複雑・ファジー小説
- Re: 〜闇の系譜〜(ミストリア編)とりけらとぷすさんの挿絵掲載 ( No.240 )
- 日時: 2017/01/14 20:05
- 名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: SkZASf/Y)
「そういえば、二人は? なにか食べた?」
ふと思い付いて、トワリスが問うと、ファフリが身を起こして頷いた。
「ええ、侍女さんに用意してもらって、頂いたわ」
「そう。ならいいけど……」
ファフリの返事を聞いて、トワリスは、安堵の息を漏らした。
いくら獣人が相手とはいえ、流石に王宮も、いきなり食事に毒を盛るような軽率な真似はしていないらしい。
歓迎はされていないにせよ、ファフリとユーリッドは、一応宮殿に引き入れられているのだ。
王宮側も、今のところは、ファフリたちを他国の要人、あるいは、トワリスと共にミストリアの事情を把握する、重要な参考人くらいには認識しているようだ。
トワリスが食べ終わると、ユーリッドとファフリは、サーフェリアに渡ってきてから、王宮に至るまでの経緯を話した。
トワリスは、黙って二人の話を聞いていたが、一通り話が終わると、申し訳なさそうに言った。
「そうか……二人とも、ごめん。いきなりサーフェリアに連れてきた挙げ句、ちゃんと説明もできないまま、私だけこんなに寝込んじゃって……。ただですら、この国じゃ獣人は敬遠されてるっていうのに、司祭達にまで正体がばれたってなると、私たちと教会のいざこざにまで、貴方達を巻き込むことになっちゃうね」
ユーリッドが、首を横に振った。
「なに言ってるんだよ。トワリスがいなきゃ、俺たちは確実にミストリアで死んでたんだ。そもそも、俺たちが先にトワリスを巻き込んじゃったんだし、そんなこと、気にしないでくれ」
それに同調して頷き、ファフリも柔らかい笑みを浮かべた。
「そうよ。トワリス、本当にありがとう。……それに、召喚術のこととか色々お話ししてみたくて、ルーフェン様にお会いしたいって思ったのは、私よ。いつまでも、リリアナさんたちにお世話になって、隠れているわけにはいかなかったし、サーフェリアに来た以上、こうして王宮にご挨拶することになるのは、必然だったのだと思うわ」
「それは、そうかもしれないけど……」
不安げに俯いて、トワリスは、言葉をこぼした。
挨拶をして、二人のサーフェリアへの滞在が許されるのならば、もちろんそれが一番良いだろう。
だが、この状況では、よほど上手く立ち回らない限り、国王や教会がユーリッドとファフリを認めるとは思えなかった。
トワリスも、入手してきた情報──此度のサーフェリアへの獣人の襲来は、宰相キリスが独断で行ったことであり、召喚師リークスには、交戦の意思はなかったのだということを、当然提示するつもりではある。
しかし、たったそれだけでは、国王も教会も納得しないだろう。
そもそも、売国奴と疑われていたトワリスへの信用は、今のサーフェリアにおいて、ないに等しい。
トワリスの意見など無視し、ユーリッドとファフリを殺した方が、不安要素の排除という意味でも、ミストリアの戦力を削ぐという意味でも、よほど有益なように思えた。
(……巻き込みたくなかったけど、やっぱり、ルーフェンさんの力を借りるしか……)
そう考えたところで、トワリスはふと顔をあげると、寝台横に座るハインツの方を見た。
- Re: 〜闇の系譜〜(ミストリア編) ( No.241 )
- 日時: 2017/01/19 20:16
- 名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: KXQB7i/G)
「ところで、ルーフェンさんって、今どこにいるの?」
ハインツは、むっくりと起き上がると、扉の方に歩いていった。
「……ルーフェン、呼んでくる」
言いかけて、ハインツが取っ手に手をかけた瞬間。
部屋の外側から、勢いよく扉が開けられて、ハインツの顔面に直撃した。
ハインツ以外の三人の注目を浴びながら、扉を開けて入ってきたのは、ちょうど話題に出ていた、ルーフェンだった。
「えっ、なになに、皆でお出迎え? ……あ、ハインツくん、ごめん」
立ったまま、無言で顔面をおさえるハインツに、ルーフェンが軽い口調で謝る。
