複雑・ファジー小説
- Re: 脇役謳歌〜できそこないヒーロー ( No.8 )
- 日時: 2014/03/28 03:56
- 名前: uda (ID: T3U4YQT3)
*騎士とメイドの物語 03*
少年はレギオンを倒し、国の危機を救うと元の世界に戻りました。
しかし、少年とは二度と会えなくなったというわけではありません。
彼が召還されてしばらくの後、魔法の国は『ゲート』が開くことに成功したのです。
ゲートとは異世界同士を繋ぐ通行手段であり、その中を行き来することによって異世界を自由に移動できるのでした。そして、少年はゲートが開いてからは王からの与えられる任務に度々手伝い、この国を平和にしていく事を王様に誓ったのでした。
これは異世界の騎士と呼ばれた少年、辰野昴の物語——
何の脈略もなく落ちてきた。同時に衝撃で土煙が舞う。
いきなり隕石のように落下してきた、だが、落ちてきたのは石でもなく一人の少年。
視界を覆っていた土煙が少しずつ晴れていき、目の前には薄く広がるクレーターが出来上がっていた。
一歩遅れて周囲の鳥等が逃げていく音が聞こえる。
その穴の中から上ってくる人影が一つ浮かび上がる。
そして、ハッキリと見えくる少年の顔に六原は見覚えがあった。
——何となく来そうな気配がしたけどねぇ。
「お前かよぉ、辰野」
突然現れた辰野は六原に不思議そうに尋ねた。
「おい、六原。どうしてお前がここにいる?」
「なぁに、いつものことだよ。面白おかしいことにまた巻き込まれているだけだ」
そして、突然不思議な剣を携えて現われた友人に対して動揺することもなくいつもの調子で声を掛けた。
——じゃあ、ネタばらしでもしようか。
「まぁ、お前の方の理由は分るけどね。異世界のナイトさん」
青く輝く刀身を眺めつつ月島と対峙する辰野は諦めたように肩をすくめた。
六原の言葉に辰野は目を細める、切れ目の彼の目がより鋭くなる。
「いつから知っていやがった」
「三ヶ月前かな。お前と後二、三人で一緒にホラ、隣の町の学園の番長をぶちのめしに行ったとき」
「・・・・・・え、何なのその状況?」
まったく、真実味の無い話に驚き振り返った月島の視線は疑うような目付きをして六原を見つめた。「詳しく説明してよ」と射抜くような視線から六原は顔を逸らし避け、話を続けた。
——説明するのが面倒なんだよ。だって、この話を聞いた所で結果は同じ。どうみても嘘くさい話に聞こえるから。
どうせ信じてもらえないと思うので六原は何も言わなかった。
——だけど、あの事は真実なんだよなぁ。あの去年の冬、隣町の学園に殴りこみに行った時に現れた敵の悪魔番長とかいう番長の幹部の一人。サイクロプスと呼ばれる巨大な男を魔法陣のような図形を足元に描き、一撃で倒した時からアイツが何者なのか気になっていた。
それで色々調べて見て分かったことが、実は辰野の正体は異世界の騎士と呼ばれる英雄だと言うことであった。
「ああ、あの時か。テメェ、見ていたのか」
「そんなに睨まないでくださいよ。まぁ、辰野も仕方ないよね。チョット相手が辰野の知り合いを怪我させたらしいから、ついカッとなってやったみたいだからなぁ」
「・・・・・・しくじったな」
「そんな後先考えずたまに動いてしまう辰野は素敵だと思いますよ」
「うるせぇよ、バカ」
もっとも、怒りに身を任せたのに相手の持っていた鉄骨を折り曲げた後、奴の髪の毛と服を借りたナイフで全部切り裂くのは凄い器用だよな。などと思いつつ六原は相手の出方を疑う。
先ほどからどうにかして場を和ませようと話しているが、周囲の雰囲気は以前としてピリピリと緊張感を漂わせていた。
六原としては何とか辰野と戦うのは勘弁して欲しいのが本音であった。戦闘に関しての六原の力は何と言うか、ある程度運動神経はいいほうであるのだが、こういうファンタジー溢れる戦い等のセンスはからっきし駄目であったからである。
——ピンチになれば覚醒できればいいのだけどなぁ。
しかし、今のところそんな伏線も予兆も現われていないので、六原はせめて落ち着いて話し合いが出来るようにもうしばらく雑談を続けることにした。
「そういえばあの後、あの大男どうなったんだっけ」
