複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【更新】 ( No.204 )
- 日時: 2014/04/10 15:54
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: uQH0nqZ2)
第二十二話 怪盗の回答
ダイアモンドで出来た時計の位置をとりあえず確認できたグライト達。周りを警備している人達に聞いたところによると怪盗は十二時を回るころ、丁度パーティーのフィナーレに現れるらしい。
グライトは怪盗の登場を今か今かと待ちわびていた。そんなグライトに打って変わってヨハネスや川村らは冷静だ。
「あと何分?」
「あと五分だ。気を引き締めろよ、グライト」
リュウに確認し、自分も時計を見るグライト。パーティー会場はここからは見えないが、どうやってフィナーレを確認するんだろうかと疑問を浮かべていると、鐘がなる。
「おでましだ!」
ヨハネスの言葉を合図に部屋一杯に撒かれる白いガス。グライト達は口元を覆いつつ時計から目を放さない。
そして——ドォンと言う大きな音と共に時計が入れられていたガラスが破裂した。ガラスの破裂と共に魔結界も破壊されたらしく、酷い風圧がグライト達を襲う。
「時計が!!」
ヨハネスは慌てて時計に駆け寄る。それに川村も続いた。
そんな中、グライトとリュウは我が目を見張る。
なんと、ダイアモンドで出来た重い時計が浮いていたのだ。どこから遠隔操作を行っているのか? これは魔法なのか? それとも手品なのか? グライトは時計に近づき、あたりを見渡す。
「あそこに!!」
グライトは窓に映る影を見た。窓はそのまま破壊され、室内にとある人物が入ってくる。
「やぁ今晩は。今宵の宴はとても派手ですねぇ?」
何処かで聞いた事のある抑揚のない声。そして半分仮面に隠れているが、その顔には確かに見覚えがあった。
「貴方が……怪盗?」
ヨハネスは詰め寄る。初めてみる怪盗に感動しているようにも見えた。
「ぼくが捕まえる!!」
勢いよく飛び出し、怪盗に飛び付くが、簡単に避けられた。
川村がそれをカバーするように剣を抜き、斬りかかる。
「おっと物騒な……今、貴方達に捕まっている暇は無いのです」
怪盗は余裕な声色でそう言うと、宙に浮いていた時計を一睨み。すると時計はポンと言う音を立てその場から姿を消す。
「ではさよなら。可愛い探偵さん達、それと……グライト君」
怪盗は小さな声でそう言って笑う。グライトは面食らって反応が遅れた。
怪盗はそのまま窓から宙へと浮かぶとそのままいつの間にか外でパーティーをしていた客人達に頭を下げる。
「おいグライト、知り合いか!?」
リュウは怪盗を見つつ、グライトの背中を叩く。
「あれ……薄利さんだ……」
「はぁ? 誰だそいつ」
「サブリアのアルバン帝国にあるカジノでウェイターしてたんだ……なんでこんな所で?」
グライトは疑問が尽きないもののまだ空中で遊んでいる薄利を見て慌てて駆けだす。
「何をするつもり……!?」
ヨハネスの横を通り抜けたグライトは窓枠に手を駆け、足を乗せる。身を乗り出してヨハネス達を振り返った。
「ちょっと聞きたい事があるから」
グライトはそれだけ言い残し、窓から飛び出した。ヨハネスは驚きで目を丸くしている。
窓枠を強く蹴りあげたグライトは薄利に向かって手を伸ばす。落ちれば即死亡、だがグライトの腕は運のいい事に薄利の腕を掴んだ。
「え……あぶなっ……!!」
薄利はいつもの落ち着いた表情を少し崩し、驚きの声を小さく上げた。グライトはそれでも腕を放さない。
「聞きたい事が……ってか引き上げて!! 怖い怖い!!」
グライトは自分のしている事を振り返り、我に返って恐ろしくなる。薄利は慌ててグライトを引っ張り上げた。
「ふぅ……あぶなかったぁ……」
「危なかったって……とんでもないですね、グライト君。一歩間違えれば死んでいましたよ」
グライトは薄利の両腕にぶら下がるようにして一息ついた。薄利は呆れる様にして息を吐きだす。
「質問、と言いましたよね? なんでしょうか? 出来れば早急に帰りたいのですが。ほら、最近ぶっそうでしょう? 知ってましたか、あの客の中にサブリアのカジノに来ていたジャドウ=グレイと言う人が混じっている。今にもここへ跳んできそうな彼の顔。あの人です」
そう言って視線を送る薄利。チラリと地面を見るグライト。確かに見覚えのある赤ワイン色の瞳がじっと薄利を眺めていた。そしてなにより今の居る場所、その高さに気を失いそうになりつつも薄利を見やる。薄利はそんなグライトの様子を想定していたように少し笑った。どうやらわざと地面を見させたらしい。
性格悪いなと感じつつグライトは力強く質問した。
「薄利さん……何者なの? なんか知らないけど、どうも引っかかるんだよね」
グライトがそう言うと薄利はいつもの愛想笑いを浮かべる。
「さぁ、何者だと思いますか? ヒントは貴方の人生に関わりがあると言う事ぐらい。……質問はそれだけですか」
静かに問う薄利。グライトは少し考えるがいい言葉が思い浮かばず押し黙る。
薄利は「では」そう言った薄利はグライトの手を放した。グライトはその行動に驚き目を見開く。
「ま、まってまってまって! せめて、せめて地面近くで落として!! 飛びついた事は謝るけど!! それって、酷くない!?」
慌ててそう言い薄利の袖を掴むが、薄利は何でもない様に手をブラブラと振る。その振動でさらにグライトの体はずり下がる。
「ほら、落ちて落ちて。怪盗は颯爽と消え去らねばかっこ悪いでしょうに」
面白そうにそう言う薄利。グライトは軽く涙目だ。先ほど確かめた地面までの距離、きっと大怪我では済まないと本能で感じとっている。
だが無念。
「あ」
グライトはあっけないその言葉と共に手を滑らせ、真っ逆さまに地面へと落ちて行く。
(死んだ……)そう感じたグライト、とたん地面の方から悲鳴が上がった。
「グライト! あのやろう!」
リュウは窓からそう叫んで慌てて部屋を出たようだ。ヨハネスと川村は怪盗を見て何か言い合っている。
「川村君、あそこまで飛んで行けないの!?」
「拙者でも不可能はあるでござる! それよりグライト殿を助けねば!!」
「後ちょっとで届きそうなのに!!」
悔しそうに歪められたヨハネスの顔を最後に、グライトは目を瞑った。怪盗はそんなグライトを面白そうに見て消えて行く。見事ダイアモンドの時計を奪い取って——。