複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【更新】 ( No.202 )
- 日時: 2014/04/09 21:26
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: uQH0nqZ2)
第二十一話 怪盗と追いかけっこ
グライトはベッドから体を起こす。外はすっかり太陽が昇り、窓からは朝日を迎えていた。ベッドの端でグライトと一緒に寝ていたリーブルの姿はもう無い。
自分の服を見てぐっしょりと汗を掻いている事に驚く。身体はだるく、まるで寝ていなかったかのような疲労感だった。
目を覚ますため宿屋に取り付けられているシャワーを浴びに行くことにしたグライトは廊下に立つ。
ひんやりとした廊下の雰囲気は温暖な気候を無視しているような温度の低さだ。
グライトはその廊下を抜け、共同スペースとして設けられている風呂へ入った。シャワーから出てくるお湯はグライトの強張った体をほぐしていく。
やっと緊張が溶けたグライトはそのまま服を着替え、食堂へと向かった。
食堂へ入るとヨハネス=シュークリームがいた。その隣にサブリア大陸の森で見た川村猫衛門も居る。二人はどうやら聞きこみをしているようだ。
グライトに気付き二人は手を振っている。グライトは手を振り返し、二人の元へ足を進めつつ、誰に何を聞いているのかとよくよく目を凝らすと、二人に絡まれていたのはリュウだった。リュウは二人の勢いに押されていたが、力になってやりたいと言う意志が垣間見えているのがよくわかる。相変わらずお人好し、そう思いながらグライトは少しほほ笑んだ。
近くまでたどり着いたグライトは三人に朝の挨拶をする。
「おはようグライト君だったよね? ちょっと聞きたい事があるんだけど時間を貰っていいかな?」
ヨハネスは切れ長の瞳をぎらつかせる。きっと犯人を追いつめる時もこういう瞳をしているのだろう。
グライトは「大丈夫」と言って話の流れを聞いた。
ヨハネスの話をかいつまんで言うと、どうやら昨日ヨハネスが追っていた手品をしながら物を盗むという怪盗がまだ捕まっていないという話しだった。ヨハネスは、それはそれは悔しそうにかわいらしい顔を歪めている。
怪盗はまだこの周辺に居るらしい。今日中にでも捕まえたいのでと言う事で朝早くから聞きこみをしていたようだ。
「何か知っている事とかあるかなぁ?」
グライトはそんなヨハネスに「残念だけど」と首を振る。ヨハネスは肩を落とした。
悩ましげなグライトとヨハネスの雰囲気よそに川村とリュウは妙案を思いついたとばかりに同時に手を叩く。
「なぁグライト、今日暇だったよな? 観光ついでにその怪盗とやらをひっ捕らえるの手伝ってやろうぜ! 俺は朝一でヨハネス達に捕まって詳しい話まで聞いたんだ、そしたらもう無視できないだろ?」
リュウの言葉を後押しするように川村も言う。
「グライト殿には毎度助けてもらって申し訳ないのだけども……そうしてもらえると拙者もヨハネス殿も助かるでござる。この通り、手伝ってはくれぬであろうか?」
川村は深々と頭を下げた。普段飄々としている彼が悩ましげに頭を下げると言う事はそうとう困っているのだろう。
グライトはそれを察して、リュウの巻き込まれ体質も察して、彼らを手伝う事にした。観光も勿論忘れていない。
こうと決まればさっそく用意が必要だった。まずユーノとソラを起こしに部屋を訪ねる。
二人は同室で仲睦まじ気に穏やかな寝息を立てていた。そんな二人を起こすのは悪いと思ったが、グライトはとりあえず要件を告げて外へ出なければ心配をかける事になってしまうので起こす。
二人は寝惚け眼でグライトを見た。ユーノは数秒グライトの訪問に思考停止していたが、ハッと顔を上げると恥ずかしそうに乱れた髪を手で梳かす。
「ちょっとリュウ達と怪盗を捕まえてくるね。二人は買い物がしたいんだっけ? アマリアさんに連絡付けておくから三人で買い物行っておいでよ。そうだ、リィナさんにも連絡しておこうか? 後、俺達も一応情報収集とかもしておくけど、そっちでもしておいてくれると助かるな。じゃあ、起こしてごめん、で、勝手に部屋入ってごめんね。行ってきます」
グライトはそう告げるとまだ眠そうなソラとユーノの部屋を出た。ユーノは付いて行くと言っていたが、危ないかもしれないと言う事でグライトは断った。
部屋の外で待っていたリュウとヨハネス、そして川村は話しが付いたという報告を受けて外へ出る。
長い一日が始まろうとしていた。
◆
街は朝だと言うのに賑わっている。
グライト達は主に市場やせり場など情報が行き交いそうな所を中心に回った。この手段を考えたのはヨハネスだ。グライト達も効率的だと言う事でそれに賛成した。
市場ではあまり収穫がなかった怪盗の情報だが、セリ場へ行くと驚く様に情報が入ってくる。目撃したと言う人物もいた。
その人物に、容姿はどうだったか? どんな服装をしていたか? 手品はどんなものなのか? と適当に質問を投げかける。一つ質問すれば百は返答が返ってくるとはよく言ったものだ。セリに居た人達はよくしゃべる。そしてその輪は広がり、グライト達がなにも問うていないと言うのに沢山話してくれた。それはまるで明朗快活な国民性を現しているようだった。
「怪盗は男だったぞ!」
「いや、女かもしれねぇ。スポットライトに照らされて出てきたときは中性的な顔をしていたからな」
「俺も見たぜ! そいつ、宙でふっと跡形もなく消えたんだ」
「それを言うなら俺はビルの窓から空へ駆けて行く怪盗の姿を見たぞ!」
「服装はタキシードだったりスーツだったり燕尾服だったり……とにかく動きにくそうな服装だ」
「いつも片目だけ銀の仮面で隠しているんだ。変な仮面だったから覚えてる」
それぞれの意見をヨハネスはじっと聞いてメモに書き留める。
これだけでも大対怪盗がどんな人物かと言う想像がつく。グライトは色々な想像を膨らませつつ、手品の種はどんなものかと好奇心を沸き上がらせる。
「きっとリィナさんみたいに幻想的な世界が広がるんだろうなぁ……」
そう呟いたグライトにリュウは「何が?」と尋ねる。
リュウと話していたグライトの元に、ヨハネスと川村が戻ってきた。二人とも目をらんらんと輝かせ、少し興奮気味に鼻息を荒めている。
「グライト君、リュウ君! 良い情報が入ってきたよ! なんと、今晩このリッテム切っての大富豪“ メイリーン・アドラ ”の豪邸に予告状が届いたらしい! メイリーンの自慢のダイアモンドで出来た時計を盗むってさ!」
「それも今日開かれるパーティーの最中に! 拙者、是非行ってみたいでござる!!」
二人はそう言ってきゃいきゃいと騒ぎ出す。グライトも二人の様に瞳を輝かせてリュウを見た。
「危なくねぇか……?」
年下のグライト達を心配するようそう呟いたリュウ、だがその意見は軽く流される。
「行ってみようよリュウ! 俺怪盗見てみたいし!!」
グライトもすっかりその気になってヨハネス達と騒ぎ出す。
うーんと悩ましげに首を傾げるリュウだが、彼の正義感に火がついたらしく今夜そのパーティーを尋ねる事に決めた。
そうとなれば準備が必要だ、もっとたくさんの情報を集め、出来るだけ綺麗な服を身に纏うため四人はセリ場を後にした。