複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【更新】 ( No.205 )
- 日時: 2014/04/10 15:58
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: uQH0nqZ2)
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目を覚ましたグライト。まず視界に入ったのはお花畑……ではなく、白いところどころに傷がある天井だった。
自分は助かったのか?
まだ何処か痛む体を無理矢理起こし、あたりを見渡す。どうやらそうらしい。グライトは現在白いベッドの上に座っていた。
「グライト!!」
グライトが起き上がると同時に隣に座っていたユーノは抱きつく。
「よかったぁ! よかったよぉ!!」
ユーノはそう言って涙を流している。グライトはそんなユーノを落ち着かせ、どうなったのかと冷静に尋ねた。
ユーノの話によると怪盗はあの後その姿を忽然と消したらしい。あれが手品なのか、それとも魔力が含まれるものなのかは定かではないが、人一人を消そうとするには膨大な魔力が必要だと言う事を考えれば手品なのだろうか?
運よくグライトが落ちてくる真下に居たリィナは魔力を放出させ、地面に生えている雑草を成長させ、ネットの様にしてグライトを助けてくれたそうだ。グライトはお礼を言おうと体を持ち上げる。そんなグライトをユーノは留めて後で来ると言った。
ヨハネスは怪盗を取り逃がした事により闘志を燃やしたのか、今日も足取りを調べている。グライトの体を気遣っていたが、そのためにお見舞いに来れない。ついでに言うとグライトが今いる場所はリッテムの大きな病院。腕は確かだとメイリーンの紹介でここへ搬送された。消えた時計は今どこにあるのかは分からないが、メイリーンはあんなものどうでもいいと大盤振る舞いをしてくれたので警察らは損害を被らないで済んだ。
一連の流れを聞いたグライトは頷き、とりあえず生きていた事に感謝する。
それから間もなくしてリュウ、リィナ、ソラがやってきた。三人はグライトを見るや否や飛びついていく。
「ありがとうリィナさん」
「いいよ、これで借りは返したよ」
にこりと笑うリィナは今日も儚い雰囲気を伴っていた。見惚れそうになるグライトを現実に引き戻したのはリュウだ。リュウは興奮した様子で告げる。
「それにしてもすごいなグライト。まさかあんな高さから捨て身で飛び出して怪盗を捕えようとするなんて感心だ」
リュウはそう言ってグライトの肩を叩く。グライトは「ははは」と笑いながらも自分の行動に驚いている。もしかすれば死んでいたかもしれない、そんな言葉が頭をよぎり消えた。
リュウの隣に大人しく立っているソラはまじまじとグライトの生存を確認し、安堵している。グライトはソラを安心させるためにこりと笑ってみた。ソラも軽く笑みを交わす。
「……でも結局怪盗は捕まらなかったな」
ソラの言葉に肩を落とす一向。だがユーノは明るく「ヨハネス君達がどうにかしてくれるよ」と言って話を締めくくる。
グライトはまだぼーっとする頭で怪盗、元い薄利の言葉を考えていた。
(自分の人生に関係するってどういうことだろう? ……まさか、黒雲が関係してるのかな? ……まさかねぇ)
自分でそう思い、苦笑いをする。そこでユーノは思い出したように手をたたいた。
「そうだ、ヨハネス君に調べてもらったんだけど、ミキとクウゴ……ドラファー帝国にいるらしい。なんでそこに居るかまでわからないんだけど、確かにそこに居るって。ねぇ、ドラファー帝国に向かう?」
確かめるようなユーノの声。グライトは迷った。ドラファー帝国、奴隷売買が盛んな国、ソラが嫌がるんじゃないだろうかと心配したからだ。
そんなグライトの心境を察してかソラはあくまで冷静にグライトに告げる。
「別に、なんともないからそこへ向かおうぜ。あの二人になんで突然消えたかきかなきゃならないだろ?」
ソラの顔を見るグライト。はっきり言って「大丈夫だ」と言う顔は欠片もしていなかったが、ソラがそう言うならとそこへ向かう事にした。
「俺もついてってやろうか、グライト。どうせ目的なんて無いし、またお前と過ごすのも悪くないからな。それにドラファー帝国はあまりいい噂を聞かない。そんな国、納得いかないからな」
快活に笑うリュウ。リュウが付いてくる、それはとても助かると言う事でお願いした。
「そう言えばアメリアさんは?」
「アメリアちゃんはもうちょっとしたら食べ物持ってきてくれるはずだよ。心配してたからね」
リィナの言葉に笑顔が漏れるグライト、同時に金銭感覚の無さそうなアメリアの姿を思い出し心配にもなった。
だがそれは口に出さず、置いておく事にした。
数分後現れたアメリアと談笑、明日、明後日ぐらいにはこのリッテムを出ると言うと驚いてはいたが、また何処かで会おうと約束した。
そしてグライトは無事検査も合格し退院する事になる。宿屋の方へ戻るとリーブルが憮然とした態度でベッドに横たわっている。そんなリーブルを少し撫でるとグライトはまた薄利の言葉を考えた。いったい何に巻き込まれるのだろうか? 出来るだけ平穏にと願い、その日は寝る事にした。あの毎日見ていた黒い洞窟はパタリと音が止んだように夢に出てこなかった。