「あの学園の番長グループ全員あのときのメンツにボコボコにされたあと、委員長に諭されてまじめに勉強するようになっただろ」
「ああ!!そうだったな。あんな風に人が変わる瞬間って凄く心が打たれるよなぁ」
それはすごいね。オレ達の話を聞き月島は感想をボソリといたのがオレの耳に届いた。
「まぁ、それから、色々人に聞いたり独自に調べて見たらお前の昔の冒険譚が分ったって所だよ。まったく、先週、オレと一緒にゲーセンでフィギュアを捕る事に熱くなっていた奴と同じ奴とは思えないよなぁ」
「おい、テメェ!そんなに必死じゃなかっただろうが!隣でガッデムと叫びながら両替機まで走って小銭を取りにいってまで美少女がプリントされたマウスパッドを取ろうとしたお前に言われたくないな」
「……ちなみに二人とも取れたのかい?」
「「別に……そこまで欲しくなかったし」」
「つまり取れなかったということだね」
お互い無言になる。目で辰野と「今の話は無しでいこうや」とアイコンタクト。よし気持ちを切り替えよう。お互い敵だけど。
——じゃあ、少し空気も和んだところで話を進めましょうかね。
「それで、異世界の騎士さんがいきなり何のようですか。というありきたりなセリフをいってみたんだが、答えてくれないか」
「何かキミがいうとあまり真剣な空気がしないよね」
——うん、何かそんな感じがするね。マジ、ゴメン。
「あまり気持ちが切り替わらないが・・・、まぁ、いいか」
六原は一度目を瞑り気持ちを入れ替えると剣の切っ先を月島に突きつけると声を高らかに唱える。
「我は王よりの密命でそこの魔女を討ちに来た」
「我だってよ、カッコイイデスネェ」
「キミは少し黙っていた方がいいよ。ほら、目の前の彼が少し恥ずかしがって顔が赤くなってきたじゃないか、ククク」
「お・ま・え・ら・なー」
少し、頬を紅く染めながら辰野は吼える。
「いい加減に、」
だが、辰野の声は途中で別の声にかき消された。
「・・・イイ加減にしなさイ」
静かに、不意に、目の前にいる二人の声とは違う声が聞こえた。
凛と響き渡る声を六原は耳にした。同時に軽快な破裂音が聞こえると辰野は地面に倒されていた。
- Re: 脇役謳歌〜できそこないヒーロー (仮題) ( No.9 )
- 日時: 2014/03/26 02:30
- 名前: uda (ID: T3U4YQT3)
何てことは無かった。辰野の頭上から現れた何かが思いっきり辰野の頭をチョップしただけである。
——うん、充分おかしいよなぁ。
あまり深く考えないようにしておこうと六原は思い、目の前で頭から地面に倒れた辰野の安否を見守ることにした。
「だ、大丈夫かぁ」
「……おう」
「まっタく、無駄話ばかりしテ、サッサと任務に集中しなさイ」
現れた人物、一人の少女に六原は唖然とし、月島は、
「君も来ていたのかい」
昔の知り合いに語りかけるように小声で呟いた。少女はこちらに顔を向ける。
「はい、お久しぶりですネ」
そっけない返事をする少女は日常的に見ることのない出で立ちであった。
長い髪は銀色に輝き太陽の光を反射しそうなほどに艶やかかな銀髪であり、見たところ均一取れたスタイルで身長は少し低めに見える。だが、それより、なによりも、辰野が引かれたのは彼女の服装であった。
その服装に六原は歓喜の声を上げた。
「メイドさんだぁ〜」
白いフリル付きのカチューシャ、首につけた黒いラバーチョーカー、足元まで隠れる黒いエプロンドレスはまさにメイドであった。
——ウハ!!すげぇ。本物のメイドだ。アレですよ!!萌えですよ、萌え。それに見たところ強気でしっかりした雰囲気がまたグッドです。やべぇ、何故こんな場所に来た理由や、少女が何者だろうとぜひお近づきになりたいねぇ。
「どうしたのだい。そんなニヤニヤして。・・・・・・気持ち悪いよ」
「おいおい、最後の一言は傷つくよ。何つーかあのメイドの破壊力に怖気づいています」
月島は突然現れたメイドを一瞥すると小さく頷いた。
「確かに、アレはヤバイからね。気をつけたほうがいい」
なんだ、お前もいける口か。と思いながらメイドを見る。メイドは辰野が未だ倒れている姿を見下ろしながら、少しアクセントの外れた不思議な口調で辰野に問う。
