複雑・ファジー小説

Re: 〜闇の系譜〜(ミストリア編) ( No.187 )
日時: 2016/11/15 18:23
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: C8ORr2mn)

†第四章†——対偶の召喚師
第一話『来訪』


 日が傾き始めた頃。
岩棚に寝転がっていたルーフェンがふと目を開けると、それと同時に、傍らで座り込んでいた老人──ラッセルも顔を上げた。

「……誰か、結界の内に入ったな」

 しわがれた声で、ラッセルが言う。
ルーフェンは、気だるそうに身を起こした。

「……獣人か」

「いいや、これは人の気配じゃのう」

「人?」

 予想外の返答に、ルーフェンが聞き返す。
すると、その時、上方の岩場から、まるで猿のような身軽さで、一人の女がラッセルの横に降り立った。

 女は小柄で、年齢を窺わせない若々しい顔立ちをしていたが、左の片目が潰れており、どこか謎めいた雰囲気を持っている。

「人ならば、私が追い払ってこようか。ルーフェンは休んでいるといい」

 女は、太股に仕込んであった小刀を抜くと、抑揚のない声で言う。
だが、ルーフェンは首を横に振った。

「いや、いいよ、ノイちゃん。多分、俺の客だから」

 そう言って、突き出した岩に手をかけると、ルーフェンは勢いをつけて飛び上がる。
そうして崖の頂上まで登ると、目先の草一本生えないその岩場には、案の定、二人の男が立っていた。
鎧などは着けておらず軽装だったが、剣帯には細身の剣と暗器を吊るしており、目元以外は覆面で隠されている。

「……召喚師、ルーフェン・シェイルハートとお見受けする」

 男の一人が、こもった声で問いかけてくる。
それに対し、ルーフェンは、やれやれといった様子で男達に向き合うと、わざとらしく肩をすくめた。

「さあ? 君達、こんな南方の地まで来てご苦労なことだけど、人違いじゃないの?」

 軽い口調で言うと、もう一人の男が、苛立ったように怒鳴った。

「ほざけ! その銀の髪と瞳、間違いなかろう!」

 男達は、それぞれの剣を抜き払うと、腰を落として構えた。
ルーフェンは、それを見て苦笑した。

「なにそれ。分かってるなら、聞かなくていいのに」

「──覚悟!」

 その言葉を無視して、男達が一気に間合いを詰めてくる。
ルーフェンは丸腰のまま、向かってくるうちの一人に狙いを定めると、ふざけたように言った。

「あーあ、もう最近こんなのばっかり。いい加減にしろよ──と!」

 すっと目を細めて、男を睨む。
その瞬間、睨まれた男は、突如見えない壁にぶち当たったように仰け反って、そのまま爆風に巻き込まれたかのごとく、後方に吹っ飛んで動かなくなった。

 それにぎょっとして、一瞬動きを止めたもう一人の男の懐に、ルーフェンは素早く飛び込む。
そして、鳩尾を膝で蹴り上げ、つんのめった男の手から剣を奪い取ると、うつぶせに倒れた男を仰向けに蹴り転がし、その腹を強く踏みつけた。

「俺、召喚師様よ? こんなんで殺されるわけないでしょーが」