複雑・ファジー小説

Re: ANIMA-勇者伝-【オリキャラ募集中】 ( No.179 )
日時: 2014/03/26 17:07
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: 6sQlqYA7)



 しばらくそんな事をして歩いていると、人が一人近寄ってくる気配を感じた。昨日と同じような気配だ。
デジャヴだと感じながらもグライトはユーノとソラをかばうように構える。
足音は近くで止まった。林の中には霧が立ち込めてきていた。視界が悪く、その人物の姿は捕えられない。

「……貴様等、人間か?」

静かに響くその声は昨日の間抜けな声とは似ても似つかない。ニルヴァーナじゃないと感じたグライトは警戒を解かなかった。
グライトの後ろからユーノが身を乗り出してその声の主を探しながら答えた。

「それがどうしたって言うの? ボク達はただここを歩いているだけだよ」

「ニンゲン……」そんな恨みのこもった呟きが聞こえたような気がした。その次にはグライト達の丁度真上に雷が落ちてきていた。
地を裂き、グライト達を貫こうと落ちてくる雷の威力は測れない。
グライトは的確に三人の位置に落ちてきた雷をギリギリでかわし、あたりを慌てて見渡す。

「ひっ!! ちょ、敵じゃない! 敵じゃないよ!」

青い顔でグライトは弁明するが、声は聞き入れてもらえないらしい。
次々と襲いかかる恐ろしい雷撃にユーノもソラも慌てだす。
声がまた響く。低く、恨みのこもった声だ。

「しぶとい……! 侵略者が!!」

声はグライトの近くで聞こえた。グライトは慌ててそちらを向くが、そこに姿は無い。
そうしているうちにどこからか急に激しい風が吹いてきた。その風はグライト達の体を切り刻むようにぶつかってくる。
グライトは風が吹いてきた方向を探した。
風が吹いているのは逆さまの木とまっすぐのびた木の間からだった。霧が一段と濃いそこに人が立っている。殺気は肌に感じた。
見つけ出したグライトは後ろのユーノとソラに声をかけた。

「ユーノ! ソラ! 俺を中心に左右に飛べば風から逃れられるよ!」

その言葉にユーノとソラは頷き、出来るだけその場から離れるよう左右へ飛んだ。見事激しい風は避けられた。ユーノとソラの代わりに近くに生えていた木が切り刻まれる。二人はそれを見てほっと一息ついた。
唯一指示を出したグライトはその激しい風を避けずに、その風の発生源へ真っ直ぐ駆けて行く。皮膚は綺麗に裂けている。だがグライトは痛がりはせず、攻撃してくる相手の姿をしっかりととらえた。

「リーブル手伝ってくれ!」

叫ぶとどこからか「にゃあ」と言う声が聞こえ、グライトの持っていた折れた木刀が青く光った。

グライトがその青い剣を振り下ろすと、地面が割れるような音がした。そして激しい風はやむ。グライトの刀は大槌に受け止められていた。
その大鎚に続き、霧の中から出てきたのは無地の仮面に白い法衣。グライトはそのたたずまいに一瞬怯んだが、力を緩めず尋ねた。

「貴方がこの大陸の王だよね……?」
「くたばるがいい」

グライトの質問には答えず、代わりに大鎚が大きく振りあげられた。グライトはその大鎚を受け止めようと構えるが、圧倒的力の差で振り払われた。
簡単に投げ飛ばされて太い木にぶつかったグライト。それを見てユーノは飛び出そうとしたが、それをソラが止める。きっとユーノではかなわないと思ったのだろう。動向を見守るようソラはグライトと風の間から出て来た男を見た。

この無地の仮面に大鎚を持った男は、マケドニア大陸の王であるとされている。名は「ゼロ」と言う。
ゼロは「インフィニティ」と言う特殊な種族の王を務めている。魔力が強い者が王として自然と認められているようだ。
インフィニティと言うのは魔力がずば抜けて高い亜人の事を指すらしい。現在は偏見や差別によりこのマケドニア大陸へ追いやられ、数年経った。
ゼロは幼いころ人間に拷問などの類を受けたため、極度の人間嫌いになっていた。ゼロが唯一話せる相手、それは残り少ない種族のものとニルヴァーナと言う特殊な存在だけだった。

ゼロは一切グライト達の方へと体を向けない。拒絶の壁を張っているようだった。
木に投げ飛ばされたグライトはそんなゼロの様子を無視し、再び起き上がりゼロに向かって青い剣を構えなおす。

「昨日、ニルヴァーナと言う人に出会ったよ。あの人は貴方の仲間だよね?」

ニルヴァーナと言う言葉にピクリと反応するゼロ。だが言葉は発しなかった。

「ニルヴァーナと言う人は人間なの? あと、ここはどこ? 俺たちはサブリア大陸に居たはずなんだけど……もう一つ、ミキ……茶髪で黒のロングコートを着てる人間がここを通らなかった?」

