複雑・ファジー小説
- Re: 〜闇の系譜〜(ミストリア編) ( No.22 )
- 日時: 2015/05/23 00:22
- 名前: 狐 (ID: dfg2.pM/)
「ところで、さっき『あんたも』と言っていたが、俺の他にも南に行こうなんて物好きがいたのかい?」
不自然な流れにならぬよう、話を持ち出すと、店主は特に不審がる様子もなく、べらべらと話し始めた。
「ああ、朝方にね。思えば、あのお客さんもあんたみたいにハイドット目当てだったのかもねぇ、やけにがたいが良くて、鎧も着けてたし。あんたみたいに、南に渡るための日除けの外套探してたんだよ」
スーダルの推測が、確証に変わった。
「俺んとこは大分古い品も置いてあるから、なんとか日除けの外套も置いてあったんだが。南に渡る奴なんてほとんどいないし、他の店には売ってないだろうよって言ったら、うちにある外套全部買っていってくれたよ。……つうわけだから、うちにはもう防寒用の外套しかないなぁ。すまんね、お客さん」
(——これだ)
スーダルの脳裏に、光が走った。
防寒用の外套はどの店にも売っているから、アドラが北に行くつもりなら、食糧と同じように複数の店からちょっとずつ買うはずだ。
しかし日除けの外套がこの店くらいにしかない、というなら、この一軒でまとめて買うしかない。
店主の証言と自分の推理とを合わせて、スーダルは笑みを浮かべた。
(南は危険だからという裏をかいて北に行くか、それとも捜索の手すら届きづらい南に行くか、分からなかったが、これではっきりした。——奴らは南に行く!)
スーダルは店主を見た。
「ないんなら、仕方ない。駄目元で、他をあたってみるよ」
そう告げてすぐ、勢いよく酒場に向かって走り出した。
その姿は、まるで獲物をみつけた時の猫のようだった。
* * *
ファフリは着替え終わると、アドラにもらった予備の短剣、金などを袋に詰めて、背負った。
つらいとまでは思わなかったが、質の悪い衣が、荷を背負ったことで素肌に擦れて、少し痛かった。
「準備ができたなら、そろそろ行くぞ」
その声に、ファフリはぱっと立ち上がって、既に旅支度を終えたアドラとユーリッドの元に駆け寄った。
「いいか、何かあったら、とにかく逃げることだけを考えるんだ。ユーリッド、お前が基本的にファフリにつけ」
ユーリッドは、頷いた。
「私、魔術なら使えるよ。一緒に闘えるわ」
意気込んでそう言うファフリに、アドラはきっぱりと首を振った。
「相手はただの兵士ではない。魔術なんて使おうものなら、詠唱中に一撃で殺されるだろう。……貴女は、逃げ延びることだけ考えなさい」
「簡単なものなら、詠唱無しでもできるよ」
「駄目だ。言うことを聞け」
声の調子を強めたアドラに、ファフリはしぶしぶ頷いた。
- Re: 〜闇の系譜〜(ミストリア編) ( No.23 )
- 日時: 2018/03/01 01:51
- 名前: 狐 (ID: C8ORr2mn)
街を出ると、家々の明かりがなくなるため、思ったより辺りは暗かった。
それでも、ぼんやりとした月明かりのお陰で、前が見える程度には明るかった。
ユーリッドとアドラは、歩きながら周囲の気配を探っていた。
全くもって生き物の気配はしなかったが、気を緩めるわけにはいかなかった。
国王が放ってくるのは、殺しの専門家だろう。
相手に気配を悟られずに身を潜めることなど、朝飯前のはずだからだ。
たとえまだ周囲に潜んでいないのだとしても、まだ城からそう離れていない前の今夜、何かが起こるであろうと、アドラは予測していた。
三人の影が街を出て、南の方角に歩いていくのを、ヤスラはじっと見つめていた。
街から続くこの一本道をしばらく歩くと、潜む場所のない草地へと出る。
そこならば、誰に見られることなく、対象をあの世送りにすることができる。
リルド達三人が、ファフリを襲うのは、その草地に出たときと決めていた。
ヤスラは三人の影が十分遠ざかったのを確認してから、前方の茂みに身を隠すリルドとスーダルに、合図を送った。
