複雑・ファジー小説

Re: 君の絵 ( No.1 )
日時: 2014/01/18 15:43
名前: みーこ. (ID: J9Wlx9NO)

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1話




やばい……飲みすぎた。そう思っても、時すでに遅し。俺は目が開けることができない状況になっていた。
こんな風になるのは、いつぶりだろう。いや、こんなこと初めてかもしれない。大体、酒なんか飲んだの、久しぶりだ。

——爽ちゃん。爽ちゃん。

あ、これ……誰の声だろう。

「……小春」

ああ、そうかこれは小春の声。朦朧とした頭の中に、彼女の笑顔がよみがえる。
——彼女と過ごした、あの透明な日々も、……よみがえった。








内田小春に出会ったのは、高校一年の秋。たまたま行われた席替えの日。先に窓際の席に移動していた俺の隣に机を運んできたのが内田だった。当時俺は、彼女の名前すら知らなかった。唯一知っていることといえば、彼女は男子生徒に莫大な人気があるということ。
彼女は机を定位置に運んで、机に手を叩くようにして乗せると、ハァ、とため息をついた。それから、俺の顔を覗き込んでニッコリと微笑んだ。

「菊池くん。私、隣」
「はぁ、どうも」
「菊池くんて、下の名前……爽真、で合ってるよね? 私、内田小春」

こくり、と小さくうなずく。それから窓の外を眺めた。しばらくして「あのぅ」と小さな声が聞こえて、内田を見る。

「菊池くんて、絵描くの好きだよね?」
「は?」
「前、私が部活で教室に戻ってきたときに、菊池くんの机の上に、綺麗な花を描いたスケッチブックが開いて置いてあったの。あまりにも綺麗だったから、名前を確認したら、やっぱり菊池くんのだった」

ふふふ、と内田は嬉しそうに笑った。——一方俺は、自分の描いた絵を人に見せるということに抵抗があり、羞恥を感じて内田から目線をはずした。頬が熱くなっていくのが自分でも分かった。

「綺麗な絵を描くんだね」
「……別に」
「あ、そうだ。じゃあ今度私も描いてよ」
「!?」
「あはは、冗談冗談」

内田が笑って、俺も少しだけ口角を緩ませる。
俺たちはまだ、確かに子供だった。










彼女と出かけることになったのは、それから二ヶ月後。付き合っているわけではなかったから、内田にとっては友達と出かけるうちの一つなのだろう。もちろん俺もその気でいたが、やはり緊張する。友人と出かけること自体が初めてなのに、ましてその相手が女子だなんて。最近流行している映画を見に行くらしい。「俺と行ってもつまらないよ」って言ったら、彼女は顔をくしゃ、とさせて笑った。

その日、待ち合わせの三十分前に彼女は待っていた。マンガでよくあるように、男の人たちに声をかけられていた。
それを見ているうちにモヤモヤして、勝手に足が動いていた。

「……あの」
「あぁ?」
「この人、俺の連れです。……内田、行こう」
「え、あ、うん」

自ら怖いお兄さんに突っ込んでいくなんて、もう金輪際ごめんだ。

内田の手を、強く握り、強引に引っ張った。内田は黙ってついてきた。——しばらくして、俺がずっと内田の手を握っていることに気付く。

恥ずかしくなって、内田の手を離そうとする——が、内田が離してくれない。

「……う、内田?」

突然のことに驚いて、声が裏返る。
白透明な息を吐いて、内田は黙って首を振った。それから、俺の手を強く握る。

しばらく、手を繋ぎあったまま俺たちは向かいあっていた。

その間、彼女の手は小刻みに震えているように感じた。それを感じた瞬間、好きだ、とただ単純に気付いてしまって、俺も無意識に彼女の手を握り返してしまった。









かなり修正しました。まだまだ過去編続くよ。