複雑・ファジー小説

Re: 脇役謳歌〜できそこないヒーロー ( No.62 )
日時: 2014/05/31 09:08
名前: uda (ID: T3U4YQT3)

「・・・・・・気持ち悪い弟ね」
「素直なれないお年頃なんですよ。まぁ、その前に・・・」
 六原は言いながらベッドから身を乗り出し、傍の棚の上においてあった紙袋を姉に向って放り投げた。
「返します。ありがとうございました」
「お礼はお金で頼むよ」
——おいおい、人に露払いをさせておいた奴のセリフじゃないだろうが。
 後に続く戯言を聞こえない振りをしながら六原は勝手に話を始める。
「まぁ、まさか首輪が盗聴器入りとはびっくりしましたけどね」
 姉は笑みを浮かべ軽く拍手をする。
「驚いたね。もう、気配でそんなことまで分かるようになったのか」
「いやいや、そんな事出来るのあんただけだからな。普通にカマをかけてみただけだよ」
「……だますとは酷いじゃないかー」
「あんたが言うなよ」
 親切に何のメリットもなくあの姉が自分に「魔法のアイテム」をくれる等と六原は思っていない。ではなぜ貸してくれたのか。考え導き出した結論は姉が実はオレに雑魚敵などの相手をさせたかったのではないかと思った。
——恐らく姉の考えとしてはオレがいい所までいくが結局成果を上げることはできないまま終わる。そして、そこで自分が登場していいところを全部奪うと言うところだったのだろうなぁ。
 実際に思い通りに動かされてしまったので何も言い返せない六原に姉はとぼけたように語り掛ける。
「あれ?もしかして、私が弟を囮に使ったなんて思っているのかい」
「しか思えないな」
「いやいや、結果的にそう見えるかもしれないけど、コレは保険だよ。保険。弟が失敗した場合、ソレがいち早く分かるようにする為のね」
 言い訳っぽいんだよねぇ。と姉の言い分を聞きながら思っていると、それよりもと話を切り捨てた姉は六原に問いただす。
「君はこの姉にその後の話を聞きたかったのじゃないの」
——そうでした。
「オーケー。手短に分かり易く頼む」
「アンタねぇ・・・」
 あまりの手のひら返しに何か文句の一つでも姉は言いたいようではあったが一度大きく息を吐き、言いかけた言葉を飲み込むとアレからの出来事について一言で言った。
「大体がお前の想像道理な展開だよ」
「つまり、無意識のうちに覚醒したオレがなぞの力で全て解決して世界は平和に・・・」
「はいはい、ふざけないでねー」
「うぃ、えーと、」
 今までに生きてきた中で巻き込まれた物語のような様々な出来事。そのせいか、六原はある程度この物語の六原が意識を失ってから後の展開は読めていた。
「姉がレジスタンスをほぼ壊滅させて、騎士がレジスタンスの目的であった重鎮を排除したことにより、完全にレジスタンス、レギオンの目的はなくなり解散となったわけかな。そして、それはつまり、月島がもう狙われることはなくなったということかな。」
「あら、大体正解。点数で言うと75点って所ね」
 喜んで良いのか、悪いのかイマイチな点数を言うとの枕元に置いてある椅子に座り足を組む。
「どこが違った」
「大体の筋はあっているわ」
 傍の棚に両親がお見舞いで持ってきた籠に入っている林檎を手に取ると懐から折り畳みナイフを取り出し姉は林檎の皮をむき始めた。
「だけど、レギオンは国家転覆を企んでいた組織を忘れているようね。その為に、彼女が月島がしてきたことは簡単に許せるものではないの。たとえソレが、彼女がレギオンの象徴としてなるために必要なことであってもね。」
 素早い手の動きにすぐさま皮をはぎ落とされた林檎を今度は切り分け、両親が持ってきた取り皿に置く姉に六原は頭の中で浮かんだ疑問を訪ねる。
「月島を捕まえたのか」
 もう一つ籠から林檎を取り出すと、空中に放り上げ、落ちてくるまでの一瞬で切り分けた姉は一息つくとはっきり答えた。
「いや、」
 そして切り分けた林檎を手に取り一口齧る。
「むしろ、保護したようなものだよ」
「保護?つーかその林檎はオレのお見舞い品じゃないかな」
「気にしてはダメよ。兄妹でしょ」
 頭に血が上りてめぇーと姉に掴みかかったが片手で弾き返され六原は無様にベッドに叩きつけれた。途端に広がる筋肉痛に顔を歪めつつ畜生・・・と短く呟く。
「まだまだねー」
「いいから。そういうのいいから。結局、月島をどうしたん。あの後、あの泉に来たんだろ」
「まぁ、そうだけどね。実はキミが気を失った後に——」
 しかし、その後の言葉を姉は口にしなかった。そして、少しの間顎に軽く指先を当て考えるしぐさを取ると笑みを浮かべた。口先をゆがめた笑みは六原の経験上碌な事を考えているときだと悟るが気付いたときにもう遅かった。
「やっぱやめたわぁ」
「何なんだよ。お前!!」
 思わず叫ぶ六原の声に等ものともせず姉は目の前に人差し指を突きたてる。
「だけど、代わりに一つキミの疑問を解消してあげよう」
——ノリノリですねぇ。
「ワーにキミを紹介したのはこの私だよ」
 サラリと言った姉のセリフ。一体どういう意味なのか少し分からなかったが、少し考えたところですぐに理解できた。
「そういうことですかぁ」
「理解が早くて助かるわ」
——何て、事だよ。
 分かってしまった。そして、がっくりと力が抜けていく気がした。
——結局、姉の手のひらで踊っていたのかぁ。
 要するに月島が六原に会う前からワーと姉は結託していたのだろう。二人の間にどういった取引や協力があったのかは良く分からないが、少なくともタイミングが良すぎた六原に協力を求めさせたこと、そしてその後に起きた騎士の襲撃、そして、レギオン残党の襲来について彼女らの手引きが少しはあったのだと六原は思った。
——まぁ、姉に直接問いただした所で上手くはぐらかされるのがオチだから、詳しいことは聞かないけどねぇ。
「おかしいとは思っていたよ。何というか話が出来すぎているし都合が良すぎた様に見えたからねぇ」
「いやー、今回は色々と慣れない裏方役に回って動いていたから疲れたわ」
「お疲れさん。・・・なぁ、一応聞くが、月島は無事なのか」
「・・・ええ」
 短くだがハッキリと姉は答えた。
「そうかい」
——それだけ分かれば十分だ。
 ホッとした六原に姉は笑みを浮かべる。
「だから、弟よ。退院後にデートに誘っても大丈夫だ。やったね!!」
「いきなり、何を言っていやがる!!」
 親指を立てる姉の発言に驚き声を六原は上げる。その反応を見て姉は肩をすくめた。
「やれやれ、惚れた女を誘うことすら出来ないのかい」
「いやいや、まだ、惚れてないから」
「じゃあ、惚れていたら誘うのかい」
「当たり前ですよ」
 きっと誘わなければ、ヘタレ等と姉に言われることは明確であった為、反射的に六原は答えた。
「そうかい、じゃあ、楽しみね」
 フラれたら指を刺して笑ってあげるわ。と姉は面白そうに語った。
そして、その後は今回の自分たちに対してどこが格好良かったか、悪かったか等というダメだしや罵りあいを言い合ったところで両親が買出しから戻り、その日はそれ以上月島達について聞くことはなかった。