複雑・ファジー小説

Re: ANIMA-勇者伝-【オリキャラ募集中】 ( No.163 )
日時: 2014/03/16 22:05
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: bVlGyEWK)

第十七話 秘宝を賭けて

 翌朝、エースに連れられてグライト達はアルバン帝国を出た。
砂漠の真ん中を横切り、ひたすらにエースの後を続く四人。丁度中心だと言われ、立たされた場所はどう見ても砂しかなかった。
グライトは周りを見渡しながらエースに確かめる。

「本当にここであってるの?」
「あってるよ。まぁもうちょっと待ちなよグライト君。もうちょっとしたら……」

エースの言葉を遮る様に砂に変化が現れた。
砂漠の砂はだんだん中心がへこんで行く。俗に言うアリ地獄という状態だ。
不安に思いつつ、グライトはエースの反応を待った。エースはその砂の上からどこうとしない。
グライトを尻目に、しびれを切らしたソラはエースに喧嘩腰で尋ねた。

「危なくないか? 大丈夫なのか本当に」
「安心して。もうちょっとだから。この下に行くにはこの方法しかないんだよ。何を思ったのかグレイシアがそう作ったんだから仕方ないよ」

苦笑いでエースはソラを見る。
砂はだんだん五人を吸い込んで行く。グライト達は息を止め、目を瞑った。

一瞬だった。

足元にある砂がグライト達の足を吸い込んだと思ったら、砂が吹き荒れだした。
そして——気付けばそこは砂の下、地面の中だった。

目を開けるグライト達。キョロキョロとあたりを見渡し、上を見上げた。

「うわぁ……! すごい、なんか綺麗だ!」

グライトはそう言ってはしゃぎ出す。五人の辺りに広がっていたのは高い天井、砂、砂で出来た柱や壁だ。

グライト達の上に広がっている砂の屋根。そこから光は少ししか届かないはずなのに洞窟はキラキラと光っていてお互いの位置を簡単に確認できる。
グライトは無邪気にエースに尋ねた。

「これって何が光ってるの?」

エースは穏やかな笑みで答える。

「光苔。この洞窟には沢山あるから松明とか人が手を加えた物はいらないんだ。それに上からの微かな光もあるしね」

エースはそう言って先陣切って歩き出す。複雑に入り混じる迷路のような洞窟の道に目印なんてない。だがエースは迷わずどんどん奥へ足を進めた。



 洞窟を進む途中、たびたび大きな生物が目に入るようになってきた。
そのグライト達よりはるか大きな虫の様な生物はキョロキョロとあたりを窺ったり、上へと頭を出したりしていて面白い。
だがユーノは虫が苦手なのか、苦い顔だ。

「気持ち悪いよぉ〜……グライト、待って!」
「ユーノ虫苦手なの?」
「うぅ〜……気持ち悪いし可愛くないもん」

ユーノはそう言ってグライトの腕にしがみつく。
そんなユーノを見て一歩前を歩いていたミキは一匹指差して説明をしてくれた。

「これはウバ。砂漠一体に広がっている突然変異種の虫ですよ。元々ちっちゃかったのがおっきくなって、驚異的な速度で繁殖したって言われてたり、元々この大きさだけど砂の下に住んでるからおっきくなったウバは人の目に映らなかったって言われてたりする不思議な虫です。主にこの虫が砂漠の問題であるアリ地獄や広がる洞窟の原因だったりします。今僕達が歩いている所はウバが作った洞窟なのか、守護神グレイシア様が作った道なのか……」

ミキはそう言ってはるか前方を歩いているエースを見る。

「エースさんなら知っているかも知れませんね。詳しい話しは彼に聞くといいでしょう。きっと面白いですよ。あとウバにはあまり手を出さない方がいいと思います。彼らはこの砂漠では比較的穏やかなんですが、一匹やっつけてしまったら群れで仇を取りにくるみたいなので……」

にっこりと笑ってミキは足を速めた。きっと興味が出たのだろう。エースの元へ足を進めた。
ミキの話を聞き終えてユーノはまたさらに恐ろしそうな顔でウバを眺めている。グライトはそんなユーノを気遣って声をかけてみる。

「まぁもうすぐつくだろうし、ユーノ虫苦手なら俺の腕掴んどくといいよ。それで気が和らぐなら……」

だが、グライトが言うまでもなく、ユーノは腕をきつく締めあげる様に掴んだ。心底苦手らしい。

「ちょっと、痛い……かな」
「ご、ごめん」

そのままグライトとユーノは足を速めた。遠くではエースが手招きをしていた。



 白い石で出来た扉を開けると、ぽっかりとただ空いているだけの穴が出てきた。その奥で一人の女性が椅子に座り、こちらの様子をうかがっている。
気の強そうな瞳、だが上品で明朗な雰囲気がそれを緩和している。エースは真っ直ぐその女性、グレイシアの元へ歩く。

