複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【オリキャラ募集中】 ( No.157 )
- 日時: 2014/03/13 15:05
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: QlSid/7F)
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グライトとユーノがウェイターに連れられてやってきたのはルーレットの場所だった。赤と黒の何番に入るかを予想して金を賭ける王道で単純な奴だ。
席に着かされたユーノ。その隣でジュースを飲みながら眺めているグライト。だんだんこの空気にも慣れてきたのか、よそよそしい感じは無くなっていた。
ユーノとグライトの席の前に座っているのは、全身真っ白な軍人の様な男とサラリーマン風の男、そしてセクシーな服を着た女性だ。
店内は薄暗く、視界が悪いのでグライトとユーノは彼らの顔をはっきりと掴めない。
グライトはその暗さを利用し、セクシーな服の女性を遠慮なく眺めながらゲームの行方を見守ることにした。ユーノはそんなグライトの視線を追ってふくれっ面だ。
「ではゲームを始めますよ。今回ディーラーを務めさせてもらうのはこの私、ウェイターの薄利です。よろしくおねがいします」
薄利と名乗ったユーノとグライトを連れて来た男は、そう言って頭を下げた後、一回金を鳴らす。
その音と共に周りの席に居たギャンブラー達は一斉に金を前に押し出す。中の一人であるユーノも、臆面を見せず堂々としたものだ。
次に薄利はホイールを回した。そしてその回転と違う方向へボールを転がす。一連の作業を初めてみたグライトは、興味が出た様子で薄利の手つきを見ている。
沈黙の中、カラカラと回る玉はどんどんそのスピードを無くして行く。それらを生唾を飲み込み、皆は眺めている。
「No more bet」
二度の鐘が鳴った。終了の合図だ。
グライトはこれらの意味をユーノから事前に説明されていたので、雰囲気だけつかむことに成功する。
「Red 16」
薄利はあっさりとした様子で宣言した。
その声に、一斉に皆肩を落とす。ユーノも外れた。
そんな彼・彼女等を見送り、薄利はチップを回収する。ニヒルに笑ってもう一度するかとグライト達に目で確かめてきた。ユーノは当たり前と言った様子で睨みつける。
開始の合図がまた響く。
グライトはまた食い入るように薄利の手つきを見ていた。そこでふと違和感に気が付く。
それが何の違和感なのかグライトはわからなかった。
とりあえずぼーっと目の前に座っているセクシーな服を着た女性を見る。女性はその視線に気づいたのか、ウィンクをグライトに飛ばしてきた。グライトはそのウィンクを受け取り、隣に座っているユーノに小突かれた。
「あんな女どうせ汚い女に決まってる。騙されたらだめだよグライト」
小さな声でそう言ってユーノはまたルーレットを見た。玉は丁度止まりかけていた。
何度か繰り返しそんな事が続いていた。ユーノは勝ったり負けたりすっかりルーレットの虜だ。それは確実に向こうの計画に嵌められていると言う事に気が付いていない。
グライトはそんなユーノを横目に今が何時頃か気になりだす。かなり時間は立っているだろう。きっと外も陽が沈んで夜になっている。
ミキが怒っているだろうと思ったグライトは、何杯目になるだろうジュースを置いてユーノに話しかけた。
「そろそろ帰ろう?」
だがユーノは頑としてそこから動かない。顔は悔しそうにルーレットを眺めている。
「もうちょっとで勝てそうだもん! さっきまで勝ってたし!」
そんな事を言ってまた投資する。一体いくら使っているだろう? その金はどこから出てきているのだろう? そんな疑問を胸にグライトは一度だけと甘んじた。
その時——斜め前に座っていた全身真っ白で固めた軍人の男からトランプが数枚、薄利めがけて飛んできた。
鋭い切れ味を持ったそれは薄利が避けなければ刺さっていただろう。トランプは真っ直ぐ薄利の後ろの壁へと突き刺さった。
まだゲームの途中だと言うのに何だろうか? グライトは彼に注目した。ユーノもグライトの前に座っていた女性もそうだ。サラリーマン風の男は少し前に倒れたのでこの場にはいない。
「お前、ズルしているだろう?」
白い軍服の男はそう言ってディーラーの薄利を指差す。
「さぁ何の事でしょう? 言いがかりをつけるのなら出て行ってもらいましょう。それがいいですよ」
薄利は余裕と言った様子だ。その小馬鹿にした態度に白い軍服の男はさらに息を撒く。
「俺は……卑怯な手を使う奴が一番嫌いだ。お前、薄利と言ったな? 正々堂々と勝負をしてみろ。それとも——死ぬか?」
物騒な事を言う白い軍服の男。
薄利はオーバーリアクションを取るあたり、この客人に正面から勝負をする気はないらしい。
白い軍服の男はその様子を感じ取ったのか「フフフ」と不敵に笑う。そして勢いよく立ちあがった。
「俺は〝ジャドウ=グレイ〟賞金稼ぎをしている。この名前に聞き覚えのない奴はいない。俺に卑怯な手を使うなんて命知らずな奴だ」
そう言ってもう一度低く笑いだす。彼から放たれる殺気は今にも暴れ出しそうな危機感を持っていた。
最初グライト達はこのジャドウと言う男は気が違ったかと思った。(先ほどのサラリーマン風の男も、気が違ったため薄利に退場させられた。今頃は借金返済のため苦痛を味わっているそうだ。)
だが今回はそうでもないらしい。周りでグライト達を囲っていた客人の中から、一人声を上げた者がいた。
鶴の一声、一斉に逃げ出す客達。その声は誰の声だったのだろうか。
グライトの前に座っていたセクシーな女性もいつの間にか姿を消している。
尋常ならざる殺気を肌に感じたグライトもユーノに逃げようと言ったが、ユーノは事の成り行きを面白がってその席を立たない。
薄利はジャドウに挑発的な顔をしているが、それでも丁寧な物腰で語りかける。
「お客様、店内での暴力は厳禁ですよ。それに私はしがないウェイター……貴方様に勝とうなんてまんざら考えておりません。ゲームを続けましょう。楽しく、愉快に」
にっこり笑った薄利は、ジャドウが腰にさげていたサーベルを抜いたのを面白がっているようだった。
この薄利と言う男は掴めない、そう思ったグライトは少し薄ら寒い恐怖を感じる。
そしてグライトの感じた違和感は本物だったらしい。どうやらジャドウの言う通りこの薄利と言う男はズルをしていた。先ほど、ジャドウが身を乗り出した時机が少し傾いたのが見えてしまったのだ。
だが今はそんな事はどうでもいい。
ジャドウは本気で薄利に斬りかかって行く。薄利はその鋭い刃先を避けた。
それと同時にグライトはユーノの腕を掴んで走った。きっと巻き込まれてしまう、そう思ったからだ。
「ユーノ、逃げるよ」
「えぇ〜」
「危ないから! ……あのままじゃあ店まで壊れてしまうだろうね。それにユーノの身に何かあったら……!」
グライトは扉へ向かって走る。
店の扉を丁度出た時だっただろうか……中から悲鳴と頭の割れるような音が響いたのは。
グライトは扉の前に立って振り返る。ちょうど扉を突き破って先ほどのルーレット台が飛んできた所だった。ギリギリで避けたグライトは顔を青ざめさせた。
「ひっ! あっぶないなぁ……あ、ユーノ大丈夫? 思った以上に力入れて掴んでた」
「ボクは大丈夫。それよりこれってあれだよね、殺人沙汰って奴だよね……?」
「どうしよう……連絡した方が良いのかな? ここら辺一体を守ってる保安官とかに……」
「どうだろう? こんな所までいちいち警備する保安官なんているかなァ? いないと思うな、ボクは」
グライトとユーノは顔を見合わせて考える。
そんな所にどこからか馬の蹄が地面を蹴る音がした。
どこからだろうかあたりを見渡すと、ぼんやり娯楽街の強烈なライトに照らされて浮かび上がる影が見える。
グライトとユーノが見た影は、この国を守る保安官の一人「ロディ=カスター」だ。
彼は破天荒な保安官で、この国を本当に守っているのか少々疑問を抱かせる所がある。
ロディはいつもテンガロンハットをかぶり、愛馬に乗って娯楽街を駆けまわる。彼が走りまわると、街の被害が多大な事で有名だった。まるでその姿は砂漠に拠点を置いている盗賊そのものだった。
だが彼の正義感は尊敬に値する。だから巷では「最強の保安官」などと呼ばれているらしい。
ロディは腰につけたガンベルトから二丁拳銃を取り出すと空に二発鳴らす。その勢いのままグライトとユーノの近くまで愛馬で走ってきた。
「イーハー!! 正義の保安官ロディの登場だぜィ! 犯罪者はどこのどいつだ?」
威勢よく声を上げ、カジノの破れた扉をさらに愛馬で蹴破ると中へ入って行く。
グライト達は唖然と彼を見送る。少し気になった二人は、壁に張り付き中の様子をうかがった。
中は想像をはるかに上回るほどの悲惨な光景だった。