慎重に尾行していくと、やがて標的の三人が草地へと出た。
リルドは一度立ち止まると、同じく尾行をやめたヤスラ、スーダルとそれぞれ顔を見合わせた。
「……いくぞ」
ユーリッドとアドラは、この平坦な草地に出た時から、焦りを感じていた。
ここでは、隠れる場所がない。
街からかなり離れているため、人目も気にならない。
襲われる側からすると、ここまで悪条件な場所もそうそうなかった。
三人は速足で、前方にある森に早く入り込んでしまおうと思った。
月明かりに照らされて、三人の足音だけが響いている。
地面が多少ぬかるんでいるのか、足をとられて走りづらかった。
いよいよ前方に、森の木々が見え始めた時、ふっと大気を切り裂くような音がした。
アドラは気配で、ユーリッドは音でそれを感じとると、ファフリを突き飛ばして即座に伏せた。
頭の上を、二本の暗器が通りすぎる。
アドラはすばやく起き上がると、手の甲に仕込んでいた短剣を、暗器が飛んできた方向へ、立て続けに三本放った。
すると、金属同士がかち合う音が響き、そこから二つの影が飛び出した。
その内の一人、スーダルから、鋭い剣先が突くように押し出される。
アドラは抜刀した勢いでそれを弾くと、そのまま回転して、右脇を狙ってきたリルドの剣を受け止めた。
リルドの剣はスーダルのものに比べて重く、弾くことはできなかったが、アドラは剣を受けたまま、リルドの腹を蹴り飛ばした。
- Re: 〜闇の系譜〜(ミストリア編) ( No.24 )
- 日時: 2018/03/01 01:54
- 名前: 狐 (ID: C8ORr2mn)
ユーリッドは、突き飛ばされたファフリを抱き起こすと、アドラの目配せを受けて、ファフリと共に前方の森に走り出した。
しかし次の瞬間、リルドとスーダルが飛び出してきたのとは逆の方向から、新たな剣先——ヤスラが襲いかかってくる。
ユーリッドは咄嗟に剣でその攻撃を受けたが、力負けして弾かれるように後方に飛ばされた。
ユーリッドは、受け身をとろうとして、側にいたファフリにぶつかって転んだ。
ファフリは慌ててその場から退こうとして、立ち上がり、前に一歩踏み出した。
しかし、ファフリがユーリッドから離れた瞬間、ユーリッドに向かっていたヤスラの剣が、一気にファフリへと向かう。
「ファフリ!」
思わず叫んで、ユーリッドは体制を立て直そうとしたが、ぬかるんだ地面に足をとられて一瞬遅れた。
ファフリはどうして良いか分からずに、襲いくるヤスラを見たまま硬直している。
ヤスラの剣が、ファフリを切り裂こうとした寸前、ファフリの背後からアドラの剣が飛び出して、力強くヤスラの剣をはねあげた。
金属特有の高い音が響き、しかしそれと同時に、肉を裂く鈍い音がして、ファフリは瞠目した。
後ろにいるアドラの肩から、白い剣先が突き出ていたのだ。
ファフリをヤスラからかばったことで、背後に隙ができたアドラが、リルドに貫かれたのだった。
「…………!」
ファフリが、声にならない悲鳴をあげる。
アドラは肩から生えた剣先を素手で掴むと、噴き出る血に構わず、振り返ってリルドを切りつけた。
リルドは頭を反らして、間一髪でそれを避けると、力ずくで剣をアドラの肩から引き抜いて、後退した。
「ユーリッド!」
アドラの叫びに、ユーリッドははっとした。
放心状態となったファフリを担いで、再び森に向かって走り出す。
それを追おうと構えたヤスラに、アドラは突進した。
不意をつかれたヤスラは、上体を反らすことで、かろうじて急所を外したが、アドラの振り下ろしたその剣先は、閃光のように閃いて腹部を切り裂いた。
アドラは、切り裂いたのと同時に、その傷口を力一杯殴り飛ばした。
流石のヤスラも、あまりの激痛に地面に崩れ落ち、血がのろのろと溢れる腹部を押さえて呻く。
アドラは方向転換すると、ユーリッド達が姿を眩ました森の、少し右方に向かって走り出した。
背後から、リルドとスーダルの足音が迫ってくる。