「エース! 来てくれてありがとう。今日はお客様も一緒なのね」

グレイシアは手を合わせてグライト達をしげしげと眺める。

「この人たちはグレイシアに用があるみたいだよ。よかったら話を聞いてあげてくれないかな?」

グレイシアはエースの言葉に大きく頷き、グライト達の前へ立つ。

「初めまして。私はこのサブリア大陸を守る守護神、グレイシアです。で、話って何?」

グレイシアはそう言って小首を傾げた。
なんだかアメリアやダリダンとはまた違う、人に近い守護神だとグライトは少し思う。
ミキは前へ一歩足を踏み出した。

「僕からいいですか? 僕はこの歴史書を書いた人物を探しているんです。知らないですか?」

ミキがとりだしたのはライムに手伝ってもらって見つけ出した不思議な歴史書。相変わらず茶色の革表紙に金の文字でただ歴史書と書かれているだけだ。ミキは相当読みこんだのか、ところどころ紙が煤切れていた。
グレイシアはその歴史書をじっと見つめて考える様に瞳を揺らす。

「知ってる……はずなのに思い出せないわ。なんでだろう? エースは知ってる?」
「いいや、見たことないよ。その歴史書、そんな重要なものなの?」

二人して顔を見合せてミキを見る。ミキは少し肩を落として最後のページを開いた。

「ここ、空白なんです。この歴史書、まるで全部見て来たように書かれていいるんですが、何故か此処だけが真っ白で……で、この次のページ破り取られているんですよ。おかしいと思いませんか? 今まで細かいところまで詳しく書かれていたのにここだけないのか……そして何かを隠すように破られている……あ、僕は歴史とかそういうのが好きなので勝手に調べているだけなんですが、どうも腑に落ちない所があって……でも知らないなら仕方ありません。どうせ興味本位なので。ありがとうございました」

ミキはそう言って頭を下げる。
グレイシアは「気にしないで」とほほ笑み、それだけかと尋ねてくる。
グライトは手を上げて慌ててミキの後を継ぐ。

「あ、あと俺! 俺は秘宝を集めてるんだ。リーブル……黒い猫なんだけど今日はいないみたい。その黒い猫について行ったらモート大陸の守護神アメリア様に頼まれたんだ。七つの秘宝を集めなさいって……で、その秘宝、グレイシア様の所にあるはずなんだけど……譲ってもらえないですか?」

グライトはそう言って懇願するよう手を合わせた。
秘宝と言う言葉に、先に反応したのはエースだ。エースは眉間にしわを寄せてグライトを見る。

「そんな貴重なもの、譲ってくれって言われて譲れるわけないよ。アメリア様に頼まれたって言うのも疑わしいのに……」

そう言って首をふるエース。だがグレイシアは小首を傾げて何かを図る様にグライトを見ているだけだ。

少しの間、グライトの説得は続いた。頑なに渡さないと言うエース。何も言わず、ひたすらグライトとエースの口論を見守るグレイシア。

終わりのない話しに、とうとうグレイシアが口を開いた。

「私はいいんだけど……なにせ妹に頼まれたって言われちゃったら信じたくなるから。でもエースが納得いかないって言うならこういうのはどう? エースとグライト君で戦って勝った方の意見を聞き入れるっていう方法! このサブリア大陸、弱肉強食の世界……欲しいものは実力で奪い取って見せて?」

グレイシアは心底楽しそうにそう告げた。
グライトはうろたえる。エースはいかにも実力がありそうだ。カジノで二人の男を諌めた事もある。
グライトは不安げにミキ達を見た。

「それでいいなら頑張れグライト。後腐れなくて俺はいいと思う」
「ちょっと危険ですが……グライト君が決めるといいと思いますよ」
「そんな危ない事! グライトの代わりにボクが戦ってあげる! 怪我しちゃうじゃん!」

意見はバラバラだ。グライトはうーんと唸る。
エースはそれでもいいらしい。負けても勝ってもうらみっこなし、だが負ける気はないと言った様子だ。
グライトはグレイシアを見た。

「うーん……どうしてもそうじゃないとくれないんだよね?」
「そうね、そうなる。エースも準備万端みたいだし、後はグライト君の意思次第よ」

グライトはそう言われ、渋々と言った様子で頷く。

「わかった、じゃあそうするよ。でも俺の持ってる武器、リーブルいないとただのゴミだからなァ……お手柔らかにお願いします」

グライトはそう言ってエースに頭を下げた。
エースは笑顔で頷く。武器はグレイシアが貸してくれるようだ。
グライトはグレイシアの出してきた武器の中から比較的軽そうな細身の剣を選ぶ。それをもって少し振って手に馴染んだのか、エースと対峙することにした。