら、これはここで終りじゃない。始まりなんだよなぁ。まだ疑問があるし。
 屋上での月島が言った言葉を思い出す。
 私を救ってくれないか。彼女の言葉は一体どういうことなのかが六原は謎であった。
——もし、元の国の者達から追われているのなら、救ってくれじゃなくて助けてくれだろう。言い間違いじゃないとするなら、どうすれば目の前の彼女は救われるのだろうなぁ。
「さぁ、それで、どうすれば私を救ってくれるのだい」
 他人事のように聞く月島の言葉。屋上のときと同じ口調。それがもう一つの疑問であった。
 どうして、そんな自分は関係の無いような態度で自分を救ってくれというのだろうか。
 六原は彼女の問いに対して、どう答えようか迷った。
 彼女の膝に乗せられた杖の先端が鼓動しているのが見ても分かる。心臓のように脈打つ杖の鼓動が何故か六原を急かしているよう感じさせる。
——ああ!!考えても無理だな。もう、直接聞こうじゃないか。
 いい考えが浮かばない。
 仕方なしに六原は諦め月島に聞こうとした。
「スマナイが…」
 キミはどうすれば救われるのですか。と聞こうとした。
 だが、その先の言葉は突如として現れた騒音によってかき消された。