複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【オリキャラ募集中】 ( No.160 )
- 日時: 2014/03/16 21:43
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: bVlGyEWK)
第十六話 彼はなんだ?
乾いた拳銃の音が室内に鳴り響く——その音に気が付いたジャドウと薄利はほぼ同時に舌打ちした。
「おうおう会って早々舌うちとは何事だ? 俺が来たからには二人ともお縄にかかってもらうぜィ!! イーハー!!」
ロディは愛馬のスピードをさらに上げ、二人の間に突っ込んで行く。
二人は散々暴れたがまだ暴れたりないらしい、ロディの突進を後退する事でかわし、奇襲にかかる。
いつの間にか薄利の手には紅い刃先の短刀が握られていた。
ロディはそんな二人を眺め、面白がるように投げ縄を投げた。投げ縄は不思議な軌道を描き、二人の態勢を崩す。
そこでふと何か思い出したのか、指をパチンと鳴らして指を指す。
「へへ、思い出しだぜ。お前、ジャドウ=グレイだな? 最近巷を騒がせている賞金稼ぎ……そんでそっちの奴は確か」
ロディが言い終わる前に薄利は短刀を顔面に突き立てる。短刀は一瞬その刃を伸ばしたような気がした。ロディは慌ててそれを感じ取り、後ろに避ける。そして条件反射のように二丁拳銃を放った。
二丁拳銃の弾は見事薄利の頭に——そう思われたが、薄利はまだ立っていた。にこりと笑って薄利は後ろへ後退する。
「ハハ、私はしがないウェイター。ロディさんでしたっけ? 狙うならあちらの真っ白な軍人さんを狙えばいいでしょう? 彼が騒ぎを起こした張本人なので」
薄利はそう言うと短刀でジャドウを示した。ジャドウはそんな薄利に飛びかかってくる。シャドウの放つ鋭いサーベルの刃を薄利は短刀で軽く薙ぎ払った。
ジャドウはそれを見てニタリと笑う。
「俺は白くない……俺はしいて言うならグレーだ。修正してもらおうか」
ジャドウは薄利にそう告げた後、ロディを睨みつける。
「お前、邪魔するならば死んでもらおう」
赤ワイン色の瞳が一瞬獣のように光る。ロディは楽しそうに口元に笑みを浮かべた。
「俺は死にたくない……なら答えは簡単だ、俺が全員捕まえればいいことよ!!」
ロディはそう言って暴れ馬に再び火を付けた。好き勝手に暴れ出すロディ、それを容赦無い剣捌きで薙ぎ払うジャドウ。暴れ乱れる二人を眺めながら呆れる薄利。
しだいにロディもジャドウも周りが見えなくなってきたみたいだった。
薄利はその隙をついて一人戦線から外れる。何を思ったのか、薄利は真っ直ぐグライトとユーノの方へ歩いてきた。
グライトは壁の方でそんな薄利を見ながらキョトンとする。薄利はグライトとユーノに視線を合わせて告げた。
「手を貸して下さい。そうしたら借金は帳消しにします」
「は?」
グライトもユーノも状況が掴めなかった。
察しの悪い子供を冷たい目で薄利は見つめ、説明を付け加える。
「あの二人を店から出してとんずらするのに力を貸してもらいたいのです。そうでないと私も逃げられないのですから。貴方達もそれは同じですよ? 未成年がカジノで遊んでいたとなるとしょっ引かれますからねぇ?」
にこっと愛想よく笑って薄利はそう告げた。それを見て苦笑いで薄利に視線を送るグライトとユーノ。
「やりますか? やりませんか? なら……」
問いかける薄利。グライトは慌てて答えた。
「やりますやります! 警察だけは……!」
「なら決定ですね」
薄利は改めて詳しい作戦をグライトとユーノに伝える。
「貴方がたに囮をしてほしいのです。彼らの真ん中に飛び込んで気を引くだけでいい。後は私に任せて下さい」