それから、持っていた手提げ籠(かご)をファフリに渡すと、笑顔で言った。
「はい、これプレゼント。食べていいよ、ファフリちゃん」
「あ、ありがとうございます……」
戸惑いながら受け取った籠の中には、一口サイズの焼き菓子が入っていた。
食べていいよ、などと言ったにも拘わらず、その籠から数枚焼き菓子をとると、それをぽりぽりと食べながら、ルーフェンはトワリスの寝台にどかりと座った。
「……あの、なんですか、それ」
トワリスが冷めた目付きで言うと、ルーフェンはにこりと笑った。
「なにって、クッキーだけど。街で遊……巡回してたら、露店のお姉さんがくれたんだよね。だから、様子を見がてら、ファフリちゃんにもお裾分けをしようかと。トワも食べる? はい、あーん」
「いるか!」
伸びてきたルーフェンの手を払って、トワリスが怒鳴り付ける。
この男は、どうしていつもこう緊張感がないのかと考えると、頭が痛くなった。
ルーフェンは、部屋の真ん中にある長椅子を、ユーリッドとファフリに勧めた。
「ほらほら、二人も食べなよ。美味しいよ。……あ、残り十枚だから、ユーリッドくんが食べていいのは二枚ね」
「なんでだよ」
思わぬ差別にユーリッドが突っ込むと、ルーフェンはからからと笑った。
「えー、だって俺はファフリちゃんのために持ってきたんだし、野郎に贈り物する趣味はないしー」
「…………」
いまいちルーフェンの扱いに困りながら、ひとまずユーリッドとファフリは、長椅子に腰かける。
そんな二人を見ながら、トワリスは呆れたようにため息をついた。
「……まあ、いいです。ちょうど良かった。ファフリたちのことで、話があるんです、ルーフェンさん」
トワリスがそう告げると、ファフリとユーリッドは顔をあげ、扉の側に佇んでいたハインツも、再び寝台横に来ると、その場に座り込んだ。
ルーフェンは、焼き菓子を食べていた手を止めた。
「話って、何の?」
「俺たちが、サーフェリアに来た経緯と、今後どうするかって話だよ。昨日、獣人の処刑場で騒ぎがあったときに、ちゃんと説明するって言っただろ」
ユーリッドが答えると、ルーフェンは、ああ、と声を漏らして、寝台に座り直した。
「……そういえば、まだ聞いてなかったね。いいよ、話して」
- Re: 〜闇の系譜〜(ミストリア編) ( No.242 )
- 日時: 2017/08/15 16:34
- 名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: C8ORr2mn)
ユーリッドとファフリ、トワリスの三人は、それぞれ互いの話を整理しながら、これまでの旅のことを、ルーフェンに詳しく語った。
ルーフェンは、珍しく横槍をいれることなく、静かに聞いていたが、話が終わる頃には、どこか退屈そうな表情をしていた。
「ふーん……それで、ファフリちゃんは、奇病に冒されたミストリアを、どうにかして救いたい、と」
「はい」
ルーフェンの取りまとめに、真剣な顔つきで、ファフリが首肯する。
その傍ら、腑に落ちない面持ちのユーリッドを、ルーフェンはじっと見つめていた。
トワリスは、微かに身を乗り出した。
「とにかく、一時的にリークスから身を隠すためにも、ファフリたちがサーフェリアに滞在することを、陛下に許可してもらいたいんです。だからまずは、ミストリアには、サーフェリアと交戦する意思はないんだってことをお伝えして、なんとか、ファフリたちに敵意はないってことを証明したいんですけど……」
続いて、ファフリが口を開いた。
「キリスがサーフェリアに獣人を送って、ルーフェン様や人間たちを襲わせたっていうことに関しては、本当にごめんなさい……。簡単に許してもらえることじゃないって、分かってるわ。だけど、ここで両国が敵対しても、犠牲が増えるだけで、サーフェリアにとっても良いことはないと思うの。厚かましいことをお願いしてるっていうのは重々承知だけれど、もし、サーフェリアにいることを許してくださるなら、もう二度と、サーフェリアには迷惑をかけないって誓うわ」
ルーフェンは、しばらくつまらなさそうに肘をついて、ぼんやりと話を聞いていた。
だが、やがて寝台から立ち上がると、ぐっと伸びをした。
