複雑・ファジー小説
- Re: 脇役謳歌〜できそこないヒーロー (仮題) ( No.11 )
- 日時: 2014/04/02 01:10
- 名前: uda (ID: T3U4YQT3)
時間に換算すればわずか数分の出来事で、あっけなく魔女と騎士の戦いは幕を閉じる。
少し前まで鼓膜を突き破るような爆発と剣撃の響き合う音は止み、今となってはその出来事があったとは思えない僅かな静寂が辺りを包みこんでいる。
だが、先程までの目の前で起きていた戦いは現実である。その証拠に彼らの戦いの爪痕で辺りの木々は折られ、切り裂かれた抉られた地面の痕等が周囲に無数広がっていた。
——終わったのか。
魔女と騎士による常識はずれの戦いは終った。
騎士は敗者の前に近寄ると再び剣を向けて言い放つ。
「オレの、勝ちだ」
——やべぇ、
目の前で起きた最悪の結果を只呆然と見ているだけしかできなかった六原は何ともいえないもどかしさに駆られていた。
——何の活躍も無く終ったじゃないかよぉ。マズイ、マズイって!何か、何かオレにできることは無いか。
それにこのままだと近くで倒れている月島は捕まってしまう。彼女を助けようと思う六原はまず友人を止めようと思い、傍に駆け寄ろうとした。
「待って、オレが混ざってないからもう一回リトライで!!」
「・・・ストップ」
いきなり、首筋に冷たい感触がした。
瞬時に、頭の中で長年の経験がヤバイ、ヤバイという警告がささやき、体が石になったようにピタリと反射的に固まってしまう。
「・・・少シ黙りなサイ」
背後からメイドの声がする。同時に首筋に冷たい感触をもう一度感じた。
——いつの間に。
そこでようやくメイドが六原の背後に回わり、首筋に刃物を当てられていることに気付いた。
——まずいなぁ。どうしようかなぁ。
何故か首筋やこめかみに武器を当てられることには少しばかり慣れがある六原の頭は意外と冷静であった。
とりあえず抵抗してみるかと体に力を入れようとしたが、刃が首にめり込むスレスレまで押し込まれるという結果に終わってしまう。
「・・・・・・うへぇ」
——うん。無理。こりゃダメだ。
素直に諦め、大人しく両手を挙げてみるが、首筋の刃は一向に緩む気配がなく、六原はその場に拘束された。
——嗚呼、畜生。まったく、どうしようぉ。
少し弱気になりながらも、六原はあきらめず思考する。目線の先では辰野が身動きの出来ない六原を一瞥すると、剣の先端を月島に向け再び声を掛けていた。
「よう、まだ生きているか」
「これでも丈夫なのでね」
月島が面を上げる。体を起こせず、仰向けに寝転がると頭上で話す辰野に何でもないように答えた。
——大丈夫なのか?
六原は月島を観察した。あれだけ派手に吹っ飛んで意識があることには安心した。見た限りでも制服が微かに焦げ、土まみれになっているが月島に目立った外傷は特に無い。
だが、疲労と傍から見えないところにダメージが蓄積しているのか、呼吸は荒く、一向に立ち上がろうとしなかった。
辰野も月島がしばらく動けないと思っているのか拘束やトドメを刺さずに語りかけた。
「意識はあるのか」
「見て分らないのかい」
「そうか。なら、敗北を認め、我が王国に投降してもらおう」
「いやだと言ったら、どうするつもり」
問いに辰野は刀を上段に大きく構え、答える。
「手足を斬ってでも無理矢理連れていく」
冗談を言っている雰囲気ではない辰野に六原はつい横槍を入れた。
「おいおい、女の子を力ずくでは無いだろうが。」
「・・・黙りなサイ」
「・・・へい」
しかし、メイドの一言によりこれ以上何も言えなくなった。
月島はそうかと短く言うと辰野の攻撃によって折れた杖を握る。彼女の杖の先端の赤い宝石は最早光を放つことなく深く淀んでいた。
辰野は抵抗しようとする月島に不思議そうに尋ねた。
「折られた杖にはもう力が無いだろうが。」
「・・・・・・」
「魔法でも使おうとするなら暴走するのがオチだぞ」
質問に応えることなく魔女は宝石がついた杖を撫でる。