突然、背中に鋭い痛みが走って、アドラは表情を歪めた。
途端に回ってきた痺れに、毒針が刺さったのだと分かったが、アドラは構わず走り続けた。
- Re: 〜闇の系譜〜(ミストリア編) ( No.25 )
- 日時: 2018/03/01 01:57
- 名前: 狐 (ID: C8ORr2mn)
リルドとスーダルが、攻撃ではなく、アドラを追うことに専念し始めると、アドラは急に立ち止まり、片足を軸に後方に回転すると、リルドの懐に飛び込んだ。
そして思いきりリルドの鳩尾に肘を打ち込み、更にリルドを踏み台に翻って、隣にいたスーダルに襲いかかった。
スーダルは素早く反応し、先程貫かれたアドラの左肩に再び剣を突き立てたが、アドラはそのまま迫ってきた。
剣が、ずぶずぶと肩の肉に吸い込まれていく。
予想外のアドラの行動に、一瞬動きを鈍らせたスーダルのこめかみを、アドラの剣が貫いた。
アドラは、スーダルが倒れるのを見もせずに、森の奥へと走り去っていった。
リルドは、鳩尾に走る激痛に耐えつつ後を追おうとして、立ち止まった。
逃げたファフリを追う方が、先決だと考えたからだ。
すると、そこに後ろからヤスラが追い付いてきた。
「ヤスラ、スーダルはもう駄目だ。ひとまず王女達を追うぞ。アドラはどのみち、毒で死ぬ」
二人は頷き合って、先程ユーリッド達が消えた方角に向かった。
リルド、ヤスラは共に犬の獣人である。
臭いを辿っての追跡は得意だった。
ユーリッドは、暗殺者達の気配が近づいてくるのを感じていた。
ユーリッドとファフリは、少しでも音や臭いをごまかそうと、川近くの木に身を隠していた。
しかし、見つかるのも時間の問題だろう。
次に追手が来たら、今度こそ自分が戦わねばならないと、ユーリッドは分かっていた。
ゆらゆらと、下の方からこちらに向かってくるヤスラの姿を見て、ユーリッドは勝てると思った。
血止めはしているようだが、ヤスラの身体は傷だらけで、腹からは流れ出た血が足にまで達している。
歩くのもやっと、という様子だった。
ユーリッドは短剣を二本、そして長剣を構えると、臨戦態勢を整えた。
ヤスラは、リルドが後ろに控えたのを確認すると、川に沿って上流に向かい、歩き出した。
せせらぎの音と水の臭いで、もはや耳と鼻は使い物にならなかったが、逆に言えば、それは相手も同じである。
重症を負ったこの状態で、完璧に気配を絶つのは困難だと判断したリルドとヤスラは、相手に接近を悟られぬよう、川近くを歩くことにしたのだ。
次の瞬間、水音ではない、風を裂く音がして、ヤスラは後ろに飛び上がった。
先程まで足があった箇所に、短剣が突き刺さる。
更にもう一本、短剣が飛来してきたのと同時に、一つの影が森の中から走り出て、飛びかかってきた。
ヤスラは抜刀して迎え撃ったが、繰り出した剣先は全てかわされた。
腹に穴が空いているせいで、いつもより動きが鈍っているのだ。
- Re: 〜闇の系譜〜(ミストリア編) ( No.27 )
- 日時: 2018/03/01 02:00
- 名前: 狐 (ID: C8ORr2mn)
苦痛に顔を歪めるヤスラの顔を見て、ユーリッドは勝利を確信すると、素早くその懐に飛び込んで、喉元目掛けて剣先を突き上げた。
ヤスラは首をひねってそれを避けたが、腹に激痛が走り、そのまま体制を崩してよろめいた。
その隙をついて、ユーリッドがヤスラの鎖骨部分を切り裂く。
しかし、ヤスラは鎖骨に剣が食い込むのも構わず跳ね起きると、ユーリッドの肩を掴み、川に投げ飛ばした。
浅いところだったため、溺れるようなことはなかったが、ヤスラの突然の行動に、ユーリッドが一瞬動きをとめる。
その間に、下から残光を引いて剣が襲いかかり、ユーリッドの右腕から血しぶきが上がった。
同時に、背中にも熱い衝撃が走って、ユーリッドは倒れこんだ。
背後から、隠れていたリルドが飛び出してきて、ユーリッドの背中を切りつけたのだ。
(くそっ、一人隠れてたのか——!)
