複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【オリキャラ募集中】 ( No.167 )
- 日時: 2014/03/18 14:18
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: bVlGyEWK)
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何度か響く鉄と鉄がまじりあう音。耳をつんざく様な音は確実に勝敗を決めつけている。
グライトは疲れてきていた。
それというのも、エースが思った以上に強かったからだ。エースは主に拳銃で戦う。風の精霊と聞いていたグライトは、てっきり魔法で戦うものだと思っていた。
エースは息が上がっているグライトを見て畳みかけるよう拳銃を撃つ。グライトはそれを始め避け切れず、腕や足をかすめていたが、今はタイミングを掴んだのかうまく刀で薙ぎ払う。
「だんだんわかってきたの? でもまだまだ序の口だよ」
「えぇ……やっと掴んできたのに……!!」
グライトは悔しそうに前へ足を踏み出す。力強くエースの近くまで飛んで行き、思い切り刀を振りあげた。
「おっと……!」
エースは一瞬反応が遅れたがうまく利き手を守り、傷を最小限に抑えた。
「面白いねキミって。なんだか強くなってきているみたいだ。器用なのかな?」
「わかんない。でも力仕事なら村でよくしてたよ」
会話を交えつつ、両者攻撃は止めない。
エースがまた拳銃を放つ。グライトは刀でその弾を切りつつ、その弾が速くなっている事に気が付いた。
その事を疑問に思いつつも横から切り上げる。エースは簡単に避けて綺麗に着地し、攻撃した後で隙があるグライトにまた弾を飛ばした。グライトはその速さに避け切れず、まともに腕に食らった。左片腕がやられた。力が入らない。両手で持っていた真刀は、右片手で持つ事になる。
元々平均以上の力がないグライトは、真刀を両手持ちにして力を二倍にしていたのだが、これではそうもいかなくなった。
その上畳みかけるようにエースの拳銃の弾が強く、速くなっている。グライトはそれを感じ取り、一瞬焦りを見せた。
「……!! やっぱり速くなってる! って……え、なんで?」
首を傾げるグライトを、少しからかうようにエースは笑った。
「僕は風の精霊だよ? 弾の速度を上げる、そんなこと周りの風を使えば簡単にできる。そうだろう? 速度が上がれば攻撃力も自然と上がる。そういうこと」
グライトはそれを聞いて「え」と苦い声を上げる。顔もちょっとひきつっていた。
「でも僕の弾をうまく避ける人はグライト君が初めてかなぁ。なんか悔しい……だから手は抜かないよ」
エースはそう言って何発かグライトに向かって撃ちこむ。グライトはそれと同時にそこから横へ飛び退いた。
弾は見事グライトの立っていた場所に穴をあける。数を数えれば六発になるだろう。グライトはそれを見て苦笑いだ。
「安心するのは早いんじゃないかな?」
エースは挑発的にそう言った。その時にはもう次の六発が撃ち込まれていた。
「いっ……!!」
弾は見事グライトに当たる。腕、足、肩、それぞれ複数の弾が穴をあけた。
思わずグライトは倒れそうになるが、ぐっと耐え、苦笑いの後何を思ったのか噴き出した。口は「いいこと思いついた」とでも言っているように動いた。
だがエースはそれに気づかない。
「何がおかしいの? 痛すぎて頭がマヒした? 大丈夫、僕はこう見えても治癒魔法も得意だから、後で治してあげる。だからこの勝負、僕の勝ちでいい?」
そう労わるエースだが、グライトは返事をしない。代わりに力強い踏み込みが繰り出された。
エースの近くまできたグライトは思い切り腕を振り上げる。エースはそれを拳銃で受け止めようと構えた。
だが、気付けばグライトの姿は真上には無く、横にあった。低姿勢でエースを見上げるグライト、左手には懐から取り出したのだろう、折れた木刀が握られていた。
木刀はそのままエースの横腹に見事入った。エースは目を見開く。
「かはッ……!!」
勢いよく木刀で薙ぎ払われたエース、思わずその場に崩れそうになるが、力を込めて横に飛んだ。そして苦々しい顔でグライトを見る。