「ふふ」
そして、うっすらと微笑んだ。
何でこんなときに余裕のような笑みなのかと六原は疑問に思うが、首筋に時折触れる刃物感触で落ちつかず、考えがまとまらない。
「こんなか弱い女性に対して手を上げるなんて騎士として恥ずかしくないのかい」
上目使いでどこか妖艶な雰囲気を醸し出す魔女のセリフ。うわぁ、エロいっすね。と思う六原とは対照的に騎士は怯まない。
「か弱い女性が上級魔法の連発なんてしないだろうが」
魔女は再び、もはや魔法を使うことが出来ない杖を撫でる。真紅の宝石は深い沼を連想させるように未だ濁っていた。
——何をするつもりだよ。
「・・・・・・まさカ」
息を呑む音が六原の後ろから、メイドから聞こえた。
「タツノ!!」
メイドは魔女が何をしようとしているのか悟り、阻止する為に辰野に叫ぶ。
「その杖を奪い取りなサイ!!」
「え・・・おう」
叫ぶメイドが何を言いたいのか分らなかく、一瞬迷ったが、それでも辰野はそのまま剣を振り下ろした。
だが、その一瞬は魔女にとっては十分な時間であった
「全く女性に手を上げるなんて」
彼女は宝石のついたほうの杖を頭上に放り投げる。
そして、目を瞑り、迫る剣に気にせず言葉を続けた。
「魔女の罰が当たっても知らないよ。」
ゆっくりと放った杖は振り下ろす辰野の剣に触れる前に全体にヒビが入り、砕けたガラスのような音がした。ピタリと辰野の体が止まった。
同時に月島はその場から転がり退避する。
辰野は月島が何をしたのかようやく気付き、叫ぶ。
「自爆か!?」
——何ソレ!?
ひび割れた杖は最後の力を振り絞ってかけられていた自爆魔法を発動した。杖はまるで風船が割れるように軽快な音を鳴らす。同時に中から、膨大な煙と光が衝撃と共に溢れ出し、周囲を巻き込んだ。
「がぁぁ!」
カウンター気味に入った爆発を辰野は後ろに大きく跳ぶことによって回避した。しかし、大量の光はまともに浴びてしまい、悲鳴を上げながら顔を片手で押さえ苦しむ。
「さよならだね」
小さく月島は呟くと地面に寝ていた体勢から素早く起き上がると、後ろに飛び距離を取る。
すかさず月島は残った片割れの杖を地面に突き刺した。地面に刺さる先端から無数の線が溢れ出し、結合し、重なり合い、様々な魔法陣が浮かび上がる。メイドは魔法陣の設置された場所を見ようとした。だが、魔法陣の位置や形を確認できる前に周囲は爆発で巻かれた白い煙に包まれた。
- Re: 脇役謳歌〜できそこないヒーロー (仮題) ( No.12 )
- 日時: 2014/03/28 13:30
- 名前: uda (ID: T3U4YQT3)
「おいおい、マジか!?」
自爆魔法で生じた爆煙は近くにいた六原と月島、メイドを瞬く間に巻き込む。
奪われた視界の中で再び正面ではかすかな発光や爆発が聞こえる。
「チッ・・・」
白く染まる景色の中でメイドの舌打ちが聞こえる。すると、首に宛がわれていたナイフの感触が無くなった。
不思議に思い。振り返ると目の前に先ほど月島の魔法で見た黒い腕の形をしたような物が地面から生えていた。触ってみようとしたが黒い手は一瞬で飛沫のようにはじけ飛ぶと消えうせる。
いきなりの出来ごとに六原は少し動揺した。だが、すぐに自分が気に掛けることは別のことであると思い出し声を上げる。
「って、おい。月島さんどこだ!!」
以外にも返事はすぐ傍で聞こえた。
「耳元で騒がないでくれないか。驚くじゃないか」
「うわっ!」
右からいきなり何事も無かったように現れた月島にむしろ驚いたのはこっちじゃ。とツッコミをしようとしたが、それよりも早くいきなり腕をつかまれる。
「さて、逃げるよ」
右手には真っ二つに折れた杖の片割れを握っていた月島は片膝を地面に着き、そのまま足元に杖が突き刺した。
僅かにめり込ませた箇所が小さく赤色に発光する。赤い光は地面をなぞる様に奔り一つの円の描いた後、円の内側に滲みこむように赤い線で図形を描き、一つの魔法陣を完成させる。
「これは・・・」
