複雑・ファジー小説

Re: ANIMA-勇者伝-【オリキャラ募集中】 ( No.135 )
日時: 2014/03/05 15:18
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: u/Zf4dZT)

第十四話 意味

 グライトは川村の愛刀を探しながらもソラの機嫌を伺っていた。
元々ソラはあまり自分の生い立ちや出来事などは語ろうとしない質だ、むやみに話しかけて無視されるより、間をよんでそれとなく話しかけた方が話してくれる可能性が高い。

「そっちにあったでござるか?」
「え? あぁ、こっちにはないよ。もうちょっと奥に行ってみよう。行くよ、ソラ」
「ん」

三人はさらに東の奥へと足を延ばす。辺りを見渡せばこちらを窺うように魔物が集まりだしていた。
あまり長居はしない方が良いらしい、そう考えたグライトは作業のスピードをあげた。それを感じ取ったらしい川村とソラも同様に早める。

「ないなぁ〜」
「ないでござる」
「こっちにもないぞ」

そんな会話を交わしながら三人は手を休めない。
グライトはだんだん和らいできたソラの雰囲気に少しほっと胸をなでおろした。

それから数分は立っただろう。

あたりの魔物が唸り始めるころ、川村の斬心刀はその姿を現す。

「あったでござる!」

やったー! そんな声をグライトとソラもあげる。川村は早速愛刀を腰に戻し、あたりを警戒しつつ、先に歩く。グライトとソラはその後ろに続いた。
すっかり機嫌が戻ったらしいソラ、グライトは今だと思い、帰り道ソラに話しかけてみることにした。

「ねぇソラ、ソラは旅が楽しい?」

グライトの質問にソラは頷く。グライトはしめたと内に思う。

「俺も楽しいよ、ソラはどんなことがしたい?」
「別に、特にない」
「そっかぁ……俺もないなァ。ところでさ、ソラはユーノの事をどう思ってる?」

ユーノと言う言葉にソラの眉がピクリと跳ね上がる。少し直接的すぎたか、そう思ったグライトだが、それ以外聞きようがない。

「……別になんとも」

ソラの答えはシンプルだ。その声に嫌悪感はこもっていなかった。
グライトは「そっかぁ」と言いつつ本題を切り出す。

「ソラはユーノの事が嫌いなのかなってちょっと思ってたから安心だよ。なんで仲良くしないの?」

グライトはソラの顔を覗き込む。フードをかぶっていてよく表情は読み取れなかったが、何となく困惑しているような様子だった。

「……わからない」
「ん? なにが?」
「……仲よくする方法がわからないんだ。あまり人と接した事が無いからな」

ソラは小さな声でそう呟き、そっぽを向いた。
グライトは至極単純なその答えに驚く。確かにソラは今まで何をしていたのか、それは知らないがあまり人付き合いがうまいとは思わない。
グライトはその言葉に笑顔になる。

「なにマヌケ顔してんだ」
「いやぁ、ソラから案外可愛い答えが帰ってきて驚いてるんだよ〜」
「か、かわいい? は? なにが!?」

目を見開き、顔を赤くするソラ。
グライトはそんなソラにかぶせるようさらに笑顔を向けた。

「そんな事俺が教えてあげるよ〜! 言ってくれればいいのに」
「うっさい! こんな恥ずかしい事言えるかバカ! つーかお前に一番知られたくないだろ! マヌケ!」

ソラはそう言って取り乱す。そんなソラを見てニコニコ笑っていると先頭を歩いていた川村が振り返り、指示をだした。

「もうすぐさっきの場所まで戻るでござるよ。二人ともはぐれないように!」

二人は揃って返事をし、先ほどの場所へ戻る。そこにはライガン、ミキ、ユーノが待っていた。無事巨鎚を見つけたようだ。
グライトは手を振りその三人を見る。三人もご機嫌だ。どうやらユーノの機嫌も治ったらしい。
今が丁度いい、そう思ったグライトはソラに耳打ちする。

「今、謝っておいで。俺が他の皆気引いとくからさ」
「やだよ」
「大丈夫だって! 素直は言葉が一番人に聞いてもらえるからね」
「だって俺悪くない。ユーノが勝手に……」

そうやって渋るソラを前に押し出し、グライトは言葉を付け加える。

「そんな事言ってちゃ仲直りできないよ。それにユーノは先に謝ったって言ってたよ。その時無視したの、ソラだろ?」
「無視してない。言葉が……なんて言ったらいいかわからなかっただけだ。それに謝られた意味もわからなかった」
「でも相手が無視って感じてるんならそれは無視になるんじゃないかなァ?」
「う……そ、そうなのか?」