「マッタク、一人で戦いたいとお願いされタから任せてみれば、何をくだらない話で時間を無駄に使ってイマすか。さっと戦いなサイ!!」
一喝するメイドの声に動かなかった辰野がピクリと震えた。そして、ゆっくりと地面に手を付き、めり込んだ頭を地面から抜き出した。
「・・・・・・ッ、だからって、後ろから本気で叩くことは無いだろうが」
叩かれた場所をさすりながら剣を杖変わりにして身を起こす辰野に、大体、いつもいつも・・・という説教を捲し立てるよう語りだすメイド。
「さて、どうしようか。・・・・・・ん?六原君。」
杖を構え、この間に一撃をぶち込もうかと思っていた月島の横をゆっくりと通りすぎ、美人メイドに大変興味を持った六原は辰野とメイドの間に割り込むように声を掛けた。
「あの、すいません」
「・・・何デスか」
深々と頭を下げながら、ケータイを取り出した六原は叫ばずにいられなかった。
「おねぇさん。写真一枚いいですか」
「おい、マテや、コラ」
思わず低い声で言う月島。メイドは頭を下げる六原を一瞥したあと辰野に再び視線を戻した。
「だから、もっと自分ノ使命についてどれほど重要かと言うことを頭にいれておきなサイ」
「・・・・・・え、あ、うん。次からは気をつける」
「……参ったな、無視ですよー」
ざまぁ、と前にいる月島が小声で言う。思わずドキリとした。
——あら、意外とこの子毒舌なのかぁ。いや、別に毒舌の女性が好きと言うわけでない。何というかそういう子を見ると異性として意識してしまうだけである。
などと自分自身に言い訳し、六原は少し悔しがりながらも相手の出方を見る。ある程度説教は終ったのかメイドは六原達と辰野の間に生まれた小さなクレータに歩み寄り剣を引き抜いた。
——あの攻撃はメイドさんだったのかよ。ということはあのメイドもかなりヤバイだろうなぁ。
先ほどのクレーターが出来た際の攻撃を改めて思い出すと、自然と冷や汗を掻いていた。
——これで二対二。いや、正直オレは使えないから二対一かぁ。すげぇ不利じゃないかよ。
- Re: 脇役謳歌〜できそこないヒーロー (仮題) ( No.10 )
- 日時: 2014/03/26 02:49
- 名前: uda (ID: T3U4YQT3)
——この不利な状況を打開するにはどうしたものか。
やはりオレも戦ってみようか。不思議な力でも覚醒するかもしれないし。と考えている六原の視線の先にいた辰野が刀を構え、ハッキリとした敵意をあらわにする。
「まぁ、少し場が締まらないが、俺の言いたいことは分るだろ」
どうやら、完全に引く気もなければ話し合いもする気はないようだと察した六原は諦め真面目に語ることにした。
「魔女退治だろ」
「ええ、ソウです」
辰野の変わりに答えたメイドは月島を見据えて言葉を続ける。
「レギオンの象徴ともいえル貴方は即刻拘束しなけれバなりまセン。拒否された場合強制的ニ連行いたしますので」
冷静に言葉を続けるメイドに即座に月島は答えた。
「もちろん、断るよ」
杖を構える。
「そして、ついでに君たちを倒しておこう」
「あらやだ。月島って意外とバイオレンスですなぁ」
「・・・・・・」
——やっぱり、無視は傷つくわぁ。いやいや、月島も無視することはないんじゃないのかなぁ。一応キミの味方になっているつもりなんですけどね。
「あのなぁ・・・」
愚痴の一言でも言ってやろうとしたが月島の表情を見てやめることにした。僅かに見えた不安と緊張の混ざった真剣な表情にふざけている余裕はあまり無いようだ。
「何だ、六原」
変わりに自分が話しかけられたと思った辰野が声をかける。だから、変わりに六原は辰野に向けて笑みを浮かべた。
——少しぐらい煽ってみようかなぁ。ここでオレの話術が炸裂だぜぃ。
「あのなぁ、こいつならお前らなんて一瞬で倒すぞ」
「そうなのか」
「何たってオレより強いんだぜ」
「・・・・・・ソレは当たり前だろう」
「六原君、少し黙っていてくれないかな」
「・・・うぃ」
——いやぁ、全然ダメだったなぁ。いつも通りで泣きそうだよ。
少し涙目になりそうな六原を放って彼女は何かを呟きながら杖を振るった。杖は先端の宝石を発光させながらグルグルと図形を、魔法陣を描いていく。