「……まあ、どうしても陛下を説得したいっていうんなら、今のトワとファフリちゃんの言い分を、明日の審議会で話せばいいよ。ミストリアに敵意はありませんよー、争うよりもミストリアに恩を売っておいたら得ですよーって。ハイドット云々に関する証拠は、ちゃんとあるんだろう?」
ルーフェンに尋ねられて、トワリスは頷いた。
「はい。私が持ってきた荷物の中に、ちゃんと入ってます」
そう言って、リリアナの家から、トワリスと共にハインツが運んできてくれた荷物を示す。
ルーフェンは、小さく欠伸をすると、ふうっと息を吐いた。
「そう。じゃあ、奇病のこととかハイドットに関しては、ちゃんと信憑性があるっていうんで信じてもらえるだろうし、そんな感じで、とりあえず明日、頑張って説得してみればいいんじゃない?」
「いいんじゃない、って……」
あまりにも軽いルーフェンの受け答えに、トワリスが眉をしかめる。
確かに、ユーリッドたちをサーフェリアに連れてきてしまったのは、トワリスの勝手な判断だし、ルーフェンからしたら、そんな厄介事に付き合う義理はないのかもしれない。
だが、仮にも話を聞こうと承諾したなら、もう少し、ちゃんと受け答えするなり、助言をくれたりしても良いのではないだろうか。
- Re: 〜闇の系譜〜(ミストリア編) ( No.243 )
- 日時: 2017/01/28 21:23
- 名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: C8ORr2mn)
ルーフェンは、不満げな表情で黙ったトワリスには目もくれず、ファフリに話しかけた。
「そんなことよりさ、ファフリちゃんって、いくつなの?」
「じゅ、十六、ですけど……」
「へえー、じゃあ、ちょうど俺の十個下か。いやぁ、まさかミストリアの次期召喚師が、こーんな可愛い女の子だったとはねえ。獣人っていうと、皆、筋骨隆々としてる印象だったし、てっきり、むっきむきのおっさんかと思ってたよ」
ははっと笑うルーフェンに、ファフリが曖昧な微笑みを返す。
明らかに困った様子のファフリだったが、そんなことには構わず、ルーフェンは話し続けていた。
しばらくは、そうしたルーフェンの一方的な雑談を見守っていたトワリスだったが、やがて、耐えかねたように、厳しい口調で言った。
「あの、いい加減にしてください」
ルーフェンが、ぴたりと口を閉ざす。
トワリスは、ルーフェンを睨むと、不機嫌そうに言った。
「そうやってふざけるのも、大概にしてください。こっちは、真剣に話してるんですよ。少しは真面目に聞いたらどうなんですか」
「…………」
ルーフェンは、微かに目を細めると、トワリスのほうを見つめた。
そして、小さくため息をつくと、含み笑いした。
「……真面目に、ねえ……」
そう呟いてから、天井の方をじっと見つめる。
そうしてルーフェンは、いらいらとした様子のトワリスに再び向き直ると、肩をすくめた。
「じゃあ、真面目に聞くけどさ。……トワは、なんでユーリッドくんとファフリちゃんを、わざわざ生かして連れてきたわけ?」
瞬間、トワリスの目が、大きく見開かれる。
ユーリッドとファフリも、苦い顔つきになると、トワリスを見た。
「そ、それは……」
口ごもったトワリスに、ルーフェンは、追い討ちをかけるように言った。
「まさか、同情して助けたとか言わないよね? ……君は一体、何のためにミストリアに渡ったの? 敵国と見なされたミストリアを、探るためだろう。それなのに、その次期召喚師を救うために動いてるなんて、それこそ、場合によっては売国奴と指差されてもおかしくない」
「…………」
言葉を失ったトワリスから視線を外し、ルーフェンは、続いてファフリに目をやった。
「ファフリちゃんも、さっき、ミストリアの現状をどうにかしたいとか言ってたけど、それってつまり、父親であるリークス王を殺して、王位を簒奪(さんだつ)するってことだよね?」
「え……」
動揺の色を見せたファフリに、ルーフェンは呆れたように苦笑した。
「なに、その意外そうな顔。だって、そうだろう? ミストリアの情勢を変えるのも、サーフェリアに対して協力体制をとるのも、国王でなければできないことだ。つまり、君は自分の父親を殺して、ミストリアの統治者として君臨するつもりなんだと思ったんだけど、違うの?」
「…………」