複雑・ファジー小説
- Re: 〜闇の系譜〜(ミストリア編) ( No.52 )
- 日時: 2021/01/28 11:27
- 名前: 狐 (ID: r1a3B0XH)
「アレクシアは、まだ、ルーフェンのこと、嫌い?」
「……嫌いとか、そんな安っぽい感情じゃないわ。自分でも、よく分からないけれど。ただ、好きじゃないのは確かね。だって私達、目の前で彼に同輩を殺されてるんだもの」
アレクシアは、目を細めて笑った。
そして、ルーフェンが出ていった方に顔を向けた。
「まあ、戦場での出来事だから、仕方がないとも思うわ。でもあの時、召喚師様はアーベリトの人達まで殺したでしょう? そのことを思うと、割り切れない部分もあるのよ」
ハインツが、黙ったまま首を横に振った。
「違う。ちゃんと理由、ある」
「言えない理由なんて、ないのと同じよ」
「…………」
言葉を詰まらせたハインツに、アレクシアはため息をついた。
「……教会の関係者でなくたって、シュベルテには召喚師のいない国を望む人は多かったのよ。だっておかしいでしょう? 国の存亡が、召喚師なんていうたった一人に委ねられてるなんて。……だから教会は、アーベリトを攻めたのよ。再び王都となって、召喚師ではなく国民による国造りを実現させるために」
そう言ってから、アレクシアは肩をすくめた。
「正直、簡単に勝てると思ってたわ。アーベリトなんて、召喚師がいるだけの街だったから。でも実際は、一瞬で皆消し飛んだ。……召喚師の前じゃ、どんなに大勢で挑んだってまるで相手にされてないって、その時思ったわ。世界で召喚師の存在が重宝されているのも、少し納得してしまった。ただそれでも、余所みたいに国の守護者だと崇める気にはならなかったわね。むしろあの姿は、守護者というより死神のようだった。……アーベリトの死神って、誰が言い出したのかは分からないけれど、彼にはぴったりのあだ名だと思うわ」
俯いて、ハインツは口ごもった。
「……シュベルテの人達が、ルーフェンを怨むのは、仕方ない。けど……」
アレクシアは、しばらくその言葉の続きを待った。
しかし、ハインツが完全に黙り込んだのを見て、苦笑した。
「……無駄話ね、不快にさせたならごめんなさい。でも大丈夫よ、少なくとも魔導師団は、召喚師様に盾つこうなんて思ってないもの。彼を良く思っていないのは事実だけど、今はそれ以上に、教会のやり方が気に入らないから」
ハインツが、ふと顔を上げた。
「教会が、国のこと後回しで、ルーフェンをミストリアに、送ろうとしたから?」
「まあ、それもあるわ。というより、そもそも召喚師を完全に消そうなんて、現実を見ていないイシュカル教徒共の戯れ言よ。あの時戦場に立っていた人間なら、きっとそんなことは言えないはず。アーベリトの王が死んで、結果的にはシュベルテが勝って王都になったけれど、召喚師の力がどれほど恐ろしいものか、私達はあの時痛感したもの。実際、戦力という形でなら、召喚師は必要だわ。理想論ばかり唱える教会の考えには、同意できない」
アレクシアは目を細めると、不敵に微笑んだ。
「だからね。今は、召喚師様に従うわ」
(※紙媒体より少し変更箇所あり)