暗殺者達の狙いがこれだったのだと分かって、ユーリッドは舌打ちした。
しかし、時既に遅し。
倒れこんだユーリッドの心臓を貫かんと、ヤスラの剣が振り下ろされる。
ユーリッドは痛みを覚悟して、ぐっと目を閉じた。
ユーリッドの心臓が、ぐさりと貫かれる、はずだった。
しかし、痛みではなく、体に何かが覆い被さってくるような重さを感じて、ユーリッドは目を開けた。
すぐ横に、血にまみれたヤスラの顔がある。
ヤスラが倒れたのだ。
驚いて顔をあげると、血を撒き散らしながらリルドと対峙する、アドラの姿が見えた。
ユーリッドは、アドラがヤスラを斬ったのだと分かった。
だが、立ち上がろうとしたその瞬間、目を疑った。
ざくりと嫌な音がして、アドラの剣がリルドの心臓を突く。
それと同時に、リルドの降り下ろした剣が、アドラの頭を真っ二つに割ったのだ。
相討ちだった。
その光景を、ユーリッドは目を見開いたまま、見つめていた。
視界の端で、隠れていたファフリが、木の陰から思わず出てくるのが見える。
二人の身体は、互いの体に剣を突き立てたまま、ゆらりと川の中に崩れた。
しばらくは川の浅い部分に引っ掛かっていたが、少しずつ深い部分に引きずられて、飲み込まれていく。
そのまま死体は、下流の方に流されて、やがて見えなくなった。
- Re: 〜闇の系譜〜(ミストリア編) ( No.28 )
- 日時: 2017/08/14 18:32
- 名前: 狐 (ID: C8ORr2mn)
ユーリッドは、放心したまま立ち上がると、 何気なく側にあったヤスラの死体を見た。
それから、木のそばで震えるファフリを見つめた。
「……ユ、リッド……だい、じょうぶ?」
声を出したのは、ファフリだった。
ユーリッドはその問いかけに頷くと、ゆっくりとファフリの元に歩み寄った。
「……ファフリ、は?」
「私は、平気、だけど……ア、アドラさんが……っ!」
ファフリが、先程アドラとリルドの死体が流されていった、下流を見つめた。
ユーリッドも同じ方向を見つめながら、あの恐ろしい光景を思い出して、身震いした。
兵団に入っていた頃から、こういった戦場には慣れていたつもりだったが、仲間が目の前で殺されるのを見るのは、初めてだった。
「ねえ、ユーリッド! た、助けにいかないと……っ!」
泣きそうな顔で袖を掴んでくるファフリを見て、ユーリッドは唇を噛んだ。
そして黙ったまま、首を横に振った。
ファフリの目が、絶望の色を滲ませて、見開かれる。
「な、なんで……?」
ユーリッドはしゃがみこんで、そのままのファフリの肩に手を置いた。
「ファフリ、団長は……もう……」
冷静なつもりだったが、声を出してみて、ユーリッドは自分の声も震えていることに気づいた。
「そんなの、見てみなきゃ分からないよ……っ。もしかしたら、まだ——」
「ファフリ……」
ファフリの身体から、力が抜けていくのが分かった。
沈黙もつかの間、不意に辺りから、腹の底に響く、呻き声のようなものが聞こえてきた。
ユーリッドとファフリは、身を凍らせた。
咆哮が響いてきて、それに答えるように、所々から咆哮が重なっていく。
——狼。
血の臭いにひかれて、集まってきたのかもしれない。
そう気づいた時には、もう遅かった。
ユーリッドが再び剣を構えたのを見て、ファフリも思わず立ち上がった。
「ユ、ユーリッド……駄目、だよ。怪我してるのに……」
右腕と背中から血を流すユーリッドを見て、ファフリがそう言った。
実際、ユーリッドももう限界を感じていた。
普段ならともかく、こんな状態で狼の群れに襲われたら、おそらく助からない。
