複雑・ファジー小説
- Re: 脇役謳歌〜できそこないヒーロー ( No.63 )
- 日時: 2014/05/31 09:17
- 名前: uda (ID: T3U4YQT3)
姉との戯れも終わって入院二日目。窓からの景色はもう夕方となっていた。
昨日、姉が来てからは今回の件で特に気にするような人物は六原としては現われなかった。
まぁ、その。強いて言うなら、午前中にもう一度姉が来ていつもの軽い姉弟喧嘩をしてボロ負けした事と、先程まで辰野がメイドと共がお見舞いに来ていたことぐらいであった。もう、魔女を狙うことはもうやめることになった話と有耶無耶になっていたが以前メイドが怪我をさせたことに対しての謝罪をしに来たらしい。
六原としてはその心遣いだけでも十分であったので簡単に許した。調子に乗って「メイドを貸して」と言ったところで、調子に乗るなと辰野に怒られた。
その後はただ、クラスのことや授業のこと等の雑談をしていたが月島について思い出し聞こうとしたがその前に「騎士の婚約者。」と名乗る謎の少女の乱入により発生した辰野の大岡裂きを見たことで聞く気力も失せ、サッサと三人を部屋から追い出してしまったことぐらいであった。
——まったく、いちゃいちゃしやがって。
先程までの辰野達がいた時の喧騒が嘘のように静まり返った。
——嗚呼、ヤッパリ聞いておけばよかったなぁ。
今更ながらに後悔したが既に辰野達を追い出した自分としては今更引き止めにいく訳にもいかず、ベッドに寝転がる。
——そろそろ月島来ないかねぇ。
実際月島自身が来るのがアレからどうなったのかよく分かり、個人的にも嬉しいと六原は思っていた。
——メール。送ったのになぁ。返信すりゃ来ないじゃないか。
電話もしようと思ったが、なにぶん活躍もできずにこうして入院している状況を自分から説明するのは何故かカッコ悪く、恥ずかしいと思い六原は出来ないでいた。
唯一送ったのは返事の来ないメールを一通。一言、無事ですか。と送っただけであった。
はぁ、と重々しい溜息を吐いてしまう。
医者からは明日にでも退院できると言われている。なので、月島がお見舞いに来るなら今日しかない。
——が、まぁ、早々上手くいくようなはずはないか。
このまま誰も来なければ一眠りしようかと思っていると、コンコンと乾いた音が耳に聞こえた。
——キタ。月島が来た。
痛みも気にせず飛びあがる。
ノックの音に反射的に素早くドアのほうを振り向くが、扉は開かなかった。
「やれやれ、やっと行ったようじゃないか」
代わりに聞き覚えのある声と共とガラリと音がすると扉ではなく窓が開いた。
——来ましたよ。来ちゃいましたよ。
「ワオ・・・スタイリッシュな登場ですね」
——ワーさんがね
いきなり窓から現われた割烹着姿の老婆に驚いた後に六原は小さく落胆した
「なんだい。苦いものでも食べたような渋い顔をして」
「いえ、ウレシイデスヨ」
——何というかまぁ、来たことに対して凄く嬉しいんだが凄く惜しい!と正直おもうんだよなぁ。
「まったく窓から来てみれば騎士がいるじゃないかい。慌ててそのまま窓枠に捕まっていたから、疲れたよ」
「色々と突っ込みどころがあるが・・・」
ほんと、肩が凝ったよと言いながらワーは肩をまわした。
一応和解しているとはいっても、つい先日まで戦っていた相手とはしばらく会ってもお互い気まずいだけなのでワーなりに気を使ったのだろう。
ワーは傍にあった椅子に腰掛ける。
「まずは主を守ってくれてありがとう」
そして、深々と頭を下げた。
「いえいえ、それほどでも・・・」
「そうだね」
そう言って下げた頭をスグ元に戻した。
——変わり身早くないですか。
「しかし、守ったと言うより納得がいかずに奪いに来たと言うほうがいいかもしれないがね」
「いやいや、あのときの気分はもう姫を守る騎士のような気持ちでしたから、そんなひねくれた子供のような感情は一切なかったですよぉ」
「・・・まぁ、そういうことにしておこうかい」
「あらー信用ないですねー」
ハハハと乾いた笑いをして誤魔化すワーさん。そこでふとした疑問が浮かぶ。
「そういえば、窓の鍵開いていましたっけ?」
「ああ、お前の姉に開けておいて貰うように言っておいたんだよ。」
そういえば午前中に姉が来ていたことを六原は思い出した、先日のお見舞いに行った後に焼肉に行ったことをまるで六原に煽るように言ってくる姉とまたもや軽い姉弟喧嘩をしていつも通り負けたのであまり思い出したくない事ではあったが、確かに思い出せば喧嘩をする前に一度窓を開けていた。姉は換気だと言っていたが。
——それで閉めず鍵は開けておいたのだろうな。
「一応、姉からはあなたの事は聞きましたよ」
「・・・そうかい、聞いたのかい」
何がとはワーは聞かなかった。ただ、面倒そうに頭を掻いた。
「言っておくけどね、主は関係ないよ。私がお前の姉と主のことについてよく相談に乗ってもらっていた仲なんだよ」
「そうですか」
姉と知り合いではなかったことになぜか六原はホッとした。
「全くいきなり騎士相手に負けて戻ったときは使えねぇ、なんて思ったが。まぁ、最後は良くやってくれたよ」
どこか照れくさそうにそっぽを向きながら答えるワー。
「・・・・・・」
——え、なにこれ!?ツンデレ。