「やるなぁ」
しかしそれだけでは致命傷には至らない。グライトも撃たれた左手を無理矢理使ったせいか、血が噴き出していた。エースは弾を入れ直し、容赦無く二発撃った。
二発の弾はグライトの真刀を持っている右手と、機能が失われていなかった右足を貫いた。
真に受けたグライトは小さく呻く。
「……へへ、勝てる気しねぇー……」
グライトはそう言って足から崩れた。目はうつろだ。出血多量で意識も朦朧としている。
そんなグライトを見て、思わずユーノは駆け寄る。ミキとソラも後を続いた。
「グライト! 大丈夫か?」
「す、すとっぷ! それ以上グライトを傷つけたらボクが許さないよ!!」
「二人ともあまり雑に扱うと出血量が増えます」
ユーノとソラはグライトの肩を抱えた。ミキはそんな二人を落ち着かせる。
駆け寄った三人を見てエースは手を上げて力無く笑う。
「僕も悪人じゃないから瀕死の人間を畳みかけないよ……治癒してあげるよ」
エースはそう言ってグライトにゆっくり近づく。ミキは困り顔でグレイシアに視線を送った。
「仕方ない……勝者エース! 秘宝は渡せない」
グレイシアはそう言って審判のように赤い旗を上げる。ミキはそれを見てほっとし、エースに指示を促す。
「グライト君を横に寝ころばせて。ゆっくりだよ、ゆっくり……」
エースが治癒しようと手を伸ばした。グライトはうっすら目を開けてその手を静止させる。
「ま、まって……まだ、まだ戦える気がする……ここで諦めたら……」
「もう無理だよ、グライト君の体は動かない。ちょっとじっとしてて、すぐ治るから」
エースは起き上がろうとするグライトを無理矢理寝ころばせると、呪文を唱えた。黄緑色の光が傷口へと集まる。
それが数秒続いたと思ったら、グライトの体にあった無数の傷は癒えていた。
「……ふう、治った。戦った後の治癒魔法はきついな……」
エースは呟き、ぐっと体を伸ばした。パキパキと骨の音が小気味よく鳴る。
そんなエースにミキは疑問を投げかけた。
「やっぱり秘宝はグライト君に譲ってもらえないのですか?」
エースは困ったように笑う。
「やっぱり秘宝って言うのはさ、膨大な魔力があるわけでしょ? それにこのサブリア大陸に存在している秘宝は他の秘宝と違って魔力が強いらしい。まぁ広いサブリア大陸の形を全て見守っているんだから、当たり前だよね。そんな力の強い秘宝を、まだ力をしっかり扱えていないグライト君に託すのはちょっと不安だよ。せめて僕に勝てるようになったら託しても問題ないだろうけど……」
ねぇとグレイシアに視線を送るエース。グレイシアも頷いて困ったように笑顔を向けた。
ミキは「そうですか」と納得したように顎に手をやる。
「まぁいつでもおいでよ。僕とグレイシアはずっとここに居るから、リベンジにでもさ。遊びにでもいいよ。それに僕は強くなったグライト君ともう一度戦ってみたい。今度は僕もグライト君もお互い本気でね」
その言葉にユーノとソラは顔を見合わせて首を傾げる。
「グライト、本気だったよね? ボクにはそう見えたんだけど……」
「あぁ俺も。余裕は見えなかった」
そんな二人の少女にエースは笑顔を向けて言う。
「いや、グライト君はもっと強くなるよ。素質がある様に僕には見えたし、せっかくある秘宝の力を使っていなかったからね。秘宝って言うのは一個所有するだけでもかなり魔力と力を使うんだよ。そういうものなの。きっと秘宝の使い方をしっかり理解すれば僕なんて一捻りさ」
快活に笑うエース。いまいちわかっていないようなユーノとソラの顔。ミキは理解したのかうーんと唸っている。
数秒後、グライトは目を覚ます。自分の体に穴が無い事を確認し、驚きの顔をしていた。
そんなグライトにエースは優しく笑いかけて言った。
「グライト君。またリベンジまってるよ」
その言葉を合図に、グライト、ミキ、ソラ、ユーノの周りに砂煙が立ち込める。
砂煙はエースとグレイシア、そして周りの景色を包み込み、四人の視界をわるくする。
エースとグレイシアはお互い信頼を向けるようにほほ笑みあっていた。そこに親密な空気が流れているような気がするのは気のせいでは無いだろう。