複雑・ファジー小説

Re: 脇役謳歌〜できそこないヒーロー ( No.61 )
日時: 2014/05/31 09:00
名前: uda (ID: T3U4YQT3)

 一日目。
 六原が目覚めると、目の前には見慣れない白い天井があった。周囲には味気のない白い壁が囲われている。殺風景な部屋だなという感想が思い浮かぶ頃には、ようやく意識がハッキリし、自分が今までベッドで眠っていた事が分かった。
 今がいつなのかと思ったがカーテンのせいで朝も昼とも分からなく、不安になり体を動かそうとしたが体に力が入らずに動く事が出来なかった。体が震えているだけで腕を上げることも困難である。
だから、何もすることができずに、仕方なくぼんやりとしていると部屋のドアが軽い音を立て開き、看護師が医師を連れて現われた。
 未だ状況も分からずに軽く混乱している六原に医師が丁寧に、半日ほど意識を失っていたこと、姉に担がれココに運ばれてきたことを説明してくれ、六原は少し気分が落ち着くことができた。
 それから、姉に借りがあると言う目の前の医師の働きによって、倒れた六原の理由等は深く検索することもせずに、首輪の力で怪我が治っていた六原は簡単な診察をされ、こうして目が覚めるまで病室のベッドに寝かせられていたと言う事を改めて聞かされた。
「全身の筋肉痛が酷いようですが、後二、三日ここで安静にしていなさい」
 もっとも、完全に痛みなどがとれるのは一週間後ぐらいだと医師は言っていた。
 その後、目を覚ました六原に意識等の確認を簡単に済ませた後、医師はお大事にと言い、カーテンを開けた看護師と共に病室から出て行った。
 六原は一人部屋に残され、再びドアが開いた時には来客時間となる昼過ぎであった。
「よう、息子」
 数時間後、夕方に差し掛かる時間に六原の両親と姉がお見舞いに来た。
 両親は意識を取り戻した六原にホッとした後、無茶な事をした六原を叱り、隣にいた姉にはざまぁ、と小声で言われた。
 叱り終えた後、夕飯の買出しがあると両親は言い、着替え等を六原に渡すと帰っていった。
「全く、忙しいのにわざわざ来てくれるなんていい両親じゃない」
「お前の両親でもあるけどね」
 何故か残った姉はケラケラと笑うと突然話題を切り替える。
 首輪の効果の代償で体中に響く筋肉痛を耐えながら上半身だけベッドから起き上がった。
「……なぁ」
 しばらく、考え抜いた後思いきって姉に訪ねようとしたが、姉は六原の言葉をさえぎるように頬笑み、口を開いた。
「・・・あれから、どうなったか知りたいだろ」
「・・・・・・」
 相変わらず六原の内心を見透かしたような言動に六原は何と言っていいのか言葉に詰まる。六原の困る表情を見つめながら姉は再度問い掛けた。
「知りたいだろ」
 自分が気を失ってから、あの泉で何が起きたのか。黒羽はどうなったか。六原は知らない。そして、目の前の姉なら事の終わりを知っていても別段おかしくなかった。
 目の前の人物の思い通りのセリフを口にすることに酷く嫌な気分になりながら六原は姉に視線を合わせずに彼女の望むセリフを口にした。
「まぁ、知りたいです。けど、べ、べつにそこまで気になってなんていないんだからね」
 せめてもの抵抗で、ツンデレのように言ってみた事に対し、姉は冷めた目を送った。