ゼロはその質問に少し間を開けた後答えた。きっとニルヴァーナと言う言葉がそうさせたのだろう。

「……お前たちの前に通った人間などしらない。ここはマケドニア大陸と言う。サブリア大陸など、等に通り過ぎている。この近くにある大陸はセントリア大陸と言う鼻につく人間が沢山いる大陸だ」

そこまで言って口を噤む。

「教えてくれてありがとう。じゃあ早くセントリア大陸に向かう。だから、このマケドニア大陸から抜け出す道を教えて? この大陸なんか変だよ。木が浮いてたり、泉の上に炎が浮いていたり……あげく同じ道を何回も通っていたみたいで、ついに迷子になったんだ」

グライトの言葉にゼロは短いため息を吐きだした。
だまって指差す方向を見てグライトはパッと顔を明るくした。

「ありがとう!」

グライトは嬉しくなり駆けより、ゼロの手を思い切り握り締め、また跳ね飛ばされていた。鈍い音が響いたのは気のせいでは無い。

「気安く触るな。汚らわしい」

手を布で拭きながら殺気を放ちだすゼロに、グライトは慌てて謝った。
その様子をどこからか見ていたのか、笑い声が聞こえてくる。聞いた事のある声だとグライトは思った。
それもそのはず、昨晩聞いたばかりの声なのだから。
ゼロはその声を探し、見つけたのか声をかけた。グライトと言葉を交わした時より、幾分優しげな声だ。尊敬も込められているのだろう。
ニルヴァーナは笑い声を上げながら近づいてくる気配だけを漂わせた。そして耳の近くで足音が聞こえたと思ったら、またいつの間にかグライトの後ろに立っていたようだ。
グライトは驚き少し飛び跳ねた。

「ははは、ゼロ! 探したぞ。とゆーか一連を見ていたのだが……久しぶりじゃないのか? お前がにっくき人間と声を交わしたのは。なんか面白いな! キミ、グライト君だったよね? なかなかやるじゃん『I』見直したぞ! 『Me』が外まで送ってあげよう!」

ニルヴァーナはそう言ってグライトの背中をバシバシと叩いた。グライトは痛いと言いつつ、話がまとまった事に喜んだ。

グライトの後ろの方で話を聞いていたユーノとソラも殺気が止んだと姿を現す。ユーノはグライトに駆けより、背中を確認する。

「大丈夫!? グライト! 怪我は?」
「あはは、ユーノ大袈裟だなぁ。俺だって男だし大丈夫だよ」
「よかったぁ」
「話はまとまったみたいだな、なら連れて行ってもらおう。ミキもここへきていないみたいだし……一体あいつはどこに行ったんだ」
「それはとりあえず置いとこうよ、ソラ。きっと大丈夫。ミキさんだからな、うまくやってると思うし」

三人は一段落ついたと安堵し、先の方を歩いているニルヴァーナへと駆けよる。ゼロも距離を置いてだがついてきてくれるようだ。

「お前達が何するかわからないから見張りだ」

そう言っていた。


 後から聞いた話だが、ニルヴァーナはインフィニティから祭られている古の一族「スキアヴォーナ族」の最後の生き残りらしい。
インフィニティやソレイユの民が生まれるはるか前からこの大陸に存在していた。文明開化と人間の天下が生まれ始めた頃、その役目を終え仲間は他界して行ったのだという。
インフィニティ達から祭られているのは住処を追われた彼らに手を差し伸べたから、そこから始まった。言わば彼らの英雄だ。

グライトはそこで性別について尋ねてみた。ニルヴァーナから返ってきた答えは「性別は正確には無い」の一言。
その理由はニルヴァーナの一族、スキアヴォーナ族が繁栄するために用いた方法が「模型に魂を吹き込む」と言うグライト達には想像もつかない事だからだ。その方法は色々あるが、まぁ到底人間にはまねはできないと言う。

なんだか謎の多そうな種族が共存している場所、それがマケドニア大陸。きっと歴史の表にはかかれないだけで裏では結構活躍してきたのだろうとグライトは想像する。

そうして無事マケドニア大陸からは脱出できた。

「まぁなんかあったら手伝うよ。また遊びに来てね〜!」
「もう来るな。人間なんてうんざりだ」

そんな声に見送られ、何度もお礼を告げたグライト達は「セントリア大陸」へと足を踏み入れた。
セントリア大陸と言うのは裕福な人間が集まって出来たと言われている。ここにもきっと守護神は居るだろうグライトはそう予想して歩いた。そして歩いていると気付く、一気に大陸の雰囲気が変わった事に。
心配事も多そうだが、今は好奇心と興味がグライト達を支配していた。