複雑・ファジー小説

Re: 脇役謳歌〜できそこないヒーロー ( No.37 )
日時: 2014/04/22 01:38
名前: uda (ID: T3U4YQT3)

 そこから先の出来事は六原の頭にはあまり残っていない。
 六原は辰野との話し合いの結果を月島にすぐに伝えることなく気が付いたら教室に戻っていた。先に戻っていた辰野は何事も無かった様子で放課後残っているクラスメイトと会話をしていた。
 そして、六原はいつも通りには程遠い状態で荷物をまとめ、重たい足取りを引きずりふらふらと教室を出て行った。六原のおかしな様子に何人かが気付き心配してくれたがその声は耳には入らず、代わりに背後で談笑する辰野の低い声が何故か良く聞こえた。
 あまり、何かを考えたくなかった。
 そんな空っぽの頭の中では一つの疑問しか浮かばない。
 このまま、救うのを手伝うか。諦めるか。
 だが、いい答えが浮かばない。
 彼女を救う理由が無くなった。というより彼女を救うことが正しいことか分からなくなっていた。
——オレはヒーローになりたいんだ。悪役なんかではなく。
 誰もが、本人でさえも救ってもらおうと思っていないかもしれないのに救うことはヒーローとして間違っていると六原は思った。
 けど、道徳的には彼女を救ってやりたい自分がいる。
 しかし、彼女を救う方法もなければ、やる気もおきない自分がいた。
——どうすればいいんだよ。
 自分自身に叱咤しながら。六原は自宅に帰ることにした。何もする気が起きない。今日はゆっくり休もう。
 靴を履き替え玄関に出る。
「やぁ、六原さん」
 声を掛けられ振り返る。正面玄関の先にある大きな門の壁に寄りかかるようにして、一人の少女が手を振っていた。
——おいおい、なんでいるんですかね。
 今日、連絡を取った際は放課後はワーさんと買い物に行くのでその後家に来てくれとのことだったのだが。
 何故か疲れ果てたように少し顔色が悪い彼女に六原はぎこちない手つきで手を振り返す。
 体調でも悪かったのだろうか。しかし、今の自分は目の前にいる少女に何を言えばいいのか分らない。辰野との話し合いを聞かれるのが怖かった。
 何と答えたらいいのか。何度も頭の中で問い直しているのに答えが出ない。
 月島はゆっくりとした足取りでこちらに近づく。
——嗚呼。駄目だなぁ。
 言うしかないのかと未だ悩む六原に月島は声を掛けた。
「今日は箒をとりにいく約束だったじゃないか」
「え・・・・・・ほうき」
 予想外の質問。そういえばそんなことあったな。と思いだした。
「嗚呼、そうだったな」
 辰野との話し合いの事ではなく。ホッとしたが、どの道、遅かれ早かれ結果は言わないといけないのだ。そう思い。半ば無理矢理腹を括る。
——よし、覚悟完了。
 そして、目の前の月島を見て、話す覚悟を決めた六原は諦めたように力なく言った。
「じゃあ、行こうか。あまり時間も無いことだしね。」
 まずは、月島の家に着いてから今回駄目だったということを正直に言おう。その後のことは少し、色々時間がかかるかもしれないが何とかしよう。けど、彼女を助けることは悪なのじゃないか。という疑問が頭の中を駆け巡り、混ざり合いながら六原の頭は一つの結論を出す。
——彼女の本心について聞こう。
 我ながら名案だと六原は思った。
——思えばオレは自分の事ばかりしか見ていない。月島がこれからどうしたのか、どうすれば救われたと思うのかまずは、それを聞き出すことから始めようじゃないか。
「ほら、置いていくよ」
「お、おい」
 これからの事を無理やり前向きに考えつつ六原は先を歩く月島の後を急いで追いかけた。