もうひと押しでソラは謝りに行きそうだ。ミキ達に合流した川村もグライトとソラを呼んでいる。
グライトはそちらへ向かって歩く途中、早口でソラだけに聞こえる様にソラを諭す。

「ソラは言葉足らずな所があるからな〜……ちゃんと伝えなきゃ伝わらない事もあるんだよ。むしろその事の方が多い。ユーノは悪い子じゃない、俺はそう思うよ。だから、ソラの声もちゃんと聞いてくれるはず」

そう言って「ね」とソラと一瞬目を合わせるグライト。ソラは少し間を置いて考えていたが、力強く頷く。「たまには信じて見てもいいかもしれない」そう思ったからだ。
そんなソラをグライトは笑顔で見送る。後はソラとユーノの問題だ、グライト的にも一緒に旅をするのだから仲良くしてほしいという気持ちがある。

グライトとソラはそれから無事四人と合流し、先ほどソラに言った通りミキとライガンの意識をこちらへ向ける。

「ライガンさんはこの大陸に住んでいるんだよね? どんな所?」
「そうだな、一言で表そう! ここは恐ろしい! そして面白い所だ!!」
「それは一言って言うんですかね?」
「まぁミキとやら、細かい事は気にするでない。皺が増えるぞ」
「あ、拙者はそろそろお暇いたそう。ヨハネス殿がまって居るでござる」

早急に立ち去って行く川村を見送るグライト達。川村は早足にその場から居なくなった。それからまたグライト達の話は始まる。
ソラはグライトに言われた通り輪を外れユーノに向き直ってみた。ユーノはソラの視線に気が付いたのか、振り返り首を傾げる。

「その……」

ソラから話しかけてきた事が驚きなのか、ユーノは目を見開いた。
だが、なかなか要件を言い出さないソラ。言いにくい事なのだろうかとユーノは静かに待った。何を言われても大丈夫だという覚悟が見える。
ソラはそんなユーノに小さく頭を下げた。

「ごめん……なさい。色々、気分悪くしたようだから……」

ユーノの顔色を窺うようなソラの表情。初めてみたソラの表情にユーノは少し感嘆の声を漏らした。
それからぎこちない笑顔で「ボクもごめん」と謝るユーノ。ソラはその声と顔を見て安堵したように胸をなでおろした。そして思い出したように付け足した。

「あとさ、記憶が無いって言ってたろ? やっぱりそのまま放置しとくのはよくない……と、俺は思った。あんな言い方になったけど、俺も逃げてるから。一緒だなって思って言ったんだ。それが気分を悪くしたのならもう一度謝る」

ソラは頭を下げて反省した様子でそう言った。ユーノはそのしおらしい態度を見てどう思ったのだろうか? ただただ驚きを隠せないと言った様子だ。それと同時に、このソラと言う人物に自分の近い物を感じた。だからユーノはとびきりの笑顔で「気にしてない」と答えた。

「ねぇソラ。なら一緒に立ち向かってくれない? ホントはボクも怖かったのかもしれない。記憶が唐突に無くなって、どうしようって迷ってたのかもしれない。だから、一緒に戦ってほしい。ソラほどじゃあないかもしれないけど、ボクだってそれなりの過去がある。そうだよね……?」
「あぁ、そうだな。あ、じゃあお互いこの旅に意味が出来たんじゃないか? 自分に向き合うって言う意味がさ」
「うん!」

そこでユーノは思い出したような思案顔になる。何か引っかかる事でもあるのだろうか? ユーノはぼんやりとした赤い瞳を、今一瞬輝かせたような気がする。少なくともソラにはそう見えたみたいだ。
ユーノは真っ直ぐソラの瞳を見て、威勢よく口を開いた。

「でもグライトは渡さないから!」

唐突なその言葉にソラは戸惑いを隠さない。

「はぁ? 俺は別に……」
「絶対だから!」

ユーノはいつもの笑顔に戻った。そして話しながら歩きだしたグライト達の方へ駆けだす。
突然後ろから飛び付かれたグライトは思わず態勢を崩してしまいそうになっている。そんなユーノとグライトを見てソラはフードの奥で静かに微笑んだ。
照れくさい物を感じながらもグライト達の方へ合流するソラ。グライトの傍まできたソラは小さな声で呟くように言う。

「うまく伝えれたぞ……その、グライトも……ありがとう」
「どーいたしまして」

グライトは呑気な笑顔でそう言っただけだった。ソラはなんだか無性に心の底からほっとした。
ミキが次の場所へ行くのにライガンに案内してもらう事にしたらしい。再び大きな砂漠を抜ける事になるのだが、不思議と重い気分にはならなかった。