再び形成された幾重もの魔法陣。始めは一つだけであったそれは今や彼女の正面の周囲にも展開し、まるで壁のよう無数にも現れる。
対して辰野は剣を地面に突き刺し応える。
「いいだろう。その意思をこのオレに試してみろ。レイさんは手を出すなよ」
——おいおい、一対一でやるつもりか。畜生、カッコいいじゃないか。
自分が有利なはずなのにフェアプレイを選ぶ辰野。 その言葉にメイドはため息を吐きつつ握っていた朱色の剣を腰に刺した鞘に収めた。
「分かりました。では、行きなサイ。わんこ、じゃないですネ、辰野様」
「最後で台無しになっただろうが!」
まったくと小言を言いながら辰野は地面に突き刺した剣を鍵を開けるように捻った。地面をえぐるだけの動作。だが、なぜかガチャリと鍵か開く音がした後辰野は剣を引き抜くと同時に六原の視界に幻想的な風景が広がった。
——綺麗だ
最初に思った感想は感嘆であった。
剣先が地面から放れると同時に地面に光の線が浮かび上がる。
地面の底から現われた光りの線は辰野の足元を生物のように這い回り一つの模様を描き出す。
それは約1メートルほどした正六角形の奇怪な図形。
俗にいう魔法陣が浮かび上がる。
それは三ヶ月前に噛ませ犬のような大男をぶち飛ばした時に見た魔法陣と同じような図形であった。
「月島さん。あの魔法陣っぽいカッコいいヤツ何ですか?」
戦闘に巻き込まれない為、月島の少し後ろに下がりつつ六原は問い掛けた。月島は辰野から視点を動かすことなく答えた。
「アレは***、嗚呼、すまない。この言語じゃ駄目だったね。アレは『疾風の陣』と呼ばれるもので、主に身体強化と風の属性を付与してくれるものだよ」
——嗚呼、なるほどね。
「・・・よく分らないけど分りましたよ。つまり、アイツが戦闘体制に入ってこれから本気で攻撃してくるってことですね」
「そういうわけだ。じゃあ、ワタシはちょっとあの騎士を倒してくるから君はその間に逃げるといい。どうせキミにはこういう戦いは不得意なのだろ」
——やっぱり、戦力外通告きましたよ。
「いや、だけど・・・」
反射的に「違う」と六原は言いかけたが口を閉ざした。今日は話し合いだけだと思い、実際にこんなことになるとは思っていなかった。だから六原は全く準備をしていなかった。
それに六原が戦いに参加すれば、静観しているメイドも戦いに加わるだろう。そして、今の状態で先ほど普通の人間業とは思えない剣の投擲をしたメイドの力を思い出すと勝てる気がしない。
——本当なら、こんな危機的状況で活躍する絶好の機会だ。力があるならすぐさま目の前の少女に協力してオレも活躍したい。だけど、今は完全に足手まといだよなぁ。・・・・・・畜生。
今は、何も出来ないという歯がゆさを感じつつ。冷静に力になることが出来ないと六原は判断し、仕方なく首を立てに振った。
「・・・分った。」
——だが、諦めきれない気持ちも拭うことが出来なかった。
「けど、もう少しぐらい観客がいてもいいだろ」
だから、あと少しだけ残っていようと思った。
「いいけど。危険と思ったらすぐに逃げるのだよ」
「まぁ、逃げられるのなら、逃げるよ」
逃げる気など全く無い六原は吹き飛んでいたカバンを拾い上げ月島から少し離れた木々の辺りに向かう。
同時にメイドも後は任せますと一言辰野に言うと高く跳び、近くの茂みに飛び込み姿を隠した。
——しかし、逃げてねぇ。
月島は自分に彼を倒すと言った。
だが、彼女は逃げろとも言った。
もしかしたら、月島は負けると思っているんじゃないのかと六原は思っていた。
——だから、応援ぐらいはさせて欲しい。
手も足も彼らには届かないけど、声は届かせる事が出来る。
——あれ、もしかしてオレ今カッコいいか?
木陰で隠れながら自画自賛する六原の視線の先、湖の岸の前では二人が魔法陣と己の武器を握り締め構える。
黒羽の周囲に浮かび上がる複数の魔法陣の先からは槍が現われる。よく見ればその槍は全て透き通った氷で出来ていた。
突然現われた無数の槍の矛先が全て辰野に向けられる中で、辰野は落ち着いた動作で剣を腰に据え、地面と平行に構えた。
「じゃあ、行くぞ」
小声だが、よく通る辰野の声が響き。
「嗚呼、そうだね」
月島は短く答えた。瞬間、一直線に駆ける辰野と迎撃するように放たれた氷の槍がぶつかり合った。