そもそも、利き腕がやられているのだ。
まともに戦えるかすら分からなかった。
二人は、木々の間を蠢く無数の黒い影を見て、体を震わせた。
ユーリッドは、狼の群れに囲まれていることに、既に気づいていた。
白い光が、闇の中で動いて、ゆっくりと近づいてくる。
狼の目だ。
「絶対、ここから動くな」
ユーリッドが、ファフリを木に押し付けて、そう言った瞬間。
黒い影が二つ、滑るように駆けてきた。
ユーリッドが、慣れない左手で剣を振るうと、それは狼にぶち当たり、狼は情けない鳴き声を残して後退した。
それからユーリッドは勢いよく、もう一匹の狼に回し蹴りを喰らわした。
それをきっかけに、一斉に狼の群れが四方から襲いかかってくる。
ユーリッドは、必死に剣を振り回して応戦したが、体力はとうに限界を越していた。
- Re: 〜闇の系譜〜(ミストリア編) ( No.30 )
- 日時: 2017/08/14 18:36
- 名前: 狐 (ID: C8ORr2mn)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=195.jpg
ユーリッドの動きが、ついに乱れ始めた時、一匹の狼がその左腕に思いきり噛みついた。
呻(うめ)いて、ユーリッドはその狼を殴り飛ばしたが、両腕をやられた今、もう剣が振るえないことを悟った。
ユーリッドの左腕が血を滴らせ、剣を落とした。
ユーリッドはもう戦えない。
けれど狼は、まだ何匹も周囲に蔓延(はびこ)っている。
ファフリは、何度も魔術を放とうと手をかざしたが、動き回る狼を前に、狙いを定めることができなかった。
何より、ユーリッドに万が一当たったらと考えると、恐ろしくて出来なかった。
(死にたくない……!)
全身が震えた。
アドラは死んでしまった。
そしてこのままでは、ユーリッドも自分も死んでしまう。
(誰か、誰か、助けて——!)
その時ファフリは、胸から何かが込み上げてくるような、不思議な感覚に襲われた。
ぞくりと全身がざわめいて、自分の身体から、何かが這い出てくるようだった。
意図的だったのか、無意識だったのか、ファフリは口を開いて、唱えた。
「汝、窃盗と悪行を司る地獄の総統よ。
従順として求めに応じ、我が身に宿れ。
——カイム……!」
身体が、炎に包まれたかのように熱くなった。
ファフリは、自分の周りから、光の刃がいくつもいくつも噴き上がったのを見た。
光の刃が、流れ星のようにきらめきながら、狼達を切り裂いていく。
先程まであんなにも恐ろしかった狼達が、まるで熟れた果実の如く、一瞬でぐちゃぐちゃになった。
刃は、闇を切り裂きながら縦横無尽に飛び回り、ファフリとユーリッド以外の全てのものを刻んだ。
ついに、辺りが静かになった時、ファフリはふぅっと息を吸って、その場に倒れこんだ。
それと同時に、飛び回っていた光の刃も、闇に溶けるようにして消えた。
ユーリッドは、倒れたファフリを見つめながら、動けずにいた。
しばらくしてから、地面に転がる狼の死骸を見回して、そして再び、ファフリに目を移した。
倒れこんだファフリの顔は、実に幸せそうな、満ち足りた笑みを浮かべている。
それは、ファフリが普段浮かべるような、明るい笑顔とは程遠いものだった。
それを見た途端、ユーリッドはこれまで感じたことのないほどの、恐怖を感じた。
真っ赤に染まった川の、せせらぎの音だけが聞こえる。
ユーリッドは、ファフリを見つめて、呆然と立ち尽くした。
To be continued....