複雑・ファジー小説

Re: 〜闇の系譜〜(ミストリア編) ( No.30 )
日時: 2017/08/14 18:36
名前: 狐 (ID: C8ORr2mn)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=195.jpg

 ユーリッドの動きが、ついに乱れ始めた時、一匹の狼がその左腕に思いきり噛みついた。
呻(うめ)いて、ユーリッドはその狼を殴り飛ばしたが、両腕をやられた今、もう剣が振るえないことを悟った。

 ユーリッドの左腕が血を滴らせ、剣を落とした。
ユーリッドはもう戦えない。
けれど狼は、まだ何匹も周囲に蔓延(はびこ)っている。

 ファフリは、何度も魔術を放とうと手をかざしたが、動き回る狼を前に、狙いを定めることができなかった。
何より、ユーリッドに万が一当たったらと考えると、恐ろしくて出来なかった。

(死にたくない……!)

 全身が震えた。
アドラは死んでしまった。
そしてこのままでは、ユーリッドも自分も死んでしまう。

(誰か、誰か、助けて——!)

 その時ファフリは、胸から何かが込み上げてくるような、不思議な感覚に襲われた。
ぞくりと全身がざわめいて、自分の身体から、何かが這い出てくるようだった。

 意図的だったのか、無意識だったのか、ファフリは口を開いて、唱えた。

「汝、窃盗と悪行を司る地獄の総統よ。
従順として求めに応じ、我が身に宿れ。
——カイム……!」

 身体が、炎に包まれたかのように熱くなった。
ファフリは、自分の周りから、光の刃がいくつもいくつも噴き上がったのを見た。

 光の刃が、流れ星のようにきらめきながら、狼達を切り裂いていく。
先程まであんなにも恐ろしかった狼達が、まるで熟れた果実の如く、一瞬でぐちゃぐちゃになった。

 刃は、闇を切り裂きながら縦横無尽に飛び回り、ファフリとユーリッド以外の全てのものを刻んだ。

 ついに、辺りが静かになった時、ファフリはふぅっと息を吸って、その場に倒れこんだ。
それと同時に、飛び回っていた光の刃も、闇に溶けるようにして消えた。

 ユーリッドは、倒れたファフリを見つめながら、動けずにいた。
しばらくしてから、地面に転がる狼の死骸を見回して、そして再び、ファフリに目を移した。

 倒れこんだファフリの顔は、実に幸せそうな、満ち足りた笑みを浮かべている。
それは、ファフリが普段浮かべるような、明るい笑顔とは程遠いものだった。

 それを見た途端、ユーリッドはこれまで感じたことのないほどの、恐怖を感じた。

 真っ赤に染まった川の、せせらぎの音だけが聞こえる。
ユーリッドは、ファフリを見つめて、呆然と立ち尽くした。


To be continued....