「転移魔法ってやつさ」
六原は疑問に思った。
「あれ、辰野が折れた杖は使えないっていってなかったかな」
——何か、さっきからバンバンぶっ放しているけど。
「そうだね、普通ならそうだけど。私の杖は特殊でね。バラバラになっても使えるのだよ」
「すげぇな」
「感心するのは構わないけど、私の腕を握っていてくれないかな。杖が折れているから触れていないと一緒に転移できない」
六原の腕を離し、月島は白く染まる視界を見渡すと、淡々と言い放つ。
「さて、後、15秒ほど掛かるからそこが勝負かな」
「勝負?」
疑問はすぐに解決する。
「待ちやがれ!!」
「……なるほど」
怒鳴るような大声。
——つまり勝負とは無事に逃げられるかどうかの勝負ところかぁ。
六原の正面から緑の魔法陣と共に剣を握り締め、戦いによりボロボロの制服になった辰野が突っ込んできた。その片足からは血が流れ落ちている。
「さて最後まで気が抜けないね」
迫る辰野に向かい突き刺した杖を抜くと先端を辰野向け円を描き。魔法陣を発動させた。六原は言われたとおりに月島の腕を軽く掴むと残りの時間をゆっくりと数えた。
残り10秒
六原と辰野の間に火柱が現れ、辰野の行く手を阻む。
残り9秒
火柱は辰野の左手による魔法陣で防がれる。が、防御した為僅かに速度が落ちた。
残り8秒
続けざまに辰野の前後左右から黒い腕が現れ辰野の動きを防ごうと襲い掛かる。
残り7秒
辰野はまだ傷ついていない片足を軸に回転し、剣と魔法陣で四方から来る腕を打ち払う。しかし、そこで完全に動きが止まってしまった。
残り6秒
辰野は足元の魔法陣の向きを変更。瞬間、壁のように背後に現れる魔法陣を蹴り飛ばし突っ込む。
残り5秒
辰野は一直線に弾丸のように迫ろうとした。
だが、それは叶わなかった。
辰野の目の前に槍のようなものが放たれた。反射的に叩き落した瞬間、自分が何を斬ったのか理解した。
「・・・・・・ボンってね」
槍のようなものは杖の片割れであった。
「しまッ」
気が付いたときには杖は自爆し、今度はカメラのフラッシュのような鋭い光と爆発に、辰野は視界をやられ、バランスを崩し地面に倒れる。
残り4秒
——何とかなったか。
六原は緊張が解ける。
瞬間。
何かが視界の端を横切り、とすりというを音が耳に入った気がした。
「っ・・・」
一拍の間のあと六原の耳に小さなうめき声が聞こえる。
同時に月島の肩を掴んでいた右手が引っ張られた。隣を見れば先ほど杖を投げた月島が右手の甲を抑えうずくまっていた。
——そんな訳なかったじゃねぇか。
月島の右手には一本のナイフが深々と刺さっていた。
おそらく、メイドが投げ放ったものだと分かる前に、
「伏せろ」
六原は反射的に月島を抱きしめ地面に押し倒した。
「大胆だね、キミは。離してくれないか」
少しぐらい照れて欲しい、何も反応してくれないのは少し男としてへこむが六原は離す事無く月島に笑いながら言った。
「少しぐらい格好付けさしてくれぃ」
——だってさぁ、こんなときにあまりにも何も出来ない自分が許せない。さっきからアレ?オレ何もして無くないか?といういかにも役立たずな脇役のような立ち位置をさせられていたのだ。これぐらいはさせて欲しい。
残り1秒
「やめて」
かすれた声がした。だが、次に身に起きた痛みと熱で聞こえた言葉は吹き飛ぶ。
冷たい感触が体に入り込んでくる感覚が腕、背中、ふとももに感じ、次の瞬間には煮え湯をかけられたように熱さが込みあげる。
——嗚呼、これが刺されるって感触か。・・・・・・感想は、そうだねぇ。
「イッテェエエエエ!!」
六原は低い叫び声を上げた。
電気でも流されたかのような痛みにより、視界がぶれる。
途切れ途切れの意識の中で六原が見たのは紅い陽炎。
それは地面に描かれた魔法陣が発動の為赤い光が強く放っていたからであった。
赤い光りは一際強く輝き、転移魔法は発動される。不意に体が浮くような感覚が起きた後、六原は強い痛みに耐え切れず意識を失った。
——嗚呼、畜生。