複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【オリキャラ募集中】 ( No.140 )
- 日時: 2014/03/05 21:18
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: u/Zf4dZT)
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真っ暗な幕が下りたような空を見上げ、グライトはため息を吐きだす。
最近グライトはおかしな夢を良く見る様になった。その夢でグライトはいつも黒い空間に立っている。眼前には洞窟があって、それは日に日に迫ってきているように近づいてくる。
ただその洞窟は、グライトから足を踏み入れようとするとその洞窟は一歩後退し、結局その洞窟がグライトに近づいてくるのを待つしかない。
そうしているうちに朝になり、目が覚めるのだ。
目がさめればその夢はぼんやり頭の片隅に存在し、なぜか妙にざわつく時がある。
リーブルは最近また何処かへ散歩へ行ったまま帰ってきていない。
その洞窟はリーブルがいる時は一切姿を現さない。
一体何なのだろうかと考えるうちに目が冴えてきて——はっきり言ってグライトは寝不足だった。
今日はたまたま夜の見張りに駆り出されたのだが、それは逆にグライトにとって助けとなったみたいだ。
この面倒な作業を早く終え、朝日が昇り、数分死んだように寝て、また歩きだすのが待ち遠しいぐらい。
そんなグライトにテントの方からソラが近寄ってきた。遠慮がちに隣に腰を下ろすソラ。グライトはソラの姿を確認し、首を傾げた。
「どうしたの? 眠れない? 魔物は今のところ大丈夫だよ、俺が見張ってるから安心して寝ていいよ」
グライトはそう言ってソラを安堵させようとする。だがソラはそこから動かず、足を抱えて座っている。
なにか言いたい事があるのだろうか? グライトはそう思い、黙ってソラが口を開くのを待った。
数分後、ソラはゆっくりと口を開いた。
「あのさ、前聞いてたろ?」
「ん? なにを?」
「俺の過去について」
「あぁ、うん。でも言いたくないんだよね」
そう言ってソラを見るグライトを、ソラは横目で見やる。
「……今から寝言言うから気にしなくていいぞ」
ソラはそう前置きをして欠伸をする。グライトは唐突になんだろうかと話しを待った。
「俺は、両親が嫌いなんだ。……否、人間と言うモノが嫌いなんだ」
ソラはそう言ってため息を吐きだした。その息は全てを諦めたような気だるげな雰囲気を窺わせる。
グライトは黙ってソラの言葉に耳を傾けている。顔は遠くの方を見つめていた。
「物心つく前から虐待されてたんだ。俺は……それは普通の事だと思っていた。他の子もそうなんだって思ってた。……だけど違った。現実、そんな奴一人もいなかった。俺の両親が特殊だったんだ」
ソラはグライトと同じ様に遠くを見つめた。きっと故郷を見ているのだろう。ソラは苦く、自嘲気味に笑う。
「ハハッ……バカだよなァ……ほんと、バカ」
消え入りそうな声にグライトは一瞬泣いたのかと思った。しかし、ソラを見ると空虚な物しかなかった。
いつものソラらしくない……だがそれも仕方ないのかもしれない。裏切られた時誰だって感じる哀しさが幼少だった事と、両親のおかげで人一倍強いのだろう。
ソラは現実に裏切られたのかもしれない。グライトはそう考えた。
「それから6歳のころ捨てられて、奴隷にされて——……ほら、ドラファー帝国って知ってるか? あそこ、あそこは奴隷制度って言うのがあってさ、俺はそこへ連れてかれて売られた。いまいち覚えてないけどあそこの王は気味の悪い奴だった。で、俺は見事買われた。皮肉にも女にな」
悔しそうな顔、苦虫をかみつぶしたような後味の悪さを引き連れて、ソラは続けた。
「女は母親を思い出すから嫌いだ。そして俺はある日……殺したんだ。俺は、主人となったその女をこの手で殺した。この刀でな」
手に持っている刀をソラは見つめた。あの時を思い出すように——。
グライトは一瞬ソラの瞳の中に狂気を見た気がした。そこから気まずく視線をそらすようにして、グライトは真っ直ぐ前を見て頷いた。実際は前なんて見えていない。ソラの気持ちを思ってグライトは少し気分を鎮める。
ソラはまた口を閉ざした。間が長く感じる。
たかだか数分だと言うのにグライトは居心地悪く感じた。
虐待、捨てられた、奴隷、そう言ったソラの顔は哀しみと諦めで歪んでいた。
グライトはそんな事が現実に起こりうるのかと一瞬懐疑心を抱いたが、嘘とは思わない。現実離れしすぎていてその悲しみはグライトにわからなかった。
「なあグライト……ウンメイって信じるか? カミサマは居ると思うか? ……カミサマって言うのはどうやって人のウンメイを決めるんだろうな……」
物悲しげな笑顔をグライトに向けたソラ。前の発言をかき消すように空笑いをして立ちあがる。
「……長い寝言を聞かせてしまって悪かった。じゃあおやすみグライト。気をつけろよ、お前は間抜けだからな、気を抜いたら魔物に食われるかもしれない」
ソラはそう言って自分の寝床へ戻った。その後ろ姿をグライトは見送る。なんて言ったらいいかわからなかった、どうしようもない無力感と意味のわからない罪悪感がグライトを支配した。
ソラがテントへ戻った。シャッと言うチャックの閉める音が妙に耳に残る。
グライトは再び前へ向き直った。気付かなかったが、一匹、魔物がこちらを窺うように近づいてきていた。
「リーブル」
何となく名前を読んでみる。
こんな小さな声ではきっとあの猫には届かないだろう——だがリーブルはいつの間にかグライトの隣に静かに座っていた。一瞬驚いたが、グライトはリーブルの頭をのんびり撫でる。
そして周りを見た。いつの間にか魔物に囲まれている。その狼のような、ライオンの様な魔物は一斉にグライトに向かって飛びかかってきた。グライトは懐から折れた木刀を取りだした。
「久しぶりに一仕事、しようか。ね、放浪猫さん」
「にゃあ」
リーブルは木刀に宿る。青い光を発して木刀は太刀のように長く、鉄板のように広くなる。
グライトは周りに飛んできている獣めがけてぐるっと一回りした。青い光は選考を散らし、魔物を舞いあがらせた。残った魔物はその威力に思わずうろたえ、後退した。
「キャンッ!」
魔物はその雄々しい姿からは到底想像できないような女々しい声を出して、ボトボトとグライトの上に降り注いだ。グライトはそれを見ながら哀しげな顔で呟いた。
「あまり殺生はよくないと思うんだけど……はぁ、やだなぁ」
グライトはそうして再び地面に腰を下ろした。隣にはリーブルが大人しく座っていた。わざわざ起こした焚き火はそろそろ消えそうだ。
グライトはその一晩、リーブルと久々に遊んでいることにした。遊んでいると時間を忘れる。陽はとっくに昇り、朝を告げていた。