伝えられた作戦の内容はざっくらばんとした物だったが、グライトとユーノは覚悟を決めて飛び出そうとした。
その時だった——グライトが以前見たような嵐の風が吹き荒れたのは。
それから間もなくして店内からロディとジャドウが跳ね飛ばされてきた。二人とも唐突な風を真に受け多少ダメージを受けた様子で立ちあがる。
グライトは思わずあたりを見渡した。もしかしたらミキが来てくれたのかもしれないと思ったからだ。
だがそこに居たのはミキではなく、藍色の髪と瞳を持った青年——もといグライト達の探し人であるエース・ブルーネルだ。
グライトはキョトンとした様子で行き場を失った勢いと覚悟を隅へと追いやる。
「えっと……」
「あぁ君がグライト君? 僕はエース・ブルーネルよろしく。国王の報告で此処に居るって聞いたんだけど……なんだか大変そうだったから手伝わせてもらったよ」
穏やかに微笑むエース。グライトは先ほどの風について尋ねてみた。
「僕は風の精霊だから好きに使えるんだよ。すごいだろ?」
ちょっと得意気にエースは胸を張る。
興味が尽きない様子のグライトを置いておき、次にエースはロディとジャドウに向き直った。
ロディとジャドウはエースを観察するように見ている。
「ここで暴れられたら困るんだよ。よかったら別の所に行ってくれるかな? でないと国王に言いつけるから」
国王と言う言葉にロディはピクリと反応する。
「すまねぇそれだけは……チッ、仕方ねぇな……おいジャドウ! 続きは国の外でしようぜ!」
ロディはそう言ってジャドウのいた場所を見たが、ジャドウはどうやら面倒なことになる前に姿をくらましたらしい。
「あぁ!! 逃がしちまった!! クソ野郎! あ! もう一人の野郎は?」
ロディはそう言って辺りを見渡す。薄利の事を探しているのだろう。だが薄利の姿もそこにはなかった。
グライトとユーノは薄利が先ほどまで隣に居たのにどこに行ったのだろうかとあたりを見渡す。
しかし事は遅かったらしい。薄利は完全に姿を消した。いったい何者なのだろうかとグライトは気になって仕方がなかった。
グライトの思考を邪魔するようにロディが地団太踏みだした頃、エースは何か書面を書きだした。
「ロディさん、損害賠償その他諸々の請求書は後に国王の元まで自分で持って行ってください。今回は警察の方へ請求しないでおきますので。じゃ、グライト君とユーノちゃん……だったかな? ミキさんとソラちゃんが心配してるから僕と一緒に帰ろうか。グレイシアに会いたいんだろ?」
エースはそう言って人ごみをかき分けその場から離れる。ロディも王宮の方へと馬を走らせその場から慌てて去って行った。
人ごみもいつの間にかなくなり、いつもの娯楽街になる。
どうやらグライト達は随分長い時間カジノに居たらしい。夜はすっかり更けて外は真っ暗だった。
グライトはユーノとエースと娯楽街を抜ける頃、思い出したように肩を落としぼやいた。
「……ここに居た事怒られるよなァ……」
ため息を吐きだすグライトにユーノも苦い顔だ。
そんな二人を見てエースは仕方ないと言葉を添える。
「……今回は黙っておいてあげるから。もうこんなとこ来ちゃだめだよ? ロクな目に合わない事は今回で学んだよね?」
その言葉にグライトとユーノは手放しで喜ぶ。
「やったぁ! よかったねユーノ。借金もなんだかんだでチャラになったみたいだし!」
「うん! 楽しかった!!」
笑いあうグライトとユーノにエースも思わず笑みがこぼれる。
そうこうしている間にミキとソラが泊まっている宿の方へ連れてこられた。中へ入るとミキとソラが呆れたような、心配したような様子で駆け寄ってくる。
エースはそんな二人に適当な場所を言って事をおさめた。グライトとユーノも謝り、晩御飯